9 / 398
第一章
第9話 リザルト
しおりを挟むフゥッ……フゥッ……。
息を整える浅く短い呼吸がやけに大きく聞こえる。
まだ戦闘開始から五分ほどしか経っていないが、思いの他体感時間が長く感じられる。
それは信也がそれだけ集中していたという事を示唆しているだろう。
「なんとか……いけそうだな」
そう呟く信也の周囲には三匹の蝙蝠がばっさばっさと飛び交っている。
致命傷を負った蝙蝠はいないが、それぞれ小さな傷は随所に散見される。
初め信也の前に現れたのは一匹の蝙蝠だけだったのだが、すぐにも後続の蝙蝠が追い付いてきて今では多対一を演じさせられている。
信也は初戦闘で複数の敵に対して上手く立ち会えている自分自身に若干の違和感を感じながらも、時折少し離れた所で戦闘してる他のメンバーを気に掛ける余裕すらあった。
(中学の頃に柔道か剣道かの体育の授業の選択で剣道を選んではいたが……。これはそんな事は関係ないだろうな)
信也は日本にいた頃は特にこれといったスポーツに打ち込んだという経験もなく、トレーニングなども時折ジムで汗を流す程度で、積極的にやっていた訳でもない。
とてもではないが、一キロ以上の重量の剣を五分ほど振り回したというのに、軽い呼吸で済ませられるような身体能力は持ち合わせていなかった。
そもそも最初に剣を持った時には、重さを特に認識もしていなかったし、剣を振り回した時にもそれ自体にさほど違和感を覚えなかった。
(これも全てスキル"剣術"のおかげなんだろうが……)
などと思考しながらも体は飛び込んできた蝙蝠を袈裟斬りする。
今まで大きなダメージを負う事のなかった蝙蝠であったが、この攻撃によって体を斜めに大きく切られ、ついには地面に墜落する。
「残り二匹か」
と信也が残りの蝙蝠に視線を向けると、丁度信也の後方から走りこんできた北条が、無造作に左前方にいる別の蝙蝠の、羽部分を掴んで引きずりおろす。
と同時に、北条の右手が何度か赤く光ったかと思うと、あれだけ暴れていた蝙蝠が嘘のように沈黙して地面へと落ちる。
ジジジッ……。
更に右前方にいた蝙蝠にも、電気のような音を発しながら、飛んでいく紫電の矢が向かっており、避ける間もなく蝙蝠へと命中する。
信也が先ほど斬りつけた蝙蝠に止めを刺している間に、北条と由里香もそれぞれ蝙蝠に止めを刺しており、これでどうやら敵は全滅したようだ。
「ふぅ……。なんとかなったか」
蝙蝠が光の粒子となって消えていったのを、驚いた様子で見つめていた信也だったが、ようやく一息ついて改めて周囲を見渡す。
すると、少し離れた所で何やらメアリーにお礼を述べている龍之介の姿が見えた。
女子中学生コンビはさっきまで戦闘していたと思えないほど、きゃいきゃいとはしゃいでいる。
北条は光の粒子となって消えた蝙蝠のいたところを回り、何やら回収をしているようだ。
やがて作業を終えたのか信也の元に近寄ってくる北条に、
「何をしていたんだ?」
と短く問いかけると、北条は魔法の袋からそれら回収したブツを取り出し、
「ドロップ品の回収だぁ。ゲーム的ではあるが、どうやらこの世界の魔物は倒すと光の粒子となって消えて、ドロップアイテムを落とすようだなぁ」
北条が手にもっていたのは小石と何らかの肉の塊だ。
ご丁寧に肉の塊は何らかの葉っぱによってくるまれている状態だ。
こういう形で出てくるという事は、余り考えたくはないが、今倒した蝙蝠の肉という事であり、また食用にもなるかもしれないという事なのだろう。
「しかも見ての通りはじめっから葉っぱに包まれた状態で落ちてやがったぁ。それと後こいつは……。多分〈魔石〉とか、そんな感じの奴だろうなぁ」
「〈魔石〉……?」
訝しむ信也の問いには答えず横目に通り過ぎながら、龍之介のいる方へと歩いていく北条。
すでにそこには戦闘が終わった、と判断した戦闘不参加組も集まり始めていた。
仕方なく信也も北条の後を追う。
そして全員集まった所で先ほどの戦闘についての報告と話し合いがはじまった。
戦闘自体が短時間だった事もあり、報告といっても多くはなかったが、
・蝙蝠は倒すと光の粒子となって消える。
・倒すと〈魔石〉を確実に落とす。
・魔石以外にも北条の拾った肉や、龍之介が倒した蝙蝠などは牙なんかも落としていた。
・味方がやられても一向に逃げ出す個体はいなかった。
といった事が報告され、その後の話し合いでは信也を始めとしてこの手の知識に疎い者もいるようなので、大まかなファンタジー知識が共有された。
まず、〈魔石〉と思われるこの小石は大抵魔道具などの燃料に使用される、地球でいう所の原油などに近い――固形なのでどちらかというと石炭が近いかもしれないが――ものではないか? という事。
冒険者と呼ばれる何でも屋が存在し、魔物を倒して得た〈魔石〉を売るというのは冒険者の収入源の一つだ、という事。
魔物を倒せばレベルが上がって強くなったり、スキルを使い続ければスキルレベルが上がってそのスキルが強くなる、だのといった基本的な事。
それらはあくまで既存のファンタジー作品のよくある設定というだけで、この世界がそうだとは限らないのだが、喜々として話している龍之介にその事を突っ込む人はいなかった。
「……まあ、大雑把には理解できた。結局"ステータス閲覧"とやらもできないようだし、後は実際に俺らが実地で慣れていくしかないな」
「ちなみに由里香ちゃんは魔法を使っていたけど、MP消費ってどんな感じ? だるさとか精神的に辛いとかってある?」
先ほどの戦闘では具体的に何が出来るか把握できず、後衛の位置で戦闘を観察していた咲良の問いに、少し考えた様子の由里香は、
「ん~~、特につらいとかはないですねぇ。【雷の矢】ならあと十回位は問題なく使えそうだけど~、何十回も使える気はしないかな~?」
その会話を聞いていた信也は、余り乗り気ではなかったが改めて各人の能力を確認してから探索を再開しようと意見を述べた。
最初にスキルを明かさなかった者とは再び言い争いにはなったが、モンスターがいつ襲ってくるか分からない状態で能力を隠している余裕もないだろう、との信也の説得によって重い口を開いた。
「俺は……。"闇魔法"というのを選んだ」
ぼそぼそとした声で話す石田はそこで口を閉ざす。
「ん? それだけなのか? 各人スキルは二つずつではなかったか?」
信也の問いかけに、陰気そうな顔を更に苦み走った表情にしながらも、再びぼそぼそと独り言のように話し出す。
「"闇魔法"だけでも戦闘には参加できる……。これ以上手札を明かすつもりは、ない……」
相変わらず協力的ではないその態度に黒いものが信也の心中によぎるが、強引に押さえつける。
「……そうか。確かに俺の覚えた"光魔法"のスキルには【光弾】という攻撃系の魔法があるようだから、似たような感じの"闇魔法"にも同じように【闇弾】があってもおかしくはないな。では次からは後衛での援護を頼む」
「…………」
返事も返さず後ろに引っ込む石田。
続いて信也の向けた視線を受けて話し出したのは、一人宝箱から苦無が出ていた百地楓だ。
「あ、あの……、私のスキルは"影術"っていう奴です……。た、多分今の所直接攻撃はむ、無理そうです……。すいません……」
「いや……まあそれは別に仕方ないがもう一つのスキルはどうなんだ?」
「そ、その……。それはっ、すいませんっ!」
楓のその返事を聞いた信也は、思わず眉間に指をあてて軽くトントンと叩く。
「ふぅ、わかった。とりあえず後で"影術"については検証しておこう。で、次はあんただが……」
と長井へと発言をうながす信也。
その信也の視線に一瞬表情が気色ばむが、すぐに表情を元に戻すと淡々と答え始める。
「私は悪いけれど、二つとも戦闘向けのスキルではないわ。まさかこんな事になるなんて思ってなかったからね。で、役立たずはこの場に置いていったりでもするのかしら?」
強気な発言をしている長井であったが、その表情は微かに強張っている。
しかし付き合いのある者ならともかく、見ず知らずの他人にソレと分かるほどの変化ではなかった為、この場でその事に気づいた者はいなかった。
「いや……無論そんな事は言わないさ。とりあえず戦闘の際には、後衛の人と一緒に纏まって身を守ってくれ」
そう信也は告げると、次に各人が持つスキルをこの場で検証しておこうと持ち掛けた。
だが話し始めようとした矢先に割り込んできた者がいた。
「え、ちょっ! 俺のスキルは聞かないの!?」
0
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~
日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!
斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。
偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。
「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」
選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる