どこかで見たような異世界物語

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第一章

第10話 スキルの検証

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 信也の司会進行に対し、お笑い芸人のツッコミのような声を上げたのは龍之介であった。

「え、いやお前は……」

 と言いよどむ信也。
 基本的に礼儀正しい信也であるが、この短時間ですでに呼び方が「お前」になっている辺り、龍之介に対する印象を物語っていると言えるだろう。
 そこへ別方面から声がかかる。

「あんたはどうせ"剣術"なんでしょう?」

「い、いやそうとも限らないだろ! スキルって色々種類があるようだし?」

 咲良からの若干冷たい口調にしどろもどろに答える龍之介。

「……で、龍之介君のスキルは何なんだ? 明かすつもりがないならさっさと次の話に移るが」

「よーく聞いてくれました! まあ俺も最初は明かすつもりはなかったんだけどな! そうまで言われたら仕方ねーから教えてやるよ」

 周囲の面倒臭ぇ奴だなーという視線をものともせず、ノリノリで続ける龍之介。

「俺のスキル名は…………じゃーん! その名も"剣神の祝福"だ! 効果の方は……多分だけど、剣の上達速度が上がりやすいとかそんな感じ? だと思う!」

 スキル名を告げた時とは逆に、その効果に関しては奥歯にものが挟まったような物言いであるが、"ステータス確認"も"鑑定"もできない彼らには、スキルの効果は「ただ何となく」にしか分からない。
 魔法スキルに関しては、幾つか魔法名らしきものが脳裏に浮かんだりするので、芽衣の【雷の矢】のようにいきなり実践できたりするし、効果についてもぼんやりと脳裏に浮かぶ。
 しかし龍之介の"剣神の祝福"については本人が述べた程度にしか認識できないのは確かなようだ。

「あ、ちなみにもう一つの方のスキルは秘密な! どうしてもって言うなら、なんかそれにふさわしい情報なりなんなりをくれるなら考えてやるよ」

 いい加減龍之介の扱い方が分かってきた信也が、がははと笑っている龍之介に「はいはい」と言いながら、先ほど試そうとしたスキルの検証について語りだす。
 通路のど真ん中ではあるが、必要性を理解した彼らは早急に自身のスキルを試しはじめた。その結果判明した事は以下の通りだった。

 『北条』
 ・成長
 気のせいかもしれないが、蝙蝠戦後に若干体の調子が良くなった?
 ・ライフドレイン
 赤い光を発して触れている対象の生命力を奪う。自身がケガをしていた場合はその際に回復効果もある。

 『細川メアリー』
 ・回復魔法
 今の所傷を治す【癒しの光】しか使えそうにないが、龍之介から「回復職っつったら、状態異常回復も当然できるっしょ」と言われ、改めて意識してみたメアリー。
 すると、今はまだ使えないが、後もう少しで基本的な状態異常回復はいけるかも、という手ごたえ? のようなものは感じた。
 ・メディテーション
 短時間試してみたが、体感できる効果はほとんどなかった。

 『長井』
 二つともスキル不明。

 『百地楓』
 ・不明
 ・影術
 影のできた部分から、黒い手を生み出して相手の足などを掴ませる事で行動阻害ができる【影の手】。他にも自身の影を操作できる【影操作】(操作するだけ)、自身の存在感を薄くして注目を浴びにくい状態になる【薄影】など。

 『太田龍之介』
 ・不明
 ・剣神の祝福
 なんか、剣の扱いがすげー上手くなれそうな気がするっ!(本人談)。

 『石田浩明』
 ・不明
 ・闇魔法
 MPを無駄に使いたくないと、二度ほど【闇弾】を撃って効果を確認だけした。他にどんな魔法が使えるのかは明かさなかった。

 『和泉信也』
 ・剣術
 剣を扱えるだけの筋力を得るのと同時に、初めて使うはずなのに体が動作を覚えてるような感覚で剣を扱う事が出来た。
 ・光魔法
 光の球を飛ばして攻撃する【光弾】と周囲を照らす【ライティング】を確認。
 【ライティング】は何か物に張り付けるように使用するのが効率が良さそうだった。

 『足利慶介』
 ・ガルスバイン神撃剣
 名称的には剣が必要に思えるが、どうも必要ないらしい。
 使おうと試してもらうと、苦しそうに呻いて口を押え始めたので、途中で中断。
 本人曰く「すごく苦しいけど頑張れば使えるかも」
 ・水魔法
 【水弾】という水の球を打ち出す魔法と水そのものを作り出す【クリエイトウォーター】を確認。
 水の球と甘く見た龍之介が試しに一発喰らってみたら、吹っ飛んだ。
 メアリーにしこたま怒られていた。
 【クリエイトウォーター】はその名の通り水を作り出す魔法で、水弾で生み出した水はすぐに消えてしまうのに対し、こちらは消えることはないようだ。飲み水としても使えそうだった。

 『里見陽子』
 ・アイテムボックス
 皆の持ってる魔法の袋よりはかなり多くものを収納できるようだ。
 ・結界魔法
 不可視の壁で覆われた領域を作り出す【物理結界】を確認。最大範囲四メートル四方の空間(天井部分も覆われていて大きさや形も調整可能)を覆っていて、石を投げられた程度なら弾き返す。ただ、調子に乗った龍之介が数回剣で殴りつけたら結界は消滅した。
 陽子にしこたま怒られていた。
 他に魔法を防ぐ魔法結界などが存在はしそうだが、まだ使えないようだった。

 『武田由里香』
 ・身体能力強化
 地球にいた頃と比べあり得ないほど強化されたようだが、まだかろうじて現代人の最高レベル位には留まっているようだ。
 ・筋力強化
 身体能力強化との相乗効果で、恐らく筋力に関してだけは同じ地球人で敵う者はいないと思わせる程の怪力。
 龍之介に腕相撲を挑まれた結果、龍之介の腕が一瞬で地に着いて「腕がああ!」と泣き叫んだ後、ぷらんぷらんとしていた腕に治癒魔法を受けながら怒られていた。
 対戦後、龍之介は悄気返っていた。

 『長尾芽衣』
 ・雷魔法
 対蝙蝠戦でも使っていた【雷の矢】の他には何も使えないようだ。
 ・召喚魔法
 龍之介の蘊蓄によれば作品によって様々な召喚形態があるようだが、試しにやってみた蝙蝠召喚が一発で成功。同時に二体まで召喚できるようだが、雷魔法に比べて消費MPが多いようだ。

 『今川咲良』
 ・エレメンタルマスター
 本人は精霊と関係していると思っているようだが、今の所使い方が分からないらしい。
 ・神聖魔法
 今の所【キュア】という魔法だけで、効果はメアリーの回復魔法とほぼ同じようだ。



 検証を終えて判明した事、推測される事は幾つかあったが、中でも一番重要だと思われたのは、初めの方に行われたメアリーのスキル検証時の出来事だろう。
 メアリーは当初、状態異常の回復という発想がなく、龍之介の発言によって改めて自らの能力を意識した。
 すると「現在はまだ使えそうにないが、その内使えるようにはなりそう」という確信、というか感覚のようなものを覚えたのだと言う。
 現在は魔法系統であっても一つしか魔法が使えない者もいるが、これも単純に発想が足りないだけの可能性があるという事だ。

 その事に気付いてからは、スキル検証時に龍之介を始めとしたファンタジー知識を有する者達に、スキル名から連想される事を伝えてもらいながらの検証となった。
 実際にその助言によって楓などは三つもの"魔法"――楓の場合は"影術"との事なので"魔法"とは違うのかもしれないが――を発見するに至った。


「これで大体検証結果は出揃ったな。後はこの結果を元に隊列を決めようと思うんだが……」

 信也のその呼びかけに、再び話し合った彼らは次のような隊列を組むことに決めた。
 まずは先頭を進む前衛として「北条」「由里香」「信也」「龍之介」。
 その後ろを地図を描きながら、戦闘時にはサポートを行う「楓」。
 次にマジックユーザーである「芽衣」「石田」「慶介」と回復要員である「メアリー」「咲良」。
 最後尾では戦闘開始後に「陽子」が【物理結界】を使って非戦闘員である「長井」と引きこもる。

 【物理結界】の中から攻撃魔法を撃ちまくるという案も出たが、後方に配置する結界では、射程距離と射線の問題があるんじゃないか、と先ほど実際に【雷の矢】を撃っていた芽衣からの発言もあり、取り消される事となった。

「まあ、こんなもんでいいだろう……。それじゃあ早速移動を再開しようか」

 思いの外時間を取ってしまったが、これも必要経費だと割り切り先頭を切って歩き始める信也。そこに、

「あの~~、この子達はどうしますかぁ~?」

 と、間の抜けた声で先ほど召喚した二匹の巨大蝙蝠を両脇に引き連れた芽衣が尋ねる。

「む、そうだな……。一匹は万が一結界が破られた時の為に里見さんの傍に。もう一匹は真っ先に敵を発見できるように、前衛の少し前を先行させようか」

「わかりましたぁ~~」

「では行くか」

 芽衣の間延びした声と、巨大蝙蝠が近寄ってきた為思わず「ひぃっ!」と声を上げた陽子の声を背に、信也は前へと進むのだった。

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