何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その八十五

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 ※※※

「ここか……」

 駅近くにあるとある有名塾。今日はバイト休みなのでここに来てる。立派な建屋で五階建てビルのフロア全てがこの塾の所有になってるみたいだ。既に母さんが申込手続きをし終わってくれてたので、俺は窓口で受付をするだけ。塾は高校卒業するまで続ける予定だ。

「一応母さんには、塾に志望校を渡しといて貰ったけど……」正直若干不安だ。学校以外で勉強するのって、家か図書館くらいで、塾に行くのは初めてだし。どういう評価をされるのか。学校では一応それなりの成績だったから多少自信はあるんだけど。とりあえず、通うからには無駄にならないよう頑張らないと。

 ……東京の大学に通うために。

 よし、と俺はビルの入口前で気合を入れるため自分の頬をパンパンと叩き、いざビルの中に入っていく。自動ドアが開いて中に入るとすぐ左側に、休憩所? みたいな、自販機があって長椅子が置いてあるところから、何やら揉めてる声が聞こえてきた。

「だから私はあんたに興味ないんだっつの!」「俺は君みたいな可愛い子、興味津々なんだけどなあ」

「そもそも私はここに勉強しに来てんの!」「そりゃ塾だから当たり前じゃん。だから俺と一緒におべんきょしようよ」

「嫌だって言ってんでしょ!」「何でさ? さっき引っ越してきたばかりって言ってたじゃん。友達いないんでしょ? じゃあ俺が友達になってあげるからさあ」

 聞き覚えのある声と、それとどうやら塾に来てるのにナンパしてる男。ここのスタッフは注意しないのか? とフロントの方を見てみたが、どうやらあの休憩所が死角になってるみたいで、しかもドタバタ忙しそうにしてて気づいてないみたいだ。

 はあ、と俺はため息付きながら、その二人の方に向かっていく。そして絡まれてる当人、山本は俺を見るなり、ぱああと顔を明るくしてササっと俺の方に来て腕にしがみついた。

「ちょ! 何やってんだよ」「いいから。私に合わせて下さい」

 俺が抵抗しようとするも山本は小声で俺にそう言ってから、「ちょうど彼氏が来たから! あんたはお呼びじゃないよーだ!」と、とんでもない事を叫びやがった。

「ケッ。んだよ、彼氏持ちかよ」と、山本をナンパしてた男は俺を一睨みし、渋々ビルから出ていった。

「もういいだろ。離せよ」「おっと。失礼しましたー」

 そう言って腕から離れ、ふぅ、と息を吐く山本。つか、彼氏とか言うなよ。まあ状況見りゃ分かるけどさあ。余計な誤解されんの嫌なのに……もう後の祭りだけど。

「ちょうどタイミングよく武智先輩が来てくれて良かったぁ。あいつ塾で勉強中も、ずっと私の横にいて凄くしつこかったんで困ってたんですよねー」そんな俺の心配をよそに、山本はそう言ってから、ありがとうございます、とペコリ頭を下げた。……ま、そうやって素直に謝るならいいか。俺は頭をポリポリ掻きながらいいよいいよ、と返事する。

「つか、山本もこの塾通うの? ここ進学塾だぞ?」そう。ここは俺みたいな三年生が、大学受験を目指して通うような塾だ。そりゃ一、二年生から通う生徒もいるけど、うちの学校はそもそも進学校なので、うちの生徒がその学年から通うって事はあまりない。

「いやあの学校、結構頭いいらしいじゃないですか。私ついてく自信なかったんで通おうかなあと」

 成る程。そういや山本って転校生だもんな。なら納得か。てか、部活だけじゃなくここにも来んのかよ……。ちょっと憂鬱だなあ。

「というか、武智先輩がここにいるって事は、私と同じく通うんですか?」「まあね。俺は普通に受験対策だよ」

 ほうほう、と何やら納得してる山本。

「じゃあ、私時間合わせますんで、部活帰り一緒にここに来ましょ! さっきみたいな奴に絡まれると困るし」

 ええ~、と俺はあからさまに嫌な顔をしてしまう。それを見た山本はムッとして突っかかってきた。

「あのねぇ武智先輩? 私みたいな超絶美少女が誘ってあげてるんですよ? もっと喜んだらどうなんですか?」「そう言われてもなあ。俺別に山本に興味ないしな」

「……そういう事はっきり言っちゃうんだ。武智先輩って結構デリカシーないですね」「デリカシーの問題かよ」

 そもそも俺には柊さんという、超絶美少女の彼女がいるんだよ。いくら山本が可愛いと言っても、彼女いる俺が他の子に興味わくわけねーじゃん。

「とにかく! 次回から私と一緒に通う事! もうそう決めたので」何やらプンスカしながら山本は、そう言い残して塾ビルから出て行った。つーか何勝手に決めてんだよ。……でもまあ、さっきみたいな奴がまた山本に絡んでくる可能性もあるしな。部活のマネージャーだし、仕方ないか。

 と、俺が強引な山本に呆れため息付きながら受け付けに行こうとすると、山本がまた戻ってきた。今度は何だ?

「そういや武智先輩! 連絡先交換するの忘れてました! ほら、スマホ出して下さい」「……」

 ええ~。俺はあからさまに渋ってしまう。だって柊さん以外の女の子と連絡先交換って抵抗有るし。つーか考えたら俺、スマホに入ってる連絡先の内女性って、姉貴と母さん、それに柊さんだけだった。安川さんでさえ知らないや。それなのに山本の連絡先入れるってのはちょっと。最近知り合ったばかりなのに。

「何渋ってんですか? 一緒に行くなら待ち合わせとかで連絡先わからないと困るでしょ? ……あーやっぱり。私みたいな超絶美少女と連絡先交換するって緊張するんでしょ?」「いや、そうじゃない。はっきり言ってそれは違う」

「きっぱり否定しすぎ! ほんっと武智先輩女心分かってない」「きっとそれは違うと思うぞ」

 ……ま、いいか。確かに山本の言うとおりだし。俺は渋々ながらスマホを取り出しロックを解除する。すると山本はすぐさま俺のスマホを奪い取り、ササっと登録してしまいやがった。

「これでよし! んじゃ次回から宜しくです!」「はいはい」

 俺は呆れながらスマホを山本から返して貰う。そしてそれを確認した山本は、何かやり遂げたようにスッキリした顔で塾ビルから出ていった。てか、よく考えたら、これから塾行く時あいつずっと一緒なのかよ。それって余り良くない気がするが……。でも、今更断るのもなあ。

 ※※※

 いやぁ、まさか武智先輩があの塾に来てるとは思わなかった。本当に偶然。ビックリした。でもああやって声かけてくる鬱陶しい奴を排除するにはちょうどいいね。ある意味ラッキーだ。

 久々に学校行く事になったから、中途で前の高校辞めちゃってる私は、勉強が途中で止まっちゃってるので、夏休みの間に出来るだけ勉強追いついとかないいけない、と思って、わざわざこの進学塾を選んで来たんだよね。武智先輩が言うように、転校先が進学校だからってのもあるけど。

 それにしても、K市来て初めて連絡先交換したのが武智先輩だなんてね。本当なら新しく通う学校で、同性の友達が出来て、そっちが先かと思ってたけど。フフフ。なんか笑っちゃう。あ、そっか。さっき武智先輩、連絡先渋ってたのは、茶髪ボブで黒縁メガネの可愛い彼女がいるからかな? ま、とりあえず、日向さんに言われた事はぼちぼちこなせそう。

 しかし、武智先輩とは本当よく会うよね。私待ち伏せしたりしてないのに。……もしかして、これって運命だったり?

 ※※※

『そっか。塾通うんだね』「とりあえず大学は行きたいからね」

『そういえばそろそろ、お盆だね』「……うん」

『こっち、本当に来るの?』「勿論。ていうか、塾で志望校を提出しないといけないんだけど、それ東京の大学にした」

『え? ほんとに? それってもしかして……』「そうだよ。柊さんの近くにいたいからさ」

 そう言いながら俺は凄く恥ずかしかったりする。でもまあ、最近は少し慣れてきたかな? 

 柊さんが東京に行ってしまってから初めての夜の電話。柊さんはあっちでオーディションを受けてるらしい。芸能界の事はよく分からないけど。それと写真集の発売が決まってて、更に前の清涼飲料水以外にもCMが一本決まってるらしくて、その撮影の準備に入ってるんだって。

 そういうの聞いたら、何だかどんどん柊さんが遠くに行ってしまいそうな気がする。まるで別の世界の人のような。だからこそ、せめて俺が柊さんのそばにいれるよう、大学も東京のほうがいい。

『でも、そう言ってくれて嬉しい』「俺も嬉しいって言われて嬉しいよ」

 そして二人して電話口で笑い合う。何だか暖かい気持ちになる。ああ、なんて幸せな時間だ。

『とりあえずその日時は既に休みにしてるから』「おお、マジで? じゃあ会えるよね?」

『うん』「よっしゃ!」

 俺のよっしゃ! を聞いてクスクス笑う柊さん。俺も何だか照れちゃってハハハと笑ってしまう。

『あ。マネージャーさんから電話みたい。そろそろ切るね』「え? ああ。じゃあまた」

 そこで不意に訪れた、幸せな時が終了する瞬間。柊さんはお休み、と口早に言って電話を切った。名残惜しかったけど仕方ない。

「……会いたいなあ」ゴロンと俺の部屋のベッドで仰向けに寝転び一人愚痴る。ヤバいな。俺、柊さんがとても好きでたまらなくなってるっぽい。離れてしまったから、かも知れない。

「よし。そのために頑張らないとな」もう既に夜十一時だったが、俺は起き上がって机に座り、おもむろに英単語の勉強を始めた。今始めたころで大して変わりはしないのは分かってる。でも、居ても立っても居られなかったんだ。
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