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22 檻の中-1

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(さて、これからどうされるのか)

 薄暗い、どこかの地下牢にも似た檻の中で、ギニスタは溜め息を吐く。
 その手首と足首には枷がはめられ、動く度にじゃらりと鳴った。首にもはめられた枷から伸びる鎖は、同じ檻の中にいる何人もの者達と繋がれている。

(もう少しすれば、何かしら起こせる程度には魔力が回復するんだが)

 幸い、辺りに見張りはいない。

(有り難いが不用心……だが、そうしたくなるのも頷ける)

 同じ檻の中、対面の檻の中。
 見える範囲での鎖に繋がれた人々は、皆座って顔をうずめるか、寝転んで身体を丸めるかだった。誰一人、喋りもしなければ動きもしない。

(いつからここにいるのか……)

 生きる事を諦め、死んだようになるくらいには。

(アタシが一番元気なのかね)

 “色混じり”と揶揄する者もいない。

(そもそも色混じりアタシに買い手が付くとも思えないんだが)

 捕らえた者達も、そのあたりを気にしなかったのだろうか。それほどモノ不足だったりするのか。

(まぁなんにしろ、もう少しこのままでいなきゃならない)

 つらつらと考えながら、視界の端に映った蒼が揺れるのを、無意識に目で追った。

「……?!」

 驚きに、口が開く。
 ここにいる筈のない【妖精】が、ひらひらとひとり、漂っていた。

〈……ぜ、前管理者よ〉

 その妖精は怯えたように首を竦め、辺りを窺いつつこちらに寄ってくる。

「……な、」
〈真の者が、お前を助けにいらっしゃったのだ〉
「は?!」

 あまりの事に、素っ頓狂な声が上がる。
 そこに、カツン、と靴音が響いた。

「……ッ!」

 ギニスタは一瞬身を堅くし、

「師匠?」

 次に聞こえた声に、また一瞬で気が抜ける。

(本当、に)
〈真の者よ。ここに〉

 妖精が言うやいなや、駆け足の音が迫ってきて、ギニスタはその姿を格子越しに捉えた。

「ししょう!」

 声の主は、ガシャン!と檻にぶち当たるようにして身を寄せ、その顔をほころばせる。

「居た!ギニスタ師匠!見つけた!」
(まだ半日も、経っていないのに……いや、それより)

 管理者シャルプは良いとしても、何故妖精がここに居る?居られる?

〈上にいた者共は眠ったぞ!〉
〈真の者よ!〉
〈我らは助けになっただろう?!〉
〈共に、我らが山に帰ろうではないか!〉

 きゃらきゃらとした、けれど切羽詰まった声が沢山響いた。それとともに、波のような蒼が押し寄せてくる。

「はあ?!」

 その言葉と、光景とに圧倒され、ギニスタはまた目を剥きかけた。

「それは……」

 ちらりと妖精達に目を向けながら、シャルプの手が檻の格子にかかる。

「師匠次第、かなあ」

 鉄の格子はそこからボロボロと崩れ去り、人一人が優に通れる広さの穴が出来た。

「師匠」

 よいしょ、と言いながらそれをくぐり、全く身じろぎもしない人々をまたぎ越しながらギニスタの元へ。

「酷い事、されました?」

 目の前まで来るとしゃがみ込み、さっきと同じように鎖と枷を外していく。

「え?」
「上のヤツら、師匠に枷をはめるなんて。これ奴隷ってモノでしょう?ヒトをヒトとも思わないモノだって」

 手を取られ、俯きがちにシャルプが言う。

「あ、あぁ……あ、いや、大丈夫だ。まだ何もされてない」
まだ・・?」
「されてないから!大丈夫だ!」

 目つきが鋭くなったシャルプに、慌てて強く繰り返す。
 シャルプはほっとしたように息を吐き、次いで泣きそうな顔になり、

「……は?」
「良かったぁ」

 ぎゅう、とギニスタを抱きしめた。


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