67 / 91
第4章 ユリン編・弐
66 対抗戦の行方——宝さがし①
しおりを挟む
翌日、真新しい長袍に腕を通し、ユリンは身支度をした。鏡台越しに戸枠から紫檀色の衣の裾がはみ出ているのが目に入り、初日以来ずっと衣装係を勤め続けてくれている下男たちに礼を言って下がらせる。
最後の一人がペコリと一礼して出て行くと、入れ替わりでランライが姿を見せた。
「いつにも増して豪華な衣装ですね」
頭に飾られた冠に目をやりやながら話せば、彼は窓ぎわまで行き後ろで腕を組んだ。
「今日は大事な客がわんさか来るからのう」
「ランライ殿が呼んだ方たちですか? 今ごろ王宮は厳重に警備されていて忙しないでしょうね」
「そのことだが、対抗戦の会場は王宮ではない。今朝はそれを伝えにきたのだ」
そう言われユリンは、ランライの視線がどこを捉えているのかを目で追う。
「まさか」
「・・・・・・その、まさかじゃの。会場としてあちらさんの庭を提示してならねば了承は得られなかった。しかし重鎮の安全面を考慮するならば最適な場でもある。我が勢の導術師ら諸君には、少々部が悪い条件だが」
相槌が遅れ、しまったと思った。
ちらりと視線で射抜かれて、ユリンは顔を逸らした。どうせ部下の導術師がしでかしていたことを知っているだろうに、この男はあえて部が悪いなどと口にしているのか。
ユリン、シャオル、シャオレイはシャオルから聞いているに違いない。
ご心配なさらずとも、参加者全員があの場所の攻略法を心得ている。
「何をさせる気ですか?」
「それは後ほどのお楽しみ。どれどれ、そろそろ向かおうぞ。馬車が来たようだ」
ランライは早々と会話を切り上げ、たっぷりとした贅沢な衣装をひるがえす。
「何をしている早くせよ」
「・・・・・・は、只今」
急かされるままに黙考を中止し、ユリンは部屋を出たのだった。
甲の殿の前には、馬車が一台停まっていた。
ひとつの馬車に四人で乗り込むと、朝のうちに甲の殿を出発した。天気の話やら王都の流行りの話やら、ランライがどうでもいい話で箱内を賑わせており、シャオレイが相手をして微笑んでいる。
シャオルは未だに口が聞けないらしく、塞ぎ込んだ顔で外を見ていた。
小窓の景色が流れてゆき、やはり徒歩の際とは異なる幻影に移り変わった。朝の空は夜になり、橋を渡りきった向こうは眩いばかりの楽園だ。虚栄心を具現化したような、ひどくけばけばしい提灯飾りが眩しく、艶やかな天女を模した踊り娘が色を添えている。
「ほう、やるではないか」
踊り娘たちへ呑気に手を振るランライに、ユリンは苦笑せずにはいられない。
(自分は観ているだけで良いよいのだから余裕なのだろうな・・・・・・)
けれど、もしも負けたら地道に集めてきた信頼はがた落ちだ。面白い見世物だったと言って片付く話ではなくなる。
「ここで降りるようですね」
シャオレイの声に小窓の外を確認すると、馬車が停止していた。
ユリンは祭りのごとき賑わいに眉を顰める。
どこからどこまでが幻で、どこからどこまでが現実であるのか、何も知らずにいれば楽しめそうなものだが、一度考え出してしまうと頭が痛くなる。
馬車を降ろされた四人はいつのまにか佇んでいた使用人に促され、さらに奥へと通された。
賑わいは徐々に遠くなり、右へ左へと蛇行する石畳みの通路がひたすらに続く。赤色の屋敷の壁が両脇を固めており、登れば飛び越えられないほどの高さではないが、おそらく何らかの仕掛けが施されている。
注意を払いながら素直について歩き、ユリンは迷路のような道が終わり、その終着点にある空間を目の前に捉える。
「どうやら、我々が一番乗りだったみたいだ」
上機嫌に笑い、ランライは扇子を広げた。
彼の言うとおり、闇を切り取って創り出した空洞のような場所は無人。通路と地続きの石畳みだけが視認できる唯一だった。
「皆さまがお揃いになるまで、しばしお待ちくださいませ」
「あいわかった、ご苦労」
ランライが悠々と告げると、使用人はもと来た道を戻り姿を消した。
最後の一人がペコリと一礼して出て行くと、入れ替わりでランライが姿を見せた。
「いつにも増して豪華な衣装ですね」
頭に飾られた冠に目をやりやながら話せば、彼は窓ぎわまで行き後ろで腕を組んだ。
「今日は大事な客がわんさか来るからのう」
「ランライ殿が呼んだ方たちですか? 今ごろ王宮は厳重に警備されていて忙しないでしょうね」
「そのことだが、対抗戦の会場は王宮ではない。今朝はそれを伝えにきたのだ」
そう言われユリンは、ランライの視線がどこを捉えているのかを目で追う。
「まさか」
「・・・・・・その、まさかじゃの。会場としてあちらさんの庭を提示してならねば了承は得られなかった。しかし重鎮の安全面を考慮するならば最適な場でもある。我が勢の導術師ら諸君には、少々部が悪い条件だが」
相槌が遅れ、しまったと思った。
ちらりと視線で射抜かれて、ユリンは顔を逸らした。どうせ部下の導術師がしでかしていたことを知っているだろうに、この男はあえて部が悪いなどと口にしているのか。
ユリン、シャオル、シャオレイはシャオルから聞いているに違いない。
ご心配なさらずとも、参加者全員があの場所の攻略法を心得ている。
「何をさせる気ですか?」
「それは後ほどのお楽しみ。どれどれ、そろそろ向かおうぞ。馬車が来たようだ」
ランライは早々と会話を切り上げ、たっぷりとした贅沢な衣装をひるがえす。
「何をしている早くせよ」
「・・・・・・は、只今」
急かされるままに黙考を中止し、ユリンは部屋を出たのだった。
甲の殿の前には、馬車が一台停まっていた。
ひとつの馬車に四人で乗り込むと、朝のうちに甲の殿を出発した。天気の話やら王都の流行りの話やら、ランライがどうでもいい話で箱内を賑わせており、シャオレイが相手をして微笑んでいる。
シャオルは未だに口が聞けないらしく、塞ぎ込んだ顔で外を見ていた。
小窓の景色が流れてゆき、やはり徒歩の際とは異なる幻影に移り変わった。朝の空は夜になり、橋を渡りきった向こうは眩いばかりの楽園だ。虚栄心を具現化したような、ひどくけばけばしい提灯飾りが眩しく、艶やかな天女を模した踊り娘が色を添えている。
「ほう、やるではないか」
踊り娘たちへ呑気に手を振るランライに、ユリンは苦笑せずにはいられない。
(自分は観ているだけで良いよいのだから余裕なのだろうな・・・・・・)
けれど、もしも負けたら地道に集めてきた信頼はがた落ちだ。面白い見世物だったと言って片付く話ではなくなる。
「ここで降りるようですね」
シャオレイの声に小窓の外を確認すると、馬車が停止していた。
ユリンは祭りのごとき賑わいに眉を顰める。
どこからどこまでが幻で、どこからどこまでが現実であるのか、何も知らずにいれば楽しめそうなものだが、一度考え出してしまうと頭が痛くなる。
馬車を降ろされた四人はいつのまにか佇んでいた使用人に促され、さらに奥へと通された。
賑わいは徐々に遠くなり、右へ左へと蛇行する石畳みの通路がひたすらに続く。赤色の屋敷の壁が両脇を固めており、登れば飛び越えられないほどの高さではないが、おそらく何らかの仕掛けが施されている。
注意を払いながら素直について歩き、ユリンは迷路のような道が終わり、その終着点にある空間を目の前に捉える。
「どうやら、我々が一番乗りだったみたいだ」
上機嫌に笑い、ランライは扇子を広げた。
彼の言うとおり、闇を切り取って創り出した空洞のような場所は無人。通路と地続きの石畳みだけが視認できる唯一だった。
「皆さまがお揃いになるまで、しばしお待ちくださいませ」
「あいわかった、ご苦労」
ランライが悠々と告げると、使用人はもと来た道を戻り姿を消した。
0
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる