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第4章 ユリン編・弐
66 対抗戦の行方——宝さがし①
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翌日、真新しい長袍に腕を通し、ユリンは身支度をした。鏡台越しに戸枠から紫檀色の衣の裾がはみ出ているのが目に入り、初日以来ずっと衣装係を勤め続けてくれている下男たちに礼を言って下がらせる。
最後の一人がペコリと一礼して出て行くと、入れ替わりでランライが姿を見せた。
「いつにも増して豪華な衣装ですね」
頭に飾られた冠に目をやりやながら話せば、彼は窓ぎわまで行き後ろで腕を組んだ。
「今日は大事な客がわんさか来るからのう」
「ランライ殿が呼んだ方たちですか? 今ごろ王宮は厳重に警備されていて忙しないでしょうね」
「そのことだが、対抗戦の会場は王宮ではない。今朝はそれを伝えにきたのだ」
そう言われユリンは、ランライの視線がどこを捉えているのかを目で追う。
「まさか」
「・・・・・・その、まさかじゃの。会場としてあちらさんの庭を提示してならねば了承は得られなかった。しかし重鎮の安全面を考慮するならば最適な場でもある。我が勢の導術師ら諸君には、少々部が悪い条件だが」
相槌が遅れ、しまったと思った。
ちらりと視線で射抜かれて、ユリンは顔を逸らした。どうせ部下の導術師がしでかしていたことを知っているだろうに、この男はあえて部が悪いなどと口にしているのか。
ユリン、シャオル、シャオレイはシャオルから聞いているに違いない。
ご心配なさらずとも、参加者全員があの場所の攻略法を心得ている。
「何をさせる気ですか?」
「それは後ほどのお楽しみ。どれどれ、そろそろ向かおうぞ。馬車が来たようだ」
ランライは早々と会話を切り上げ、たっぷりとした贅沢な衣装をひるがえす。
「何をしている早くせよ」
「・・・・・・は、只今」
急かされるままに黙考を中止し、ユリンは部屋を出たのだった。
甲の殿の前には、馬車が一台停まっていた。
ひとつの馬車に四人で乗り込むと、朝のうちに甲の殿を出発した。天気の話やら王都の流行りの話やら、ランライがどうでもいい話で箱内を賑わせており、シャオレイが相手をして微笑んでいる。
シャオルは未だに口が聞けないらしく、塞ぎ込んだ顔で外を見ていた。
小窓の景色が流れてゆき、やはり徒歩の際とは異なる幻影に移り変わった。朝の空は夜になり、橋を渡りきった向こうは眩いばかりの楽園だ。虚栄心を具現化したような、ひどくけばけばしい提灯飾りが眩しく、艶やかな天女を模した踊り娘が色を添えている。
「ほう、やるではないか」
踊り娘たちへ呑気に手を振るランライに、ユリンは苦笑せずにはいられない。
(自分は観ているだけで良いよいのだから余裕なのだろうな・・・・・・)
けれど、もしも負けたら地道に集めてきた信頼はがた落ちだ。面白い見世物だったと言って片付く話ではなくなる。
「ここで降りるようですね」
シャオレイの声に小窓の外を確認すると、馬車が停止していた。
ユリンは祭りのごとき賑わいに眉を顰める。
どこからどこまでが幻で、どこからどこまでが現実であるのか、何も知らずにいれば楽しめそうなものだが、一度考え出してしまうと頭が痛くなる。
馬車を降ろされた四人はいつのまにか佇んでいた使用人に促され、さらに奥へと通された。
賑わいは徐々に遠くなり、右へ左へと蛇行する石畳みの通路がひたすらに続く。赤色の屋敷の壁が両脇を固めており、登れば飛び越えられないほどの高さではないが、おそらく何らかの仕掛けが施されている。
注意を払いながら素直について歩き、ユリンは迷路のような道が終わり、その終着点にある空間を目の前に捉える。
「どうやら、我々が一番乗りだったみたいだ」
上機嫌に笑い、ランライは扇子を広げた。
彼の言うとおり、闇を切り取って創り出した空洞のような場所は無人。通路と地続きの石畳みだけが視認できる唯一だった。
「皆さまがお揃いになるまで、しばしお待ちくださいませ」
「あいわかった、ご苦労」
ランライが悠々と告げると、使用人はもと来た道を戻り姿を消した。
最後の一人がペコリと一礼して出て行くと、入れ替わりでランライが姿を見せた。
「いつにも増して豪華な衣装ですね」
頭に飾られた冠に目をやりやながら話せば、彼は窓ぎわまで行き後ろで腕を組んだ。
「今日は大事な客がわんさか来るからのう」
「ランライ殿が呼んだ方たちですか? 今ごろ王宮は厳重に警備されていて忙しないでしょうね」
「そのことだが、対抗戦の会場は王宮ではない。今朝はそれを伝えにきたのだ」
そう言われユリンは、ランライの視線がどこを捉えているのかを目で追う。
「まさか」
「・・・・・・その、まさかじゃの。会場としてあちらさんの庭を提示してならねば了承は得られなかった。しかし重鎮の安全面を考慮するならば最適な場でもある。我が勢の導術師ら諸君には、少々部が悪い条件だが」
相槌が遅れ、しまったと思った。
ちらりと視線で射抜かれて、ユリンは顔を逸らした。どうせ部下の導術師がしでかしていたことを知っているだろうに、この男はあえて部が悪いなどと口にしているのか。
ユリン、シャオル、シャオレイはシャオルから聞いているに違いない。
ご心配なさらずとも、参加者全員があの場所の攻略法を心得ている。
「何をさせる気ですか?」
「それは後ほどのお楽しみ。どれどれ、そろそろ向かおうぞ。馬車が来たようだ」
ランライは早々と会話を切り上げ、たっぷりとした贅沢な衣装をひるがえす。
「何をしている早くせよ」
「・・・・・・は、只今」
急かされるままに黙考を中止し、ユリンは部屋を出たのだった。
甲の殿の前には、馬車が一台停まっていた。
ひとつの馬車に四人で乗り込むと、朝のうちに甲の殿を出発した。天気の話やら王都の流行りの話やら、ランライがどうでもいい話で箱内を賑わせており、シャオレイが相手をして微笑んでいる。
シャオルは未だに口が聞けないらしく、塞ぎ込んだ顔で外を見ていた。
小窓の景色が流れてゆき、やはり徒歩の際とは異なる幻影に移り変わった。朝の空は夜になり、橋を渡りきった向こうは眩いばかりの楽園だ。虚栄心を具現化したような、ひどくけばけばしい提灯飾りが眩しく、艶やかな天女を模した踊り娘が色を添えている。
「ほう、やるではないか」
踊り娘たちへ呑気に手を振るランライに、ユリンは苦笑せずにはいられない。
(自分は観ているだけで良いよいのだから余裕なのだろうな・・・・・・)
けれど、もしも負けたら地道に集めてきた信頼はがた落ちだ。面白い見世物だったと言って片付く話ではなくなる。
「ここで降りるようですね」
シャオレイの声に小窓の外を確認すると、馬車が停止していた。
ユリンは祭りのごとき賑わいに眉を顰める。
どこからどこまでが幻で、どこからどこまでが現実であるのか、何も知らずにいれば楽しめそうなものだが、一度考え出してしまうと頭が痛くなる。
馬車を降ろされた四人はいつのまにか佇んでいた使用人に促され、さらに奥へと通された。
賑わいは徐々に遠くなり、右へ左へと蛇行する石畳みの通路がひたすらに続く。赤色の屋敷の壁が両脇を固めており、登れば飛び越えられないほどの高さではないが、おそらく何らかの仕掛けが施されている。
注意を払いながら素直について歩き、ユリンは迷路のような道が終わり、その終着点にある空間を目の前に捉える。
「どうやら、我々が一番乗りだったみたいだ」
上機嫌に笑い、ランライは扇子を広げた。
彼の言うとおり、闇を切り取って創り出した空洞のような場所は無人。通路と地続きの石畳みだけが視認できる唯一だった。
「皆さまがお揃いになるまで、しばしお待ちくださいませ」
「あいわかった、ご苦労」
ランライが悠々と告げると、使用人はもと来た道を戻り姿を消した。
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