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第4章 ユリン編・弐
65 丞相ランライの戦い方——お助け要員②
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「ほれ」
「どうも」
書斎に入ると、まずはシャオレイと目があった。彼女はランライのおふざけを見て、くすくすとおかしそうに笑っていた。手には高級感の漂う湯呑み茶碗が、中身は・・・・・・あのおどろおどろしい色は青煎茶。信じられない。
シャオレイは顔色を変えずに飲んでいるが、心のなかではさぞかし不味いと思っているだろう。
(シャオルはどうだろう)
だが彼女の横に視線をずらせば、シャオルは平気な顔で恐ろしく苦いお茶を啜っていた。
ユリンの目に映る今のシャオルの外見は歳のころ二十代前後あたり。いたって特徴の少ないありがちな顔。明日には忘れてしまえそうなほど平凡そのものだ。
どちらかというならシャオレイは華やかな顔立ちなのに、似て見えるのは不思議だった。
「どうぞ、座りたまえ。食事がまだなら食べて行くといい」
「ありがとうございます」
ユリンは許可を得て席につき、ランライが茶を注ごうとするのを慌てて制した。
「抜け目のない奴よの。して、ここに来たのは対抗戦に向けた話をするためだろう?」
「ええ、しかし抜け目がないのは貴方の方ですよ。ああっ、やめてください。俺はいりませんから」
「ちっ」
「・・・・・・ちっ、じゃないんですよっ」
相変わらず似合っていないちょろ髭男にいたずらっ子のごとく舌打ちをされ、ユリンは言い返したい衝動を堪える。
こんなところでじゃれあって、時間を使っているときではなかった。
助っ人の野良導術師たち(ということにしておく)の前の卓上を見ると、あらかた皿は空で食事を取り終えている。ユリンは迷わず立ち上がった。
「おや、もういいのかフェン殿?」
「対決は明日に迫っています。彼らを借りて行ってもよろしいですか?」
「もちろん、二人とも行きなさい。私は今日は書斎にこもっているから何かあればいつでも訪ねてきたまえ」
全面的に従うというような取り決めをしているんだろうか。ランライの一言でリンとシャオルは立ち上がった。
野良なのに、二人はずいぶんと忠実である。
報酬目当てなのやらと、余計に謎が深まっていく。
書斎を出たあとも二人は喋らなかった。もしや逐一ランライの許可がないと行動を起こせないのでは・・・・・・と疑惑が不安を連れてくる。
しかし、ユリンの抱いた鬼胎を跳ね返すように、唐突にシャオレイが「フェンさん」と言葉を発した。
「なんでしょう」
ちょうど甲の殿の建物外に出たところ、ひとの耳と目がなくなる場所を選んだのかもしれない。ユリンが脚を止めて振り返ると、姉の隣で弟設定のシャオルが小さくなっていた。
———いや、子どもの姿に戻っていた。
ユリンが目を見開いたと共に、姿形が大人に変わり。シャオルは声を出せない術を施されているのだろう、苦虫を噛むように口をモゴモゴとさせてうつむいた。
「ランライ殿は見せるなと言いましたが、それでは貴方にとって公平ではないと思いましたので」
「厳しい主従関係があるのではないのか?」
「いいえ、私たちは互いに利害関係が一致したうえで取引を行なったと聞いて・・・・・・こちらの話です、お気になさらず。規約上、詳しいことはお話できませんが、私たちのことを信頼していただけますでしょうか?」
事務的なシャオレイの口調は、むしろ信頼できる話し方だった。
ユリンは完全に転がされているなと思いながらうなずいた。この二人がこうすることまで、ランライには見通されている気がしたのだ。
「では、さっそく作戦会議といたしましょう」
「はい」
と、返事をするしかない。主導権は完全に握られている。
はっとした。目的をもって連れられてきた彼らは丞相ランライの駒のひとつだろう。だがユリン自身も駒なのではないかと。ユリンの思い描いている以上に、おそらく盤上は広く大きい。
(ランライ殿の言っていた、『あれ』がどう関わっているのか)
ユリンやダオを巻き込んで、何かが起ころうとしているとしか思えなかった。
「どうも」
書斎に入ると、まずはシャオレイと目があった。彼女はランライのおふざけを見て、くすくすとおかしそうに笑っていた。手には高級感の漂う湯呑み茶碗が、中身は・・・・・・あのおどろおどろしい色は青煎茶。信じられない。
シャオレイは顔色を変えずに飲んでいるが、心のなかではさぞかし不味いと思っているだろう。
(シャオルはどうだろう)
だが彼女の横に視線をずらせば、シャオルは平気な顔で恐ろしく苦いお茶を啜っていた。
ユリンの目に映る今のシャオルの外見は歳のころ二十代前後あたり。いたって特徴の少ないありがちな顔。明日には忘れてしまえそうなほど平凡そのものだ。
どちらかというならシャオレイは華やかな顔立ちなのに、似て見えるのは不思議だった。
「どうぞ、座りたまえ。食事がまだなら食べて行くといい」
「ありがとうございます」
ユリンは許可を得て席につき、ランライが茶を注ごうとするのを慌てて制した。
「抜け目のない奴よの。して、ここに来たのは対抗戦に向けた話をするためだろう?」
「ええ、しかし抜け目がないのは貴方の方ですよ。ああっ、やめてください。俺はいりませんから」
「ちっ」
「・・・・・・ちっ、じゃないんですよっ」
相変わらず似合っていないちょろ髭男にいたずらっ子のごとく舌打ちをされ、ユリンは言い返したい衝動を堪える。
こんなところでじゃれあって、時間を使っているときではなかった。
助っ人の野良導術師たち(ということにしておく)の前の卓上を見ると、あらかた皿は空で食事を取り終えている。ユリンは迷わず立ち上がった。
「おや、もういいのかフェン殿?」
「対決は明日に迫っています。彼らを借りて行ってもよろしいですか?」
「もちろん、二人とも行きなさい。私は今日は書斎にこもっているから何かあればいつでも訪ねてきたまえ」
全面的に従うというような取り決めをしているんだろうか。ランライの一言でリンとシャオルは立ち上がった。
野良なのに、二人はずいぶんと忠実である。
報酬目当てなのやらと、余計に謎が深まっていく。
書斎を出たあとも二人は喋らなかった。もしや逐一ランライの許可がないと行動を起こせないのでは・・・・・・と疑惑が不安を連れてくる。
しかし、ユリンの抱いた鬼胎を跳ね返すように、唐突にシャオレイが「フェンさん」と言葉を発した。
「なんでしょう」
ちょうど甲の殿の建物外に出たところ、ひとの耳と目がなくなる場所を選んだのかもしれない。ユリンが脚を止めて振り返ると、姉の隣で弟設定のシャオルが小さくなっていた。
———いや、子どもの姿に戻っていた。
ユリンが目を見開いたと共に、姿形が大人に変わり。シャオルは声を出せない術を施されているのだろう、苦虫を噛むように口をモゴモゴとさせてうつむいた。
「ランライ殿は見せるなと言いましたが、それでは貴方にとって公平ではないと思いましたので」
「厳しい主従関係があるのではないのか?」
「いいえ、私たちは互いに利害関係が一致したうえで取引を行なったと聞いて・・・・・・こちらの話です、お気になさらず。規約上、詳しいことはお話できませんが、私たちのことを信頼していただけますでしょうか?」
事務的なシャオレイの口調は、むしろ信頼できる話し方だった。
ユリンは完全に転がされているなと思いながらうなずいた。この二人がこうすることまで、ランライには見通されている気がしたのだ。
「では、さっそく作戦会議といたしましょう」
「はい」
と、返事をするしかない。主導権は完全に握られている。
はっとした。目的をもって連れられてきた彼らは丞相ランライの駒のひとつだろう。だがユリン自身も駒なのではないかと。ユリンの思い描いている以上に、おそらく盤上は広く大きい。
(ランライ殿の言っていた、『あれ』がどう関わっているのか)
ユリンやダオを巻き込んで、何かが起ころうとしているとしか思えなかった。
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