68 / 91
第4章 ユリン編・弐
67 対抗戦の行方——宝さがし②
しおりを挟む
何もなさすぎて時間の感覚が失われる。
すると、四人が出向いてきた通路とは別空間から人間が数名。最初は小さな影だったものがこちらに近づくごとに大きくなり、やがてはっきりと形を成した。
ランライに負けず劣らず、どれも品格の漂う正装着の導術師ら。
もっとも立派な出立ちなのはリュウホンだ。
いつにも増して鋭い眼光で自分以外の存在すべてを睨みつけている。
あとは二名、後ろに控えた者。リュウホン同様に穏やかな顔ではない。
「リュウホン殿下、人数を揃えてくださったのですね」
ランライが一歩前に進みいで感謝の姿勢を取る。
「ふん、突然だろう。明らかな優勢で勝っても得にならん。むしろ、恥だ」
見下ろすように言い放つリュウホンだが、様子がおかしい。
発言のあとにはいつも自信たっぷりに周囲を嘲笑っていた口元が、このときはへの字にきつく結ばれた。
(それだけじゃない。シアン大王と謁見した際にはランライは承諾を得たと言っていたのに・・・・・・)
まるでリュウホンは当日まで知らなかったような口ぶり。
この件は彼に伝えられずに、リュウ家に承諾を得て話を進めたということになる。
だが今はそのことを考えていられる時間じゃない。「私から対抗戦の説明をする」と、ランライが口を開いたのだ。
「リュウ家の諸君もよく聞いてほしい。ここはご存じの銀餡亭の敷地内。しかし複雑な術を使って、一風変わった雰囲気に変えてある。そうして皆には、ある遊戯をやってもらいたいと思っている」
「・・・・・・ふざけたことを」
「殿下、大真面目に申しております。無骨な武人とちがい、私は暴力の類いは苦手なのですよ。なので導術師の皆さまがたには、ご自身のお力を使って楽しい宝さがしをして頂こうかと」
「宝さがしだと・・・・・・?! いい加減にしないか! 俺がお前の口を斬り刻む前にさっさとダオを返せ」
「剣は取り上げたはずですが、できるものならどうぞ。ここでは、まじない術のみで競い合っていただきますよ」
ダオ? と、ユリンは眉を顰めて反応した。
(返せ、とはなんだ)
真偽を求めてランライに視線を送るが、これまでの例に漏れず知らん顔。大将軍に唸られても怯まず、それどころか煽り立てて油を注ぐ。
しかし言葉にして追求はできなかった。
歯がゆい思いのまま、説明は再開する。
「リュウホン殿下、ご安心を。大切なお宝は大切に保管させていますゆえ、傷ひとつ付けておりません」
今度こそユリンは「は?」と口に出していた。
「フェン殿、いかがした」
「いえ・・・・・・。宝は・・・・・・その、生身の人間なのですか?」
「うむ。普通の宝ではひねりがなかろう。相談を持ちかけたところ美しい青年がおると聞いたもので、ちょっとばかし協力をの。特徴は盲目で長い銀髪の持ち主。見ればすぐにわかる美青年だ。宝は連れて戻った者に贈呈される。所属する派閥には褒美を用意して待っているぞ」
「な・・・・・・」
言葉を失ったユリンに容赦なくランライは肩をすくめる。
「なにをしてる。さあ、頑張って探して参れ」
正直に言うなら、この場でランライに掴みかかって糾弾してやりたい気分だった。
ぶるぶると拳を震わせるユリンの憤りに気づき、ランライは「見よ」と扇子を手に取った。扇子の先に導かれて周りを見れば、すでにユリンだけが行き遅れ、空洞に取り残されていた。
「早く行かねば、先を越されてしまうぞ? フェン殿にはもうじゅうぶんな優位点があるではないか」
ランライはそう言って、顔の横に掲げた手のひらをユリンに向け、人差し指と小指を立てたまま他三本の指先をくっつけた。
立てた指が耳を、前に突き出た三本の指は鼻。この形は。
「ねずみ・・・・・・、ねずみがダオといっしょに?」
「さぁの、私には狐にしか見えんが、これがなんの動物かは見方次第だの」
ひらりと手を開いて誤魔化す仕草にユリンは小さく笑む。
「まったく、貴方ってひとは。感謝します」
「礼は結果でしか受け取らん。さっさと行け」
ぶっきらぼうに聞こえたのは気のせいだったか。確かめたくともランライは扇子で顔を隠していた。ユリンは「御意」と拱手し、空洞から伸びた数ある通路のうちの一本を選んで駆け抜けた。
すると、四人が出向いてきた通路とは別空間から人間が数名。最初は小さな影だったものがこちらに近づくごとに大きくなり、やがてはっきりと形を成した。
ランライに負けず劣らず、どれも品格の漂う正装着の導術師ら。
もっとも立派な出立ちなのはリュウホンだ。
いつにも増して鋭い眼光で自分以外の存在すべてを睨みつけている。
あとは二名、後ろに控えた者。リュウホン同様に穏やかな顔ではない。
「リュウホン殿下、人数を揃えてくださったのですね」
ランライが一歩前に進みいで感謝の姿勢を取る。
「ふん、突然だろう。明らかな優勢で勝っても得にならん。むしろ、恥だ」
見下ろすように言い放つリュウホンだが、様子がおかしい。
発言のあとにはいつも自信たっぷりに周囲を嘲笑っていた口元が、このときはへの字にきつく結ばれた。
(それだけじゃない。シアン大王と謁見した際にはランライは承諾を得たと言っていたのに・・・・・・)
まるでリュウホンは当日まで知らなかったような口ぶり。
この件は彼に伝えられずに、リュウ家に承諾を得て話を進めたということになる。
だが今はそのことを考えていられる時間じゃない。「私から対抗戦の説明をする」と、ランライが口を開いたのだ。
「リュウ家の諸君もよく聞いてほしい。ここはご存じの銀餡亭の敷地内。しかし複雑な術を使って、一風変わった雰囲気に変えてある。そうして皆には、ある遊戯をやってもらいたいと思っている」
「・・・・・・ふざけたことを」
「殿下、大真面目に申しております。無骨な武人とちがい、私は暴力の類いは苦手なのですよ。なので導術師の皆さまがたには、ご自身のお力を使って楽しい宝さがしをして頂こうかと」
「宝さがしだと・・・・・・?! いい加減にしないか! 俺がお前の口を斬り刻む前にさっさとダオを返せ」
「剣は取り上げたはずですが、できるものならどうぞ。ここでは、まじない術のみで競い合っていただきますよ」
ダオ? と、ユリンは眉を顰めて反応した。
(返せ、とはなんだ)
真偽を求めてランライに視線を送るが、これまでの例に漏れず知らん顔。大将軍に唸られても怯まず、それどころか煽り立てて油を注ぐ。
しかし言葉にして追求はできなかった。
歯がゆい思いのまま、説明は再開する。
「リュウホン殿下、ご安心を。大切なお宝は大切に保管させていますゆえ、傷ひとつ付けておりません」
今度こそユリンは「は?」と口に出していた。
「フェン殿、いかがした」
「いえ・・・・・・。宝は・・・・・・その、生身の人間なのですか?」
「うむ。普通の宝ではひねりがなかろう。相談を持ちかけたところ美しい青年がおると聞いたもので、ちょっとばかし協力をの。特徴は盲目で長い銀髪の持ち主。見ればすぐにわかる美青年だ。宝は連れて戻った者に贈呈される。所属する派閥には褒美を用意して待っているぞ」
「な・・・・・・」
言葉を失ったユリンに容赦なくランライは肩をすくめる。
「なにをしてる。さあ、頑張って探して参れ」
正直に言うなら、この場でランライに掴みかかって糾弾してやりたい気分だった。
ぶるぶると拳を震わせるユリンの憤りに気づき、ランライは「見よ」と扇子を手に取った。扇子の先に導かれて周りを見れば、すでにユリンだけが行き遅れ、空洞に取り残されていた。
「早く行かねば、先を越されてしまうぞ? フェン殿にはもうじゅうぶんな優位点があるではないか」
ランライはそう言って、顔の横に掲げた手のひらをユリンに向け、人差し指と小指を立てたまま他三本の指先をくっつけた。
立てた指が耳を、前に突き出た三本の指は鼻。この形は。
「ねずみ・・・・・・、ねずみがダオといっしょに?」
「さぁの、私には狐にしか見えんが、これがなんの動物かは見方次第だの」
ひらりと手を開いて誤魔化す仕草にユリンは小さく笑む。
「まったく、貴方ってひとは。感謝します」
「礼は結果でしか受け取らん。さっさと行け」
ぶっきらぼうに聞こえたのは気のせいだったか。確かめたくともランライは扇子で顔を隠していた。ユリンは「御意」と拱手し、空洞から伸びた数ある通路のうちの一本を選んで駆け抜けた。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
カエルになったら幼なじみが変態でやべーやつだということに気づきました。
まつぼっくり
BL
カエルになったけど、人間に戻れた俺と幼なじみ(変態ストーカー)の日常のお話。時々コオロギさん。
え?俺たちコイビトなの?え?こわ。
攻 変態ストーカーな幼馴染
受 おめめくりくりな性格男前
1話ごとに区切り良くサクサク進んでいきます
全8話+番外編
予約投稿済み
ムーンさんからの転載
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる