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第4章 ユリン編・弐

67 対抗戦の行方——宝さがし②

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 何もなさすぎて時間の感覚が失われる。
 すると、四人が出向いてきた通路とは別空間から人間が数名。最初は小さな影だったものがこちらに近づくごとに大きくなり、やがてはっきりと形を成した。
 ランライに負けず劣らず、どれも品格の漂う正装着の導術師ら。
 もっとも立派な出立ちなのはリュウホンだ。
 いつにも増して鋭い眼光で自分以外の存在すべてを睨みつけている。
 あとは二名、後ろに控えた者。リュウホン同様に穏やかな顔ではない。

「リュウホン殿下、人数を揃えてくださったのですね」

 ランライが一歩前に進みいで感謝の姿勢を取る。

「ふん、突然だろう。明らかな優勢で勝っても得にならん。むしろ、恥だ」

 見下ろすように言い放つリュウホンだが、様子がおかしい。
 発言のあとにはいつも自信たっぷりに周囲を嘲笑っていた口元が、このときはへの字にきつく結ばれた。
(それだけじゃない。シアン大王と謁見した際にはランライは承諾を得たと言っていたのに・・・・・・)
 まるでリュウホンは当日まで知らなかったような口ぶり。
 この件は彼に伝えられずに、承諾を得て話を進めたということになる。
 だが今はそのことを考えていられる時間じゃない。「私から対抗戦の説明をする」と、ランライが口を開いたのだ。

「リュウ家の諸君もよく聞いてほしい。ここはご存じの銀餡亭の敷地内。しかし複雑な術を使って、一風変わった雰囲気に変えてある。そうして皆には、ある遊戯ゲームをやってもらいたいと思っている」
「・・・・・・ふざけたことを」
「殿下、大真面目に申しております。無骨な武人とちがい、私は暴力の類いは苦手なのですよ。なので導術師の皆さまがたには、ご自身のお力を使って楽しい宝さがしをして頂こうかと」
「宝さがしだと・・・・・・?! いい加減にしないか! 俺がお前の口を斬り刻む前にさっさとダオを返せ」
「剣は取り上げたはずですが、できるものならどうぞ。ここでは、まじない術のみで競い合っていただきますよ」

 ダオ? と、ユリンは眉を顰めて反応した。
(返せ、とはなんだ)
 真偽を求めてランライに視線を送るが、これまでの例に漏れず知らん顔。大将軍に唸られても怯まず、それどころか煽り立てて油を注ぐ。
 しかし言葉にして追求はできなかった。
 歯がゆい思いのまま、説明は再開する。

「リュウホン殿下、ご安心を。大切なお宝は大切に保管させていますゆえ、傷ひとつ付けておりません」

 今度こそユリンは「は?」と口に出していた。

「フェン殿、いかがした」
「いえ・・・・・・。宝は・・・・・・その、生身の人間なのですか?」
「うむ。普通の宝ではひねりがなかろう。相談を持ちかけたところ美しい青年がおると聞いたもので、ちょっとばかし協力をの。特徴は盲目で長い銀髪の持ち主。見ればすぐにわかる美青年だ。宝は連れて戻った者に贈呈される。所属する派閥には褒美を用意して待っているぞ」
「な・・・・・・」

 言葉を失ったユリンに容赦なくランライは肩をすくめる。

「なにをしてる。さあ、頑張って探して参れ」

 正直に言うなら、この場でランライに掴みかかって糾弾きゅうだんしてやりたい気分だった。
 ぶるぶると拳を震わせるユリンの憤りに気づき、ランライは「見よ」と扇子を手に取った。扇子の先に導かれて周りを見れば、すでにユリンだけが行き遅れ、空洞に取り残されていた。

「早く行かねば、先を越されてしまうぞ? フェン殿にはもうじゅうぶんな優位点アドバンテージがあるではないか」

 ランライはそう言って、顔の横に掲げた手のひらをユリンに向け、人差し指と小指を立てたまま他三本の指先をくっつけた。
 立てた指が耳を、前に突き出た三本の指は鼻。この形は。

「ねずみ・・・・・・、ねずみがダオといっしょに?」
「さぁの、私には狐にしか見えんが、これがなんの動物かは見方次第だの」

 ひらりと手を開いて誤魔化す仕草にユリンは小さく笑む。

「まったく、貴方ってひとは。感謝します」
「礼は結果でしか受け取らん。さっさと行け」

 ぶっきらぼうに聞こえたのは気のせいだったか。確かめたくともランライは扇子で顔を隠していた。ユリンは「御意」と拱手し、空洞から伸びた数ある通路のうちの一本を選んで駆け抜けた。
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