プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.105 苦言を呈する

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 紺色を基調とした衣服をまとう杖のプリンセスにそっと抱かれた剣のプリンセス。優しくされたことでついまたしても泣いてしまいそうになり、杖のプリンセスの広い胸に顔を埋めた。剣のプリンセスの赤身を帯びた茶色の瞳から溢れた涙は杖のプリンセスの胸もとを湿らせる。顔を隠していても泣いていることは隠せない、服が湿気を帯びることでどのみちばれてしまう――そう理解していても、それでも、剣のプリンセスは泣き顔を晒したくなかった。そんな意味もあり顔を持ち上げない剣のプリンセス。彼女の背中に、杖のプリンセスはそっと手を置く。

「そうです。泣きたい時には泣けばそれで良いのです」

 杖のプリンセスは少し目を伏せながら言った。

 それからしばらく、剣のプリンセスは体勢を変えられなかった。いや、身体が悪いわけではないから変えようと思えば変えられたのだろうが。ただ、彼女は、もうしばらく同じようにしていたいと思っていて。そのため体勢を変えなかったのだ。寄り添ってくれる杖のプリンセスの胸もとに顔を埋めたまま、窒息したかのように、じっとしていた。

 どれほどの時が過ぎたか。
 やがて剣のプリンセスは顔を離した。

「……すみません、長くて」

 剣のプリンセスは濡れた目もとを腕で拭う。

「もう平気ですか」
「はい」
「ではわたくしは一旦帰りますね」
「あっ。すみません! 暑いですよね! 環境が!」

 二人が今いる場所――剣のキャッスルは、特殊な環境であり、剣の力を持つプリンセスプリンス以外が長時間過ごすには過酷だ。

「ええ、少し」

 杖のプリンセスは苦笑する。

「すみませんでした! あたし、環境のこと忘れてて……」
「貴女に非はありません」
「後はまた通信で!」
「そうですね、そうしましょう」

 剣のプリンセスと杖のプリンセスは別れた。

「情けないなぁ……あたし……」

 杖のプリンセスがいなくなってから、剣のプリンセスは一人そんなことを呟いた。
 しかし涙を流しきったこともあってか頭はすっきりしていて。

「……謝ろうかな」

 剣のプリンセスの中で一つの決意が芽生える。それは、時のプリンスに通信を入れる、というもの。人の世にいた時の、強く言い過ぎたために険悪になってしまった件について、謝ろうと考えたのだ。彼女自身、あの時いきなり食ってかかるような言い方をしたことは後悔している。
 ということで時のプリンスに連絡してみる剣のプリンセスだったが……これまたなかなか上手くいかない。
 繋がらないのだ。
 それでも彼女は怒りを爆発はさせなかった。
 何度も繰り返し呼び出してみる――と、数回目で繋がった。

『……何か』

 聞こえてくるのは時のプリンスのぶっきらぼうな声。

「前のことなのだけれど」
『……前?』
「言い過ぎたわ、悪かったわね」

 剣のプリンセスははっきり言葉を紡いでいく。

「いきなり食ってかかるような言い方をしてごめんなさい」
『お主には何も期待しておらぬわ』
「なっ……ちょっと、その言い方はな――」
『学んでおらぬのか?』

 時のプリンスの冷たい声に、剣のプリンセスは何とか冷静さを取り戻す。

「そうね、こういうところだわ」
『ふん』
「これからはなるべく気をつけるわ」
『ま、我には関係ないわな』

 いちいち不愉快な言葉選びをしてくる時のプリンスと接するのは疲れる、と、剣のプリンセスは心の底から思った。
 盾のプリンスのすぐぷいとそっぽを向くようなところも好きではない。
 けれども、苛立つポイントを確実に刺激してくる時のプリンスのことは、盾のプリンス以上に好きになれそうにない。

「ちょっと……いい加減にしてくれる?」

 剣のプリンセスとしては謝るだけで良かった。
 喧嘩する気なんてまったくなかった。
 ただ、どうしても耐えられず、心を口にしてしまう。

「どうして挑発するの!」

 もう抑えられない。

『知らぬわ』
「あんたね……いい加減にしなさいよ! あまり調子に乗らないで!」

 攻撃的になる剣のプリンセスを鼻で笑う時のプリンス。

『うるさい女よな』
「はぁ!?」
『お主に興味はない、もう連絡してこんでよい』
「ちょ……」
『我に関わるな』
「あ……待っ……」

 通信は断たれた。
 剣のプリンセスはその場で座り込む。

「駄目だ……悪化した……あーもうどうすればいいのよーっ!!」


 ◆


 その頃、時のキャッスル。

「時のプリンス、貴方、接し方が酷すぎませんか」

 直前までの二人の通話を聞いていたアオは、座に腰を下ろしている時のプリンスにティーカップを渡してから、渋苦いものを食べたような顔で発した。

「仲良くしてください」
「アオとは仲良くしておるだろう」

 時のプリンスはティーカップを傾ける。

「あれはさすがに酷すぎます」

 アオは時のプリンスのことを心配していた。こんなで大丈夫なのだろうか、と。敵に対し心ないのなら理解はできるが味方にまでそんな感じというのは理解できなかったし、そんな振る舞いをしていてはもしもの時に誰も助けてくれないのでは、という心配が大きかった。時のプリンスの身を案じているからこそ苦言を呈するのだ。

「謝ろうとしてくれていたのにおかしなことばかり言って!」
「待て、お主、恐らく勘違いしておる」
「私は貴方のことが心配なのです! あのような接し方をしていては、もしもの時に助けてと頼むことさえできません!」

 アオはここで本心を出した。

「頼む機会などない」
「分からないでしょう。絶対などないのですから」
「そのようなことのために皆に媚を売れと言うのか?」
「違います! 最低限の礼儀はわきまえてほしい、と言っているのです」

 訪れる静寂。
 その先で。

「いずれにせよ、我はこれからも皆とはなるべく関わらずにゆく」
「……なぜ」
「関わっても悲しみが増えるだけのこと。ならば必要以上に関わらぬのが賢い選択、お互いのためだ」

 時のプリンスは相変わらず優雅にティーカップを傾けている。

「ですが……何も、わざわざ、あのような嫌われるようなことを……」
「分かりやすかろう?」
「あのようなこと……もうしないでください……」
「我はずっとこうしてきた。今さらやり方を変える気はない」

 しゅんとするアオ。
 時のプリンスは、ティーカップをテーブルに置き、空いた手で彼女の頭をぽんと軽く叩く。

「案ずるな、一人で問題なくやっていける」

 アオは言いたいことを抱えながらも口を動かせない。

「もちろんお主のことはこれからも護る。約束しよう。だからそのような顔はせんでよい」
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