プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.106 すべてはそれから

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 今は愛のキャッスルを訪ねている。
 ここは相変わらず可愛らしい雰囲気だ。モチーフ、色合い、いずれも可愛らしいという言葉がよく似合う。

「フレレ! 来てくれてありがとうございますっ」
「お誘いありがとうございます」

 少し前、愛のプリンセスから通信が入り、何事かと思っていたらキャッスルへ来ないかというお誘いだった。特に用事があるというわけではないようで、遊びに誘うような感覚でのお誘いだったようだ。

「すみませんー、今、お茶とかあまり揃ってなくってー」
「大丈夫です」

 くるくる回りながら座へ接近していく愛のプリンセス。

「最近色々あるみたいですねー」

 彼女はソファのような座にぽふんと腰を下ろすなり話題を提供してくる。
 どこにどんな体勢でいれば良いのか掴みづらいが、一応、座の横辺りに立っておく。これなら迷惑にはならないだろう、大きな問題はないはずだ。

「敵の話ですか?」
「ですですっ」

 愛のプリンセスは、ほわあ、とあくび。それから視線をこちらへ向けてきた。丸い瞳の中、ハート形した光が愛らしく煌めく。

「今度は術遣いみたいですよねー、厄介ですー」

 そんなことを言いながら両手の指の先端を胸の前で合わせた。

「そうですね」
「フレレのところにはまだ来てないですよね?」
「はい。あ、でも、盾のプリンスさんのところには来たみたいでしたよ」
「ふぁ!? そうなんですかっ!?」

 予想以上に派手に驚かれてしまった。

「大丈夫だったんです!?」
「はい、大丈夫そうでした」
「ふええ……良かったですけど……怖いですねー……」

 両手を顔の前へやり、口や鼻を隠すようにして、怖がっていることを表す。
 普通の女性がやるとくどめのぶりっこのようにも感じられそうな動作。
 しかし愛のプリンセスがしているとわざとしているようには感じない。彼女なら素でそういうことをする、そう思えるから。

「アイアイのところにも来ますかねー……やだなぁ」

 愛のプリンセスはそうこぼしてから遠くを見るような目をする。
 だが、それもそうだな、と気づかされた。
 プリンセスだって正体不明の敵と戦うのは嫌だろう。たとえプリンセス・プリンスが戦うための存在だとしても、だ。皆が戦闘狂でプリンセスになったというわけではないのだから、できれば戦闘は避けたいという思いがあったとしてもおかしな話ではない。

「そうですよね。嫌ですよね、戦いは」
「ふぁい」
「たとえそれがプリンセス・プリンスの定めだとしても……避けられるに越したことはない、そう思います」

 すると愛のプリンセスは急に立ち上がった。
 何事かと思っていると、突然抱き締められる。

「同感ですっ!!」

 声が大きい、声が。

 近くで大声を出されると耳が傷んでしまいそう。

「フレレはよく分かってますーっ! そうなんです! 本当は戦いたくなんてないんですよっ。平和に暮らしたいんですーっ!」
「み、耳が……」

 つい本音を漏らしてしまった。

「ふぇ?」
「あ、すみません……本音が」
「もしかしてっ、うるさかったですか!?」

 愛のプリンセスはぴよぉーんと跳ねるように後退。

「ごべんなだい……」

 今にも泣き出しそうな顔で身を縮める。

「えっと、こちらこそ、すみません。つい本音を言ってしまって」
「い、いえ! いえいえいえ! いいんです! いつでも本当のことを言ってください!」

 その時、愛のプリンセスの顔が歪む。

「い、い、いたたたたたた!!」

 空気を含んだ髪型のせいか大きめに見える頭部を両方の手で押さえながら痛がる愛のプリンセス。

「大丈夫ですか!?」

 あまりに突然だったのでかなり驚いた。
 駆け寄り、膝を少し曲げた体勢で、頭痛に苦しむ彼女の背中をさする。

「う、うう……」

 愛のプリンセスの足から力が抜ける。彼女は立っている体勢を保てない。まるで突然人形になってしまったかのように、ふらりと腰が落ちて、床に座るになってしまった。それに合わせて私もしゃがむ。かろうじて意識はあるようだが、閉じた目からは涙の粒が次々こぼれ落ちている。

「いびゃいでずー……」
「急なうえ酷い頭痛ですね」
「ぶええ……」

 世の中には頭痛で亡くなる人もいると聞く。プリンセスである以上そんなことはないだろうとは思うのだが、それでも、絶対なんていうことはない。程度の軽いものであれば一般人誰もが経験するようなものだから気にすることもないかもしれないけれど。酷い頭痛となれば、頭痛だからといって軽く見ることはできない。

 刹那、愛のプリンセスは気を失った。

「愛のプリンセスさん!?」

 脳の異常か何かか。頭痛で意識を手放すことになるというのはよくあることではない。少なくともそれは誰もが経験するようなことではない。それを考えると、やはり、これは普通の頭痛ではないのではないか。

「愛のプリンセスさん!? しっかり!!」

 返事はない。

 ――と、その時。

「だいじょーぶ、彼女、死んでない」

 背後から聞き慣れない声。
 振り返ると、そこには、一人の黒い女性が立っていた。
 いや、黒い女性というと伝わりづらい表現かもしれない。女性の体表すべてを真っ黒に染め上げたような者が立っているのだ。それこそ、頭の上から大量のいかすみを浴びたかのような。そして、女性と判断したのがなぜかというと、ボディラインや髪と思われる部分のアウトラインから女性らしさが出ていたからだ。

「夢みてるだけ」
「貴女は一体…」

 愛のプリンセスは床に倒れて眠っているかのように意識を失ってしまっている。

「アタシはウツロ。……ま、この肉体自体は別人のものなんだけどさー」

 聞いたことのない名前だ。
 ただ、味方ではないことは確か。

「最近たびたびキャッスルで悪さしているのは貴女ですか」
「悪さ? まっさか。悪さとかじゃないっての。そんなさ、イタズラみたいな感じに言わないでよ。これはお仕事なんだって」
「術を使ってプリンセスプリンスらに絡んでいるのは貴女なのですね」
「絡んでる、って、さ。言い方ー」

 少し間を空けて。

「ま、でも、そうとも言えるかな」

 愛のプリンセスも悪夢をみせられているのだろうか。
 だとしたら早く助け出したい。
 そんなことを思っていると、黒一色の女性は歩いてこちらへ接近してきた。

「迎えに来たんだよ? アンタのこと」

 黒いものが近づいてくると自然と恐怖が芽生える。
 それでも目を逸らすことはできない。

「お断りします」
「……は?」
「彼女を戻してください。彼女の目を覚まさせてください、すべてはそれからです」
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