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第八十回 バチャリカ(3)
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僕はその後も、色々なことを彼女に教えた。
もっとも、「教えた」と言っても、調べたりしながらだったが。
正直、僕が彼女に教えられることなんて、限られている。彼女よりかは詳しいものの、僕は、普通の若者のようにスマートフォンを使いこなしてはいないからだ。
ただ、調べることができるという僕の強みを発揮できたことは、良かったのかもしれない。
バチャリカは、説明書を読んで使用する世代のようで、取り敢えず触ってみるということは考えになかったようで。だから、僕のかなり適当なやり方には少し戸惑っているようなところもあったが、それでも、特に何も言わずに付き合ってくれた。
「写真。メール。電話。いんたーねっと。やね!」
「はい」
一時間程度で、おおよそ説明することができた。
これでもう、バチャリカはスマートフォンを使えるはずだ。
写真は撮れる。連絡もできる。そして、ちょっとした調べものなんかもできる。
完璧とは言えないかもしれないが、日常生活を送るうえでならこのくらい使えたら十分だろう。
「これでもう上級者やね!」
「初級は完璧というくらいですかね……」
「ははは! 分かってる分かってる! 冗談やんかー」
冗談だったのか。
だとしたら、真剣に返してしまって申し訳ない。
「せやけど、このくらい使えたら、そんな困らへんと思うわ。孫とも連絡できるしねー」
それは良いことだ。
「少しでもお役に立てたなら良かったです」
「いややわ兄ちゃん。少し、なんかやないで。凄い役に立ってるで」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
嬉しいけれど、恥ずかしさもあって。半ば無意識のうちに、顔が赤く染まってしまった。するとバチャリカは、それをすぐに発見し、言ってくる。
「んまー可愛えーなー! 赤なってしもて!」
できれば触れないでほしかった。
なぜなら、触れられたことによって余計に赤面してしまうから。
そっとしておいてくれれば、じきに普通の状態に戻ったというのに、触れられるとさらに恥ずかしくなってしまう。
「す、すみません……」
「ええよええよ! 気にせんといて!」
バチャリカは僕を弄びつつ、片手の指一本でスマートフォンの画面を操作してみている。その表情は柔らかく、楽しげだ。
「いやー、それにしてもコレ、面白いもんやねー」
「はい。最初はできることが多すぎて分かりづらいかもしれませんが、使いこなせるようになったら便利ですよ」
……テレビショッピングに出演しているのか、僕は。
ふと、そんなことを考えてしまった。
「今日お話した内容以外のことも、徐々に試してみれば良いかもしれませんね」
「せやね! また自分でもやってみるわ!」
そう。それがいい。
何事も、最初は習えば早いが、それ以降は自分で積み上げてゆくものだ。習うことも大事だが、それだけでは、ある程度で止まってしまう。自身で考え、行動を積み重ねる。そういうことも、時には必要。そうすることで、習うだけでは得ることのできない達成感を味わえるだろうし、自信もつくはずだ。
「ほんならそろそろ帰るね」
しばらくして、バチャリカは椅子から立ち上がる。
「あ、はい。付き合って下さって、ありがとうございました」
「ん? 付き合ってもろたんはこっちやよ?」
「いえ。スピーディーな対応ができずお待たせしてしまいましたので」
「いやいや! 分かりやすかった! ホンマやよ!」
バチャリカの口から出る言葉は、とても優しかった。
もっとも、「教えた」と言っても、調べたりしながらだったが。
正直、僕が彼女に教えられることなんて、限られている。彼女よりかは詳しいものの、僕は、普通の若者のようにスマートフォンを使いこなしてはいないからだ。
ただ、調べることができるという僕の強みを発揮できたことは、良かったのかもしれない。
バチャリカは、説明書を読んで使用する世代のようで、取り敢えず触ってみるということは考えになかったようで。だから、僕のかなり適当なやり方には少し戸惑っているようなところもあったが、それでも、特に何も言わずに付き合ってくれた。
「写真。メール。電話。いんたーねっと。やね!」
「はい」
一時間程度で、おおよそ説明することができた。
これでもう、バチャリカはスマートフォンを使えるはずだ。
写真は撮れる。連絡もできる。そして、ちょっとした調べものなんかもできる。
完璧とは言えないかもしれないが、日常生活を送るうえでならこのくらい使えたら十分だろう。
「これでもう上級者やね!」
「初級は完璧というくらいですかね……」
「ははは! 分かってる分かってる! 冗談やんかー」
冗談だったのか。
だとしたら、真剣に返してしまって申し訳ない。
「せやけど、このくらい使えたら、そんな困らへんと思うわ。孫とも連絡できるしねー」
それは良いことだ。
「少しでもお役に立てたなら良かったです」
「いややわ兄ちゃん。少し、なんかやないで。凄い役に立ってるで」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
嬉しいけれど、恥ずかしさもあって。半ば無意識のうちに、顔が赤く染まってしまった。するとバチャリカは、それをすぐに発見し、言ってくる。
「んまー可愛えーなー! 赤なってしもて!」
できれば触れないでほしかった。
なぜなら、触れられたことによって余計に赤面してしまうから。
そっとしておいてくれれば、じきに普通の状態に戻ったというのに、触れられるとさらに恥ずかしくなってしまう。
「す、すみません……」
「ええよええよ! 気にせんといて!」
バチャリカは僕を弄びつつ、片手の指一本でスマートフォンの画面を操作してみている。その表情は柔らかく、楽しげだ。
「いやー、それにしてもコレ、面白いもんやねー」
「はい。最初はできることが多すぎて分かりづらいかもしれませんが、使いこなせるようになったら便利ですよ」
……テレビショッピングに出演しているのか、僕は。
ふと、そんなことを考えてしまった。
「今日お話した内容以外のことも、徐々に試してみれば良いかもしれませんね」
「せやね! また自分でもやってみるわ!」
そう。それがいい。
何事も、最初は習えば早いが、それ以降は自分で積み上げてゆくものだ。習うことも大事だが、それだけでは、ある程度で止まってしまう。自身で考え、行動を積み重ねる。そういうことも、時には必要。そうすることで、習うだけでは得ることのできない達成感を味わえるだろうし、自信もつくはずだ。
「ほんならそろそろ帰るね」
しばらくして、バチャリカは椅子から立ち上がる。
「あ、はい。付き合って下さって、ありがとうございました」
「ん? 付き合ってもろたんはこっちやよ?」
「いえ。スピーディーな対応ができずお待たせしてしまいましたので」
「いやいや! 分かりやすかった! ホンマやよ!」
バチャリカの口から出る言葉は、とても優しかった。
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