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逃がさない
第二話
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「どうかしたのか?美咲」
大学内のカフェテリアで次の講義までの時間を潰していた俺は、同席していた友人から心配そうに声をかけられ、はっとして顔を上げた。
どうやら、無意識のうちにぼんやりしていたらしい。
「ごめん、なんでもないよ。こないだ買った小説が面白くて途中でやめられなくて、寝不足なだけ」
俺は笑って誤魔化した。
結局、あれから一睡も出来なかった。
普通なら気にならないちょっとした物音にも過敏に反応してしまい、気が付いたら朝になっていた。
「本当か?読書も程々にしとけよ。途中でやめられない気持ちはわかるけど、その綺麗な顔に隈なんか作るなよ」
「は?」
事あるごとに俺のことを綺麗というこの友人の美的感覚は、他の人とかけ離れているに違いない。
中肉中背で顔も普通の俺のことを綺麗なんて言うのは彼だけだ。
それに綺麗だというなら、彼の方だ。
すらりとした長身に、柔らかそうな色素の薄い髪。
誰に対しても真っ直ぐに視線を合わせる彼の瞳は、透き通った茶色だ。
すっと通った鼻梁も引き締まった口元も全てが完璧で、10人中10人が綺麗だと評価するだろう。
現に今も、彼を見つめている女の子達の熱い視線を感じるし、直接声をかけてくる積極的な女の子も多い。
彼、二宮慎は学内でも有名な人物だ。
その美貌と飾らない性格で、女の子のみならず男からも一目置かれていた。
彼の周りには華やかな人間が自然と集まり、地味な俺とは一生縁がないと思っていた。
たまたま講義で隣の席になるまでは……。
話してみたら意外に話しやすくて、趣味まで一緒だった俺達が意気投合するまでは時間がかからなかった。
俺の趣味は読書で、休みの日は家で小説を読んでいることが多い。
ただ、好きな作家がマイナー過ぎてあんまり人に理解されなかったが、慎もその作家が好きなことを知ってからは、一気に距離が縮まった気がする。
一人で過ごすことの多かった休日は、慎と一緒に本屋に行ったり、お互いの家で過ごすことがいつの間にか当たり前になっていた。
その頃から、慎は他の友人の誘いを断ることが多くなった。
付き合いが悪いぞ、と言われてもだだ笑っているだけの慎を見て、俺に構わず遊んで来いよと言ったのは片手で数えきれないほどだ。
その度に慎に、お前といる方が落ち着くからと言われ、俺は何も言えなくなった。
俺のことを優先してくれるのは嬉しいけど、それで慎の交友関係が狭くなるのは嫌だ。
「……っ!?」
メールの着信を知らせる音楽が聞こえて、ビクッとする。
(まさか、また?)
アイツからのメールかと思うと、怖くてスマホを見ることが出来ない。
「あ、ごめん。俺のケータイだ」
慎はスマホを取り出して、メールチェックをし出す。
アイツからのメールじゃなかったことにほっとしつつ、慎と着信音まで一緒かと思うと自然に笑みが浮かんだ。
大学内のカフェテリアで次の講義までの時間を潰していた俺は、同席していた友人から心配そうに声をかけられ、はっとして顔を上げた。
どうやら、無意識のうちにぼんやりしていたらしい。
「ごめん、なんでもないよ。こないだ買った小説が面白くて途中でやめられなくて、寝不足なだけ」
俺は笑って誤魔化した。
結局、あれから一睡も出来なかった。
普通なら気にならないちょっとした物音にも過敏に反応してしまい、気が付いたら朝になっていた。
「本当か?読書も程々にしとけよ。途中でやめられない気持ちはわかるけど、その綺麗な顔に隈なんか作るなよ」
「は?」
事あるごとに俺のことを綺麗というこの友人の美的感覚は、他の人とかけ離れているに違いない。
中肉中背で顔も普通の俺のことを綺麗なんて言うのは彼だけだ。
それに綺麗だというなら、彼の方だ。
すらりとした長身に、柔らかそうな色素の薄い髪。
誰に対しても真っ直ぐに視線を合わせる彼の瞳は、透き通った茶色だ。
すっと通った鼻梁も引き締まった口元も全てが完璧で、10人中10人が綺麗だと評価するだろう。
現に今も、彼を見つめている女の子達の熱い視線を感じるし、直接声をかけてくる積極的な女の子も多い。
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たまたま講義で隣の席になるまでは……。
話してみたら意外に話しやすくて、趣味まで一緒だった俺達が意気投合するまでは時間がかからなかった。
俺の趣味は読書で、休みの日は家で小説を読んでいることが多い。
ただ、好きな作家がマイナー過ぎてあんまり人に理解されなかったが、慎もその作家が好きなことを知ってからは、一気に距離が縮まった気がする。
一人で過ごすことの多かった休日は、慎と一緒に本屋に行ったり、お互いの家で過ごすことがいつの間にか当たり前になっていた。
その頃から、慎は他の友人の誘いを断ることが多くなった。
付き合いが悪いぞ、と言われてもだだ笑っているだけの慎を見て、俺に構わず遊んで来いよと言ったのは片手で数えきれないほどだ。
その度に慎に、お前といる方が落ち着くからと言われ、俺は何も言えなくなった。
俺のことを優先してくれるのは嬉しいけど、それで慎の交友関係が狭くなるのは嫌だ。
「……っ!?」
メールの着信を知らせる音楽が聞こえて、ビクッとする。
(まさか、また?)
アイツからのメールかと思うと、怖くてスマホを見ることが出来ない。
「あ、ごめん。俺のケータイだ」
慎はスマホを取り出して、メールチェックをし出す。
アイツからのメールじゃなかったことにほっとしつつ、慎と着信音まで一緒かと思うと自然に笑みが浮かんだ。
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