フェイク

椎奈風音

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転校

第一話

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(なんでこんな格好をしなきゃいけないんだ?)
 俺は校門を潜りながら、内心首を傾げる。
 あの時、侑から貰った袋に入っていたのは、カツラと眼鏡だった。

 俺は高校入学と同時に周りの影響もあって、髪を金髪に脱色していた。
 こんな進学校に金髪なんかで登校した日には、悪目立ちするだけじゃなく一発で停学になりそうだ。
 だからカツラが必要なのはわかるが、この黒縁眼鏡はなんなんだ?
 俺は視力悪くないし、眼鏡をかけたこともない。

(しかも、一体どんな趣味してるんだ?)
 ボサボサのカツラは前髪が長いせいで鬱陶しいし、黒縁眼鏡はかけ慣れてないせいか時々ずれてくる。
 心なしか周りの生徒達に遠巻きにされている気がする。
 まぁ、俺もこんな得体の知れない奴がいたら、まず避けると思うが……。

(……しかし、無駄に広い学校だな)
 邪魔な前髪の隙間から見える校舎は、まるで中世の城みたいだ。
 今時レンガ造りなんて、古風なのかメルヘンチックなのかよくわからない。

 校舎の中に入ると、大理石のロビーが一面に広がっていた。
(ここは何処の高級ホテルだよ!?)
 俺は呆気に取られて、その場に立ち尽くした。
 これなら、あの馬鹿高い授業料も納得出来る。
 侑から設備が整っていると聞いていたが、これはやり過ぎじゃないか?

 夏は蒸し風呂、冬は修繕されることのない割れた窓から冷気が入る前の学校とは大違いだ。
 そして、通っている生徒も全く違う。
 ここじゃ、バット持ってガラス割りまくる奴なんているわけないしな。

(理事長室って、何処だろう?)
 一番始めに理事長室に行けと言われていたのを思い出した俺は、無駄に広いロビーを見渡した。
 人に聞こうにも俺がぼんやりしている間に、あれだけいた生徒がいなくなっている。
(一体、何処に消えたんだ?)
 一人取り残された俺は、仕方なく自力で探すことにした。

 自分の姿が映るくらい磨き上げられた床を傷つけないかヒヤヒヤしながら歩いていると、突き当たりにエレベーターがあった。
 近づくと壁に何かが書いてあるのがわかる。

『理事長室 5階』

(……成る程ね……)
 広いは広いなりに考えているわけだ。
 俺はエレベーターのボタンを押して、中に乗り込んだ。
 変わっていく階数表示を見ながら、あまりのカルチャーショックにしばらく立ち直れない気がした。
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