フェイク

椎奈風音

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鷹side

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「……ふ~ん?」
 生徒会室の窓から外を眺めていた俺は、面白いものを見つけて目を細めた。
 今時オタクでさえしないような格好をした奴が、校舎を見上げてキョロキョロしている。
 背はそこそこあるようだが、黒縁眼鏡と鬱陶しい前髪に隠されて顔は全く見えない。
(アイツ、何者だ?)
 この学園の生徒の顔は全て頭に入っているが、あの男は見たことがない。
 あんな変わった奴、一度見たら忘れない筈だが……?

「何か面白いものでもありましたか?」
「……まぁな」
 声がした方を振り向くと、女と見紛うほどの繊細な美貌の男と目が合う。
 生徒会副会長であるしんとは幼馴染で腐れ縁だ。
 誰に対しても敬語で話す慎は一見温厚そうに見えるが、中身はなかなか強かだ。

「珍しいですね。貴方が何かに興味を持つなんて……」
「そうか?」
 ニヤリと笑いながら惚けると、慎がついていけないとばかりに肩を竦めた。
「貴方がハルカ以外に執着するなんて……」
 まるで天変地異の前触れですねと言われ、俺は心外だとばかりに顔を顰める。
 ハルカとその辺の男を同列にあげるなんて、どういう神経をしてるんだ?

 ハルカは俺の率いる『スパイラル』と敵対している族の副総長だ。
 いつも闇に紛れそうな黒い服を着ていて、艶やかな金髪との対比が妙に艶めかしい。
 その姿に欲情した者はかなりいるだろうが、彼は色々な意味で不可侵の女神だった。

 ……まず、ハルカに勝てる者がいない。

 族同士の抗争では負け知らずで、ほとんど一撃で相手を倒す。
 長身でしなやかなに伸びた手足から繰り出される蹴りは強烈だが、動きが優雅なせいか舞を舞っているみたいに見える。
 そして、ハルカは俺が唯一負けた相手だった。

 護身術として、色々な格闘技を習ってきた俺でさえ、全く歯が立たない強さを持つ男――。
 今まで年の割に冷めていて、何者にも執着しなかった俺が、初めて心を動かされた存在だった。
 だが、それから半年後、ハルカは忽然と姿を消した。

 そして消えたのは、ハルカだけじゃない。
 元々ハルカがいたチームは、チームと言っていいのかわからないくらい少人数で形成されていた。
 二年前に突然現れて、圧倒的な強さで次々と有力なチームを潰していった。
 総長は小柄な男で、いつも目深にフードを被っているせいで、顔を見たヤツはいない。
 周りの幹部が総長を守るように戦っていたから、総長がどれほどの強さかはわからないが、あれだけの精鋭を纏めるのだから弱いはずがない。
 
 うちのチームの参謀は情報収集に長けた人物だが、彼の力を持ってしても、彼らが何人で形成されているかも、何処の誰かもわからなかった。
 唯一分かったのが、副総長の名前が『ハルカ』ということだけだ。
 チーム名さえもわからない彼らのことを、いつしか最悪の悪夢という意味で『ナイトメア』と呼ぶようになった。
『ナイトメア』は、族同士の抗争で一度も負けることなく、突然いなくなった。 

(もう一度、ハルカに会いたい)
 自分でも何故こんなにもハルカに執着するかわからない。
 あの感情のない美しい漆黒の瞳に映りたい。
 そして、あの美しい男を自分だけのものにしたい。
 一度溢れ出した感情は、自分でも止めることは出来ない。
 会えない日が続く度に、純粋だった思いは次第に暗く歪んでいく気がする。

 ……次に会えたら、どんな手段を使っても絶対に逃さない。
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