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プロローグ
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「ねぇ、ハルちゃん。お願いがあるんだけど」
弟の侑が上目遣いで見上げてくる。
男にしては大きく黒目がちな瞳は、濡れたように潤んでいる。
「な、何?」
俺は警戒しながら問いかけた。
今までの経験上、侑がこんな顔をする時は碌なことがない。
侑は俺の双子の弟だ。
二卵性だからか、俺と侑は似た所がまるでない。
身長も俺より10センチは低く、体つきも華奢だ。
濡れたような艶やかな漆黒の髪と瞳を持つ日本人形のような弟は、誰が見ても文句なしに可愛い。
……ただし、外見だけだけど。
「あのさ、僕と一緒の学校に転校して欲しいんだけど」
「はぁ!?」
俺は驚きのあまり、空いた口が塞がらなかった。
(コイツ、寝惚けてんのか?)
侑の通っている高校は、偏差値の高い私立校だ。
それに比べ、俺はこの辺りの不良がたむろするような三流校。
まず編入試験に受かるわけがない。
「何言ってんだ?俺があんな進学校に入れるわけないし」
「嘘はよくないよ、ハルちゃん」
にっこりと笑って断言した侑に、心臓が嫌な音を立てる。
「高校入試、手を抜いたでしょ」
「……っ!?」
図星を指されて、唖然とする。
まさか、侑にバレているとは思わなかった。
俺と侑は小さい頃から、何をするのも一緒だった。
昔から可愛く常に周りからチヤホヤされていた侑と違い、平凡な容姿の俺は全く見向きもされなかった。
目立ちたい願望がない俺は、その環境に特に不満はなかったが、俺の人生はこの双子の弟のせいで、波乱続きだと言っても過言ではない。
侑は何故かその取り巻きの中から親しい友達を作らず、いつも俺に付いてまわっていた。
そうなると当然、相手にされない奴らのやっかみは俺に向かうわけで……。
侑と違う高校を受けて、やっと侑から解放されたと思っていたのに、やっぱり世の中はそう甘くはないらしい。
「……ねぇ、ハルちゃん。僕のお願い聞いてくれないと、『スパイラル』の奴らにハルちゃんのことバラしちゃうよ?」
「っ!?」
耳もとで囁かれた爆弾発言に、俺は弾かれたように侑を見た。
『スパイラル』は地元でも1、2を争う有名な不良のグループだ。
喧嘩をすればほぼ負けなしで、歴代最強と言われる総長と、情報操作に長けた抜群に頭の切れる副総長の二枚看板のチームで、二人に憧れてチームに入るメンバーも多く、この辺りでは一番大きな不良グループだ。
俺と侑が昔ヤンチャをしていた頃に、一度だけ戦ったことがあるが、出来ればもう会いたくない。
特に月夜の下で輝く美しい銀色の髪と瞳を持つアイツには……。
「……バラすって、そんなことをしたら自分の首も絞めるんじゃないか?」
俺の弱点は、同時に侑の弱点にもなるはずだ。
「……悠。俺がそんなヘマをすると思う?」
急に侑の声が低くなり、ガラリと口調が変わる。
可愛い顔は笑みを浮かべてはいるが、目が全く笑っていない。
確かに侑なら『面白い』という理由だけで、俺をどん底に突き落とすぐらい平気でしそうだ。
コイツは、天使の顔をした悪魔だ。
「……っ。わかった!行けばいいんだろ!!」
侑に逆らいきれない俺は、ヘタレかもしれない。
「じゃあ、ハルちゃん。編入試験来週だから、絶対に受かってね」
「……マジかよ」
これは落ちたら、何をされるかわからない。
「あと、これは僕からのプレゼントだから、絶対に使ってね」
強引に渡された紙袋の中身を見て、俺は盛大なため息をついた。
弟の侑が上目遣いで見上げてくる。
男にしては大きく黒目がちな瞳は、濡れたように潤んでいる。
「な、何?」
俺は警戒しながら問いかけた。
今までの経験上、侑がこんな顔をする時は碌なことがない。
侑は俺の双子の弟だ。
二卵性だからか、俺と侑は似た所がまるでない。
身長も俺より10センチは低く、体つきも華奢だ。
濡れたような艶やかな漆黒の髪と瞳を持つ日本人形のような弟は、誰が見ても文句なしに可愛い。
……ただし、外見だけだけど。
「あのさ、僕と一緒の学校に転校して欲しいんだけど」
「はぁ!?」
俺は驚きのあまり、空いた口が塞がらなかった。
(コイツ、寝惚けてんのか?)
侑の通っている高校は、偏差値の高い私立校だ。
それに比べ、俺はこの辺りの不良がたむろするような三流校。
まず編入試験に受かるわけがない。
「何言ってんだ?俺があんな進学校に入れるわけないし」
「嘘はよくないよ、ハルちゃん」
にっこりと笑って断言した侑に、心臓が嫌な音を立てる。
「高校入試、手を抜いたでしょ」
「……っ!?」
図星を指されて、唖然とする。
まさか、侑にバレているとは思わなかった。
俺と侑は小さい頃から、何をするのも一緒だった。
昔から可愛く常に周りからチヤホヤされていた侑と違い、平凡な容姿の俺は全く見向きもされなかった。
目立ちたい願望がない俺は、その環境に特に不満はなかったが、俺の人生はこの双子の弟のせいで、波乱続きだと言っても過言ではない。
侑は何故かその取り巻きの中から親しい友達を作らず、いつも俺に付いてまわっていた。
そうなると当然、相手にされない奴らのやっかみは俺に向かうわけで……。
侑と違う高校を受けて、やっと侑から解放されたと思っていたのに、やっぱり世の中はそう甘くはないらしい。
「……ねぇ、ハルちゃん。僕のお願い聞いてくれないと、『スパイラル』の奴らにハルちゃんのことバラしちゃうよ?」
「っ!?」
耳もとで囁かれた爆弾発言に、俺は弾かれたように侑を見た。
『スパイラル』は地元でも1、2を争う有名な不良のグループだ。
喧嘩をすればほぼ負けなしで、歴代最強と言われる総長と、情報操作に長けた抜群に頭の切れる副総長の二枚看板のチームで、二人に憧れてチームに入るメンバーも多く、この辺りでは一番大きな不良グループだ。
俺と侑が昔ヤンチャをしていた頃に、一度だけ戦ったことがあるが、出来ればもう会いたくない。
特に月夜の下で輝く美しい銀色の髪と瞳を持つアイツには……。
「……バラすって、そんなことをしたら自分の首も絞めるんじゃないか?」
俺の弱点は、同時に侑の弱点にもなるはずだ。
「……悠。俺がそんなヘマをすると思う?」
急に侑の声が低くなり、ガラリと口調が変わる。
可愛い顔は笑みを浮かべてはいるが、目が全く笑っていない。
確かに侑なら『面白い』という理由だけで、俺をどん底に突き落とすぐらい平気でしそうだ。
コイツは、天使の顔をした悪魔だ。
「……っ。わかった!行けばいいんだろ!!」
侑に逆らいきれない俺は、ヘタレかもしれない。
「じゃあ、ハルちゃん。編入試験来週だから、絶対に受かってね」
「……マジかよ」
これは落ちたら、何をされるかわからない。
「あと、これは僕からのプレゼントだから、絶対に使ってね」
強引に渡された紙袋の中身を見て、俺は盛大なため息をついた。
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