12 / 20
第三章
4 sideローレンツ
しおりを挟む「だって、私聞いちゃったんだもん。先生が、『いっそのこと元の世界に帰ってくれたらよかったのに』って言ってるの……そんなに迷惑なら、もう関わらずに生きていくから」
「それは違う!」
よりにもよってそんな部分を聞かれていたのかと思って、ローレンツは焦った。そんなことを聞いてしまえば、サーヤが傷つくのも当然だ。
だが、今ここで正しい意味を伝えるわけにはいかなかった。自分以外の相手を想っていることに嫉妬してあんな発言をしただなんて、かっこ悪すぎて知られるわけにはいかない。
「あー……あまりにいたたまれないから俺、口挟んじゃいますね」
それまでずっと黙って気配を殺していたライマーが、気まずそうに口を開いた。
そういえば彼をそのままにしてしまっていたと思い出し、何とも言えない気分になったが、ローレンツよりも彼のほうがよほど居心地が悪かっただろう。
〝無害です〟と印象づけるためであろう笑みを顔に貼りつけ、怒りと悲しみではち切れんばかりのサーヤをなだめるような仕草をする。
「サーヤちゃんは、ローレンツ様にいろいろ口出しされて面白くないんだと思うけど、俺はローレンツ様の気持ちがわかるな。自覚はないのかもしれないけど、君ってば本当に可愛いんだよ? しかも渡り人だから、この国では唯一無二ってことだし。君みたいな可愛い子と付き合いたいなーって思ったって、君の代わりはどこにもいないわけ。つまり、競争率が高いってことなんだよな。だから、君を狙ってるやつがたくさんいて、君を守りたいローレンツ様は気が気じゃないわけ」
口が上手そうな男だなと感じていたが、ライマーはそんなことをさらりと言ってのけた。サーヤはその言葉を丸々信じたわけではなさそうだが、先ほどまで刺々しい雰囲気だったのが、少し柔らかくなる。
どうやら聞く耳を持ってもらえそうな空気になったのを感じて、ローレンツは誤解を解こうと口を開く。
「私がなぜ、『いっそのこと元の世界に帰ってくれたらよかったのに』と言ったかというと、あまりにもサーヤが心配だったからなんだ。もちろん、会えなくなるのはつらいし、元の世界でも危険はあるだろう。だが、この国に残ることで生じる危険もある。だから心配で……様々な危険から遠ざけてやりたいと思って、つい口うるさくしてしまった」
「先生……」
ライマーのとりなしのおかげでか、ローレンツの言葉は何とかサーヤに届いたようだ。悲しそうだった顔に、うっすらと安堵の表情が浮かぶ。それを見て、ローレンツもほっとした。
真実は伏せつつも、彼女を大切に思っているのを伝えることができてよかった。
「というわけでサーヤちゃんはいろんなやつから狙われて危ないから、家までローレンツ様に送ってもらいなね」
何とか場の空気が整ったことで、ライマーはそそくさと退散しようとする。それを見てローレンツは焦った。自分が割って入ったことで、サーヤと彼との時間を邪魔してしまったことに、今さらながら気がついたのだ。
「送るって、私がか? それは君の役目じゃないのか?」
「俺の役目じゃないんです。俺こそ、サーヤちゃんの何でもないんで! というより、俺はターニャちゃん狙いなんで」
言うや否や、ライマーは手を振りながら逃げるように去っていった。残されたローレンツはほっとしたような拍子抜けしたような感じで、一気に気が抜けてしまった。
「……というわけだから、家まで送ろう。まだ明るい時間帯とはいえ、せっかく一緒にいるわけだし」
「うん!」
格好がつかない申し出になってしまったが、サーヤが気にしている様子はない。誤解が解けたことで元気になったようで、いつもと同じように見える。
駆けつけたとき、ライマーともめているように見えたのがなぜなのか気になったが、せっかく機嫌が直ったことを思うと、聞き出せなかった。それに、彼がサーヤを送る仲でもないというのなら、今日のところはそれでいいということにしておいたほうがいいだろう。
「サーヤ、私が君のことを大切に思っているのは、どんなときでも忘れないでいてくれ」
「……わかった」
歩きながら、さんざん悩んでようやく伝えられた言葉に、サーヤはふんわり笑って頷いた。
どうあったとしても、今後もこの笑顔だけは守り抜こうと改めて決意した。
30
お気に入りに追加
200
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる