魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール

文字の大きさ
上 下
26 / 42

刺し違えてでも

しおりを挟む
「刺し違えてでも……あのメルさんが……」

 いつも飄々と語るメルが、そんなふうに考えていたのか……ライナスは少し疑問に思ったが、たしかに、「ヴァンパイアロード」襲撃の話をしたときだけは表情が強ばっていたことを思い出した。

「そう……もし、姉さんが自分のためだけに、『あのアイテム』の入手を目指していたならば、多分私たちに協力を求めることなく、全部一人でなんとかしようとするか、もしくは、普通に戻ることを諦めたと思うの」

 ここでいう「あのアイテム」とは、七大神器の一つである「パナケイアの白杖」のことだ。
 普通に戻る、とは、日の光を存分に浴びられる、「普通の人間に戻る」という意味合いとなる。
 しかしそのためには未踏破、高難易度の遺跡を攻略し、どこにあるのか分からない神器を探さなければならない。
 いや……彼女達は、魔道具に関してはエキスパートだ。

「……ひょっとして、その『アイテム』の隠し場所か、もしくは『探し方』に心当りがあるのかい?」

「……まあ、少し博打的な方法にはなるけど、なくはないし、おおよその目処も立っている……でも、それはまだ不確かな情報だから、ライ君にも言うわけにはいかない。戦力が整わないうちに、一人で行っちゃったりされたら困るしね」

 そう注意を受けると、ライナスも苦笑いを浮かべるしかなかった。

「……姉さんは、本当に優しくて、家族思いの……私の憧れ、理想の人でもある。そんな姉さんが、私や周囲の人を危険に巻き込むことを覚悟の上で、戦力を集めようとしている……そのぐらい、その『敵』は強大な相手なの。もし、例の『魔石』がその『敵』に適合していたならば、多分今頃、世界はめちゃくちゃになっていた……そう断言できる」

 再び真剣な表情で語るミク。
 周囲を警戒し、誰もいないにも関わらず、『ヴェルサーガ』という単語は使わない。それぐらい警戒しているのだ。

「……だから、私が冒険に出ることは、その重要な一歩目に過ぎない。ハンターとしてランクを上げれば、今まで以上に情報も入ってくるし、信用のおける仲間も増えるかもしれない……でも、私一人じゃ危険すぎた。だから、ライ君、なの。姉さんも認めた騎士候補。巻き込んじゃったことは本当に申し訳なく思っているし、今からでも断ってもらっても良いけど……」

「そんなことするわけないだろう? 僕は誓ったんだ、君たちに協力するって」

 ライナスは真顔でそう断言した。

「……うん、ありがと。ライ君のこと、信用します……あと、私が興味本位や、自分の魔道具の力を試したいというだけで冒険に出るって言ってるんじゃないってことは……まあ、ちょっとはそれもあるけど……分かってもらえると嬉しいな」

「それはもちろん。今の話を聞いて……それ以前に、二年も前、十四歳の時にそんな大変な体験をしていたって聞いて、そんな軽い気持ちじゃないってことぐらい、理解できるよ」

「うん……ありがと。やっぱりライ君、優しいね……じゃあ、私もできる限りのこと、するから。まずは装備の充実。剣と鎧、新しいのにしなくちゃね。カラエフさんも、きっと気に入ってくれるから」

 そう語るミクは、笑顔を取り戻していた。
 しかし、ライナスはそうではなかった。

「その、カラエフさんっていう人はどういう人なんだい?」

「……えっと、前にも言ったかな? 腕の良い職人さんで、自分の工房を持っていて、何人もお弟子さんを育てているの。気に入ってもらえたら、とっておきの武器や防具を、比較的安く譲ってくれたりするよ。まあ、ちょっと気難しくて、頑固なところはあるけど……」

「君は、気に入ってもらえているんだよね?」

「うん、私が作った魔道具や魔水晶、収めているからね……あ、工房見えてきたよ!」

 ミクが指さす方向に、石造りの建物が見えてきた。
 町外れに存在したそれは、ライナスが想像したものより大きく、また、周囲を厳重に塀で囲まれており、砦のようにすら感じられた。
 幾本もの煙が立ち上っている。

 金属製の、頑丈そうな高さ三メールはあろうかという門の前には、槍持の門番が立っていた。
 だが、ミクは顔パス。彼女が連れていたライナスも、いくつか質問を受けただけで通してもらえた。

 しばらく門の内側の小屋で待機した後、カラエフの従者だという者が建物から出てきて、挨拶を交わした後、工房まで案内された。
 そして初老の男……カラエフに合わせてもらえたのだが、ライナスを初めて見た彼の一言は、

「……気に入らねえな……」

 だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...