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2.初夜に呼ばれた護衛騎士
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大公邸に到着すると、執事が夫妻に挨拶し、大公とともに去り、ローズは侍女たちに妃の部屋の浴室へ連れていかれた。
夫妻それぞれの寝室は廊下からの扉と別に直接行き来できる扉でつながっており、閨を共にする際には妃の部屋で身支度し、家人の通る廊下に出なくとも大公の寝室へ行くことができる。
浴槽で体を洗い、侍女に香油を全身に塗り込まれたローズはナイトドレスを身に着けた。
コルセットを付けない、薄いナイトドレス姿で大公閣下の前に出ることは心もとなく思えた。
初夜についてすでに母となっている姉たちに教えられた。ただ夫に任せればよいと。夫の体温を感じ、かわいがってもらえばよいと。
思い続けたカーライルとの初夜に期待と不安と恥ずかしさで、心臓が音を立てていた。
身支度を終え、侍女が大公側の侍従に準備を確認し、部屋の間の扉が開かれた。侍女たちは辞し、ローズひとり、夫の部屋に入った。
「大公閣下…。」
「ローズ、ここへ」
大公は長椅子でブランデーのグラスを手にしていた。ローズはその横にかけた。名前を呼ばれるのは久しぶりだ。大公の一言に、ローズの心が躍った。
「そなたにはこれは強すぎるだろう、はちみつ酒を用意させた。」
「ありがとうございます。」
大公から手渡しされたグラスの甘い液体でローズはすこしずつ唇を濡らした。こんな風に二人ですごす日々がこれから続くのだろうか。ローズは幸せをかみしめた。
「今日からそなたは私のものだ。たとえ望まなくとも。・・・覚悟はしてきたか?」
「えっ?」
カーライルの妻になることを、望まなかったはずないのに。カーライルに自分の気持ちが伝わっていないことに痛みを感じる。
「閣下、私は・・・」
大公が、ローズの手からはちみつ酒のグラスを奪ってテーブル置くと、ローズの肩を抱き寄せ、唇を重ねた。
ローズは、いよいよ初夜の営みが始まり、カーライルに抱かれるのだと、緊張を覚えながらドキドキと胸が高鳴るのを感じた。
唇の弾力を確かめるような動きから、大公の舌がローズの口に差し込まれ、舌をからめとった。ローズは大公にされるままにした。どうするのが正しいのかわからない。
「たどたどしいな。」
大公が唇を離してささやく。
「申し訳ございません。」
生真面目に答えるローズに大公が笑った。
「初夜なのだ。純潔の花嫁が閨に不慣れなのは当然だ。かえってそそるというもの・・・」
憧れの年上の婚約者から、今まで想像もしなかったことを言われ、成人したばかりのローズは驚きと戸惑いで言葉を返せず、うつむいた。
大公は突然立ち上がり廊下へ出るドアを開けた。ローズはいよいよと決意した営みの中断に戸惑った。
「ギルフォード」
大公に名を呼ばれたドアの外にいた護衛騎士が入室し、挨拶に下げた頭を戻し、目の前にナイトドレスの大公妃がいることに気づき顔を反らした。
「大公妃!申し訳ございません!」
「よい。私が呼んだのだから。」
夫の意図するところがわからず当惑したローズはただ肩にかけたショールの前を合わせた。夫婦の初夜に、夫以外の男と顔を合わせることなどないと思っていた。
「ギルフォード、近くへ」
初夜の夫婦の寝室に呼ばれ、遠慮がちに入り口で妃から目をそらしていた護衛騎士は、一歩前に出た。
ナイトドレス姿のローズは不安な顔で夫の顔を覗き込んだ。
「大公閣下…?」
「ギルフォード、そなた、主である私の妻に、懸想しておるのだろう?遠慮せず我が妻の姿を見るがよい。」
護衛騎士の肩がびくりと動いた。
「閣下!けっしてどのような…」
「みくびるな、貴様は私の眼を節穴と思っているのか」
皇族として幼少期から人の真意を測りながら育ってきた皇子であった大公は人の表情を読むことに長けていた。
護衛騎士が床に膝をついて頭を垂れた。
「…申し訳ございません。大公閣下の婚約者として度々いらっしゃる妃の美しさに見とれ、あこがれていたのは事実でございます。わかっていでもどうしても抑えきれず…。」
「お前がわが妻にどのような気持ちを抱こうと、お前ごときが手に入れられる存在ではない。」
ローズは困惑した。婚儀を終えた初夜の夫婦の寝所に護衛騎士を呼びつけ、隠していた恋情を暴いて責め立てる夫の行動の行きつく先が見えなかった。
夫妻それぞれの寝室は廊下からの扉と別に直接行き来できる扉でつながっており、閨を共にする際には妃の部屋で身支度し、家人の通る廊下に出なくとも大公の寝室へ行くことができる。
浴槽で体を洗い、侍女に香油を全身に塗り込まれたローズはナイトドレスを身に着けた。
コルセットを付けない、薄いナイトドレス姿で大公閣下の前に出ることは心もとなく思えた。
初夜についてすでに母となっている姉たちに教えられた。ただ夫に任せればよいと。夫の体温を感じ、かわいがってもらえばよいと。
思い続けたカーライルとの初夜に期待と不安と恥ずかしさで、心臓が音を立てていた。
身支度を終え、侍女が大公側の侍従に準備を確認し、部屋の間の扉が開かれた。侍女たちは辞し、ローズひとり、夫の部屋に入った。
「大公閣下…。」
「ローズ、ここへ」
大公は長椅子でブランデーのグラスを手にしていた。ローズはその横にかけた。名前を呼ばれるのは久しぶりだ。大公の一言に、ローズの心が躍った。
「そなたにはこれは強すぎるだろう、はちみつ酒を用意させた。」
「ありがとうございます。」
大公から手渡しされたグラスの甘い液体でローズはすこしずつ唇を濡らした。こんな風に二人ですごす日々がこれから続くのだろうか。ローズは幸せをかみしめた。
「今日からそなたは私のものだ。たとえ望まなくとも。・・・覚悟はしてきたか?」
「えっ?」
カーライルの妻になることを、望まなかったはずないのに。カーライルに自分の気持ちが伝わっていないことに痛みを感じる。
「閣下、私は・・・」
大公が、ローズの手からはちみつ酒のグラスを奪ってテーブル置くと、ローズの肩を抱き寄せ、唇を重ねた。
ローズは、いよいよ初夜の営みが始まり、カーライルに抱かれるのだと、緊張を覚えながらドキドキと胸が高鳴るのを感じた。
唇の弾力を確かめるような動きから、大公の舌がローズの口に差し込まれ、舌をからめとった。ローズは大公にされるままにした。どうするのが正しいのかわからない。
「たどたどしいな。」
大公が唇を離してささやく。
「申し訳ございません。」
生真面目に答えるローズに大公が笑った。
「初夜なのだ。純潔の花嫁が閨に不慣れなのは当然だ。かえってそそるというもの・・・」
憧れの年上の婚約者から、今まで想像もしなかったことを言われ、成人したばかりのローズは驚きと戸惑いで言葉を返せず、うつむいた。
大公は突然立ち上がり廊下へ出るドアを開けた。ローズはいよいよと決意した営みの中断に戸惑った。
「ギルフォード」
大公に名を呼ばれたドアの外にいた護衛騎士が入室し、挨拶に下げた頭を戻し、目の前にナイトドレスの大公妃がいることに気づき顔を反らした。
「大公妃!申し訳ございません!」
「よい。私が呼んだのだから。」
夫の意図するところがわからず当惑したローズはただ肩にかけたショールの前を合わせた。夫婦の初夜に、夫以外の男と顔を合わせることなどないと思っていた。
「ギルフォード、近くへ」
初夜の夫婦の寝室に呼ばれ、遠慮がちに入り口で妃から目をそらしていた護衛騎士は、一歩前に出た。
ナイトドレス姿のローズは不安な顔で夫の顔を覗き込んだ。
「大公閣下…?」
「ギルフォード、そなた、主である私の妻に、懸想しておるのだろう?遠慮せず我が妻の姿を見るがよい。」
護衛騎士の肩がびくりと動いた。
「閣下!けっしてどのような…」
「みくびるな、貴様は私の眼を節穴と思っているのか」
皇族として幼少期から人の真意を測りながら育ってきた皇子であった大公は人の表情を読むことに長けていた。
護衛騎士が床に膝をついて頭を垂れた。
「…申し訳ございません。大公閣下の婚約者として度々いらっしゃる妃の美しさに見とれ、あこがれていたのは事実でございます。わかっていでもどうしても抑えきれず…。」
「お前がわが妻にどのような気持ちを抱こうと、お前ごときが手に入れられる存在ではない。」
ローズは困惑した。婚儀を終えた初夜の夫婦の寝所に護衛騎士を呼びつけ、隠していた恋情を暴いて責め立てる夫の行動の行きつく先が見えなかった。
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