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1.公爵令嬢ローズの結婚
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皇都の大聖堂では皇族のみが結婚式や葬儀を執り行うことができる。
その大聖堂で、盛大な結婚式が執り行われた。
教皇の前で誓いを立てたのはこの帝国唯一の大公カーライル・ブルマンと、公爵家令嬢ローズ・モンド。
大公は現皇帝の弟であり、皇帝に世継ぎのない現状では皇位継承権第1位である。
先帝の皇子として生まれ、父帝が崩御し、兄が即位したときに、19歳であったカーライルに兄は公爵位を与えた。3年前、近隣の海域で猛威を振るい、近隣諸国の海路を奪っていた海賊を一掃した功績で、海賊たちが占拠していた島々をまとめて公国として独立させ、その君主とされ、大公を名乗ることとなった。
帝国内のもともとの公爵領であった地域も引き続き治めつつ、兄帝の補佐として、帝都でもその役目を果たす文武を備えた若き実力者である。
漆黒の髪と瞳、常に冷静で近寄りがたい大公の横の可憐な花嫁はモンド公爵家の末娘、ローズ。
明るい金髪に透き通る青い瞳と白い肌。華やかで愛らしく、大公とは対照的な令嬢である。
ふたりはカーライルが皇子であったころから長く婚約していた。7歳年上のカーライルはローズにとっては憧れの人であり、自身の18での成人を待っての今日の婚儀の日は婚約から13年、首を長くして待ち続けた日であった。
婚儀後の宮廷のホールでの宴会の途中、宴のホストを大公の兄の皇帝夫妻と、新婦の親の公爵夫妻に任せ、大公夫妻は馬車で大公の屋敷へ戻った。新郎新婦は客人より先に宴を辞して初夜に望むのがこの国の貴族の習慣であった。
ローズは今夜二人が初夜を迎え、自分の貞操を大公に捧げるのを多くの人たちが知っているということに恥ずかしさを感じながら、夫となった大公とともに馬車に乗った。これまで、父や兄たち以外の異性と二人きりになることはなかった。婚約者同士といえども未婚の男女。一緒にいるときは必ず侍女や侍従、護衛がついていた。はじめて二人きりで狭い空間を共有したふたりはどこかぎくしゃくと緊張し、窓の外に目をやったり、相手の横顔をそっと見たりして互いに目を合わせることを避けていた。
婚約者として引き合わされたとき、ローズはまだ5歳でその頃のことはおぼろげな記憶であるが、7歳年上のカーライル皇子は兄のように接してくれ、ローズに読み書き、絵、歴史などを教えてくれたのはカーライルであり、幼いローズの人形遊びやままごとにも付き合ってくれていた。
カーライルが公爵になってからは、ローズは公務にいそしむカーライルとの距離を感じるようになった。「ローズ」と親しく呼んでいたのを「そなた」と呼び、婚約者同士の語らいの場も、茶会として公式に準備され、気軽に並んで絵を描いたり、一緒に本をめくったりすることもなくなった。
ローズは大人になった公爵には自分が子供で頼りなく、妃として不足すると思われているのではないかと不安になり、必要な教養を必死に学び、カーライルに認められようと努力したがカーライルからの愛情を示されたことはなかった。婚約者として望まれている自信は持てずにいた。
海賊討伐にカーライルが皇都を離れるとき、ブルマン公爵家の家門と自身のモンド公爵家の家紋を金糸で刺繍したハンカチをカーライルに渡した。
カーライルは受け取ったハンカチを胸に当ててローズの手の甲に口づけし
「そなたのもとに必ず戻る」
と約束した。
自分の刺繍したハンカチを大事そうに軍服の胸にしまうカーライルの姿に、ローズは感じていた二人の間の距離を打ち消した。その時のカーライルの姿が、婚約者としてのここまでのローズの心の支えであった。
その大聖堂で、盛大な結婚式が執り行われた。
教皇の前で誓いを立てたのはこの帝国唯一の大公カーライル・ブルマンと、公爵家令嬢ローズ・モンド。
大公は現皇帝の弟であり、皇帝に世継ぎのない現状では皇位継承権第1位である。
先帝の皇子として生まれ、父帝が崩御し、兄が即位したときに、19歳であったカーライルに兄は公爵位を与えた。3年前、近隣の海域で猛威を振るい、近隣諸国の海路を奪っていた海賊を一掃した功績で、海賊たちが占拠していた島々をまとめて公国として独立させ、その君主とされ、大公を名乗ることとなった。
帝国内のもともとの公爵領であった地域も引き続き治めつつ、兄帝の補佐として、帝都でもその役目を果たす文武を備えた若き実力者である。
漆黒の髪と瞳、常に冷静で近寄りがたい大公の横の可憐な花嫁はモンド公爵家の末娘、ローズ。
明るい金髪に透き通る青い瞳と白い肌。華やかで愛らしく、大公とは対照的な令嬢である。
ふたりはカーライルが皇子であったころから長く婚約していた。7歳年上のカーライルはローズにとっては憧れの人であり、自身の18での成人を待っての今日の婚儀の日は婚約から13年、首を長くして待ち続けた日であった。
婚儀後の宮廷のホールでの宴会の途中、宴のホストを大公の兄の皇帝夫妻と、新婦の親の公爵夫妻に任せ、大公夫妻は馬車で大公の屋敷へ戻った。新郎新婦は客人より先に宴を辞して初夜に望むのがこの国の貴族の習慣であった。
ローズは今夜二人が初夜を迎え、自分の貞操を大公に捧げるのを多くの人たちが知っているということに恥ずかしさを感じながら、夫となった大公とともに馬車に乗った。これまで、父や兄たち以外の異性と二人きりになることはなかった。婚約者同士といえども未婚の男女。一緒にいるときは必ず侍女や侍従、護衛がついていた。はじめて二人きりで狭い空間を共有したふたりはどこかぎくしゃくと緊張し、窓の外に目をやったり、相手の横顔をそっと見たりして互いに目を合わせることを避けていた。
婚約者として引き合わされたとき、ローズはまだ5歳でその頃のことはおぼろげな記憶であるが、7歳年上のカーライル皇子は兄のように接してくれ、ローズに読み書き、絵、歴史などを教えてくれたのはカーライルであり、幼いローズの人形遊びやままごとにも付き合ってくれていた。
カーライルが公爵になってからは、ローズは公務にいそしむカーライルとの距離を感じるようになった。「ローズ」と親しく呼んでいたのを「そなた」と呼び、婚約者同士の語らいの場も、茶会として公式に準備され、気軽に並んで絵を描いたり、一緒に本をめくったりすることもなくなった。
ローズは大人になった公爵には自分が子供で頼りなく、妃として不足すると思われているのではないかと不安になり、必要な教養を必死に学び、カーライルに認められようと努力したがカーライルからの愛情を示されたことはなかった。婚約者として望まれている自信は持てずにいた。
海賊討伐にカーライルが皇都を離れるとき、ブルマン公爵家の家門と自身のモンド公爵家の家紋を金糸で刺繍したハンカチをカーライルに渡した。
カーライルは受け取ったハンカチを胸に当ててローズの手の甲に口づけし
「そなたのもとに必ず戻る」
と約束した。
自分の刺繍したハンカチを大事そうに軍服の胸にしまうカーライルの姿に、ローズは感じていた二人の間の距離を打ち消した。その時のカーライルの姿が、婚約者としてのここまでのローズの心の支えであった。
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