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2043ー2057 高瀬邦彦
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この数日で私の生きる環境は一変した。さすがに疲れが溜まってきていた。
魂にも眠りのような時間がある。何も考えず、自分すら認識せず、ただぼんやりと世界に漂う瞬間だ。肉体を持たないから自分の境界が曖昧で、あまり長くそうしているとこの世に溶けてしまいそうになる。今溶けると高瀬に同化しそうで怖い。
ほんのわずかに気を抜いてしばらく意識を漂わせてから目を覚ますと、ただ明るいだけの何もない空間に居た。
床に横たわっているのか。身体中に何か巻きついている。点滴チューブではない……鎖か⁉︎
起き上がろうとして、身体が全く動かなかった。いや、動いてはダメだ、この身体は高瀬の……
「高瀬⁉︎」
鎖に絡まり床に転がる私を高瀬は立ったまま見下ろしていた。
ジー……ジー……。
あの不快な音が聞こえる。
これは高瀬の意識か夢の中か。
「あなたは、誰だ?」
高瀬が静かに問う。無表情に、だが、警戒と敵意が見て取れる。
「……相馬です」
前にも同じやり取りをしたな。
チッ。高瀬が不快を隠さず舌打ちした。
「あなたがシキか。ずいぶんと若い優男だな。イオンのモデルだと言われても違和感がない。……普通に人間ではないか。こんなモノに相馬は取り憑かれていたのか?」
私を見定めるように凝視する高瀬の無表情には侮蔑が滲んでいた。
「高瀬さんはこんな時にも背広姿だというのに、なぜ私だけ裸なのです?」
「知るかっ」
軽蔑の眼差しを向けられても私も困る。私を縛る鎖は確実に高瀬の意識の産物であり、それこそお前の趣味だろう。
「シキ、まずは命の恩人であるあなたに礼を言っておく。死なずに済んだのはあなたのおかげだ」
「なぜそう思いますか? あなたは意識もなく倒れたでしょう」
「記憶だ。自分ではない記憶がなぜかある。リツが動かない相馬に『シキ』と呼びかけていた。ヒミコが倒れている私に声をかけた。痛みの感覚と共に残っている。これは、私の中にいるあなたが見聞きした記憶ではないのか」
「身体の感覚を共有できるということは、記憶もまた然りか……」
「あの状況であなたが仕方なく私に取り憑いたことは理解した。その上で、早々に立ち退きを要求したい」
「無理です」
「なんだと?」
「申し訳ないが、肉体を離れて生きることはできないのですよ。高瀬さんはかなり冷静に状況分析されているようで助かります。ただし、根本的な間違いがある。私は悪霊ではない。相馬に取り憑いていたのではなく、私自信が相馬として生きていた。高瀬さんが会っていた相馬は私です」
「……いつ、から?」
静かに、怒りを隠して高瀬は訊く。ああ、この男にとって相馬は特別な存在なのだ。それだけははっきりとわかった。
「大村教授が死んだ時ですよ。私はかつて大村でした。死に際して相馬の肉体を奪い、さらに今はあなたの中にいる。笠原の論文をお読みでしょう? あのとおりです。魂は移せるのです。ただし、私はイオンにではなく人間に乗り移っている」
「……あの馬鹿げた論文には、理論しか書かれていなかった。イオンをリツにする事例が書いてあったが、あれは仮定の話だった。それを実践したのか? 魂の移植は本当に可能だと?」
「高瀬さんは結局、半信半疑でしたか。信じていただかなくても結構ですよ。私がこうして存在する事実だけ知っていればいい」
高瀬の緊張が伝わってくる。高瀬は、本能的な恐怖を感じているのだ。
魂にも眠りのような時間がある。何も考えず、自分すら認識せず、ただぼんやりと世界に漂う瞬間だ。肉体を持たないから自分の境界が曖昧で、あまり長くそうしているとこの世に溶けてしまいそうになる。今溶けると高瀬に同化しそうで怖い。
ほんのわずかに気を抜いてしばらく意識を漂わせてから目を覚ますと、ただ明るいだけの何もない空間に居た。
床に横たわっているのか。身体中に何か巻きついている。点滴チューブではない……鎖か⁉︎
起き上がろうとして、身体が全く動かなかった。いや、動いてはダメだ、この身体は高瀬の……
「高瀬⁉︎」
鎖に絡まり床に転がる私を高瀬は立ったまま見下ろしていた。
ジー……ジー……。
あの不快な音が聞こえる。
これは高瀬の意識か夢の中か。
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高瀬が静かに問う。無表情に、だが、警戒と敵意が見て取れる。
「……相馬です」
前にも同じやり取りをしたな。
チッ。高瀬が不快を隠さず舌打ちした。
「あなたがシキか。ずいぶんと若い優男だな。イオンのモデルだと言われても違和感がない。……普通に人間ではないか。こんなモノに相馬は取り憑かれていたのか?」
私を見定めるように凝視する高瀬の無表情には侮蔑が滲んでいた。
「高瀬さんはこんな時にも背広姿だというのに、なぜ私だけ裸なのです?」
「知るかっ」
軽蔑の眼差しを向けられても私も困る。私を縛る鎖は確実に高瀬の意識の産物であり、それこそお前の趣味だろう。
「シキ、まずは命の恩人であるあなたに礼を言っておく。死なずに済んだのはあなたのおかげだ」
「なぜそう思いますか? あなたは意識もなく倒れたでしょう」
「記憶だ。自分ではない記憶がなぜかある。リツが動かない相馬に『シキ』と呼びかけていた。ヒミコが倒れている私に声をかけた。痛みの感覚と共に残っている。これは、私の中にいるあなたが見聞きした記憶ではないのか」
「身体の感覚を共有できるということは、記憶もまた然りか……」
「あの状況であなたが仕方なく私に取り憑いたことは理解した。その上で、早々に立ち退きを要求したい」
「無理です」
「なんだと?」
「申し訳ないが、肉体を離れて生きることはできないのですよ。高瀬さんはかなり冷静に状況分析されているようで助かります。ただし、根本的な間違いがある。私は悪霊ではない。相馬に取り憑いていたのではなく、私自信が相馬として生きていた。高瀬さんが会っていた相馬は私です」
「……いつ、から?」
静かに、怒りを隠して高瀬は訊く。ああ、この男にとって相馬は特別な存在なのだ。それだけははっきりとわかった。
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「高瀬さんは結局、半信半疑でしたか。信じていただかなくても結構ですよ。私がこうして存在する事実だけ知っていればいい」
高瀬の緊張が伝わってくる。高瀬は、本能的な恐怖を感じているのだ。
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