94 / 104
二章
お泊りはテンション上がる②
しおりを挟む宿は想像してたよりもかなり大きな建物だった。
壁は白くて高級感があるし、入り口の塀にはちょろちょろと水が流れてる。とりあえず触っておいた。冷たくて気持ちいい。
必要な荷物はパパが持ってくれてる。一緒の鞄に入ってるからね。
流石高級な宿はエントランスも広くて窮屈な感じが一切しなかった。床もピッカピカだし。
「アニ、高い宿すごいね」
「あはは。もう? さすがシロちゃんは違いの分かる幼女なんだね」
「シロの審美眼は確かよ」
えっへんと胸を張る。
「ドヤるシロちゃんもかわいい」
「――ねぇ、シロ見て見て、これ手榴弾みたいじゃない?」
シリルがオブジェみたいなものを指さしてそう言う。
「はぁ、お前の審美眼は終わってんな」
「爆弾関係ならかなり見る目あるよ」
「爆弾関係以外が節穴だって言ってんだよ」
やれやれと、アニが首をふる。
貶されたシリルは不満顔だ。
「え~、じゃあシロはこれ何に見える?」
シリルがオブジェを指差す。
正直、何をかたどってるのか分からないオブジェだ。高度すぎる芸術って素人には全く理解できないよね。
「ん~、ブドウ?」
「いや、さすがにブドウはないで――」
「さすがシロちゃん! こんなのブドウ以外ののなんでもないよね!」
ニコニコするアニをシリルがすごい顔で見てる。話を遮られたから口も開きっぱなしだ。
そしてシリルがポケットからおもむろに何かを取り出す。
「わー!! シリル! この場でそれはまずい!!」
エルヴィスがシリルを羽交い絞めにする。
「離せ! お前の弟丸焼きにするから!!」
「丸焼きにするのはいいからこの場では止めてくれ! こんな高級宿で手榴弾なんかぶっ放したら弁償代が恐ろしい!!」
その金額を考えたのか、エルヴィスの顔は既に真っ青だ。
でも、そんなエルヴィスの悲痛な叫びを聞いてもシリルの手榴弾のピンを抜こうとする手は止まらない。
「はぁ、何やってんだお前ら」
騒ぎを聞きつけたパパが歩み寄ってきた。そしてアニの手から私を、シリルの手から手榴弾を奪い取る。
そんでもってシリルに私を手渡した。シリルは渋々そうに、だけど繊細な手付きで私を抱っこしてくれる。
「ほい、シロでも抱っこして落ち着け。エルヴィス、これはお前に渡しておくからいい頃合いでシリルに返しておいてくれ」
「了解です。宿を出てからにしますね」
自分の荷物の中に隠すように手榴弾を仕舞うエルヴィス。いい心がけね。
「……別に持ってる手榴弾は一つじゃないけどね」
ボソリとシリルが呟く。
「これ以上宿で暴れるようなら全部取り上げるぞ」
「う~ん、それは勘弁」
シリルもさっきよりは落ち着いたらしい。もう暴れる気はなさそうだ。怒りのピークは六秒っていうしね。
アニにはこれ以上余計なことは喋らないでもらおう。殿下が泊まるような高級宿、家具一つでも壊したら弁償代がいくらになるか分かんないもんね。
「――さて、チェックインが済んだようだから各々部屋に向かおう。シロはもちろんパパと同じ部屋だぞ~」
「あと僕も同じ部屋だ」
「おお、殿下も?」
てっきり殿下は別の部屋だと思ってたから意外だ。普通、殿下は一番豪華なお部屋に一人で泊まると思うよね。
「防犯的にはブレイクと同じ部屋に泊まるのが一番だからな。それで周りの部屋を特殊部隊隊員で固めておけば一国の城よりも落とすのは難しいよ」
「それもそうだね」
シロもどうやったら特殊部隊の警戒を掻い潜れるのか分かんないし。
「――ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
部屋に着き、私は歓声を上げた。
流石殿下と同じ部屋。広い、豪華、高そう。
床はなんかふっかふかの白いラグが敷いてあるし、ベッドはパパが横向きに寝ても大丈夫なくらい広くて本に出てくるような天蓋が付いている。それに、生地が良すぎるのかなんかシーツがテラテラ光ってる。
部屋の大きさ自体も、隊舎の寝室が四つほど入りそうなくらい広い。
ベッドは二つあるから、片方は殿下ので片方はシロとパパのかな……?
――うずうず、うずうず。
大きなベッドと言えばあれだよね。でも、殿下の前でお行儀が悪いかな……?
荷物も開封せずにうずうずしてると、パパが私の様子に気付いた。そして誰もが魅了されるような極上の笑みを浮かべる。
「シロ、おいで」
「あい」
てててっとパパのところに駆け寄ると、パッパッと服の埃をはたかれ、靴を脱がされた。
「よし、いくぞシロ」
そう言うと、パパは私を窓側の方のベッドにぽーんと放り投げた。
「ひゃっは~」
ぽすんっ、と極上のお布団に包み込まれる。なにこれ。高いお布団ってこんなに寝心地が違うの……?
「あ、衝撃を受けてるな」
「ほんとだ。目ぇ開けたまま固まってる」
あまりの衝撃に動けない私を二人が覗き込んでくる。
――シロ、将来は絶対にお金貯めていいお布団買おっと。
21
お気に入りに追加
7,066
あなたにおすすめの小説
生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~
雪野ゆきの
恋愛
叔父一家に虐げられていた少女リアはついに竜王陛下への生贄として差し出されてしまう。どんな酷い扱いをされるかと思えば、体が小さかったことが幸いして竜王陛下からは小動物のように溺愛される。そして生贄として差し出されたはずが、リアにとっては怠惰で幸福な日々が始まった―――。
感想、誤字脱字報告、エール等ありがとうございます!
【書籍化しました!】
お祝いコメントありがとうございます!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~
鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。
家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。
「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」
「もうこの国から出て行って!」
姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。
そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。
★隣国ヘーラクレール編
アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。
「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」
そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。
ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。