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二章
お泊りはテンション上がる②
しおりを挟む宿は想像してたよりもかなり大きな建物だった。
壁は白くて高級感があるし、入り口の塀にはちょろちょろと水が流れてる。とりあえず触っておいた。冷たくて気持ちいい。
必要な荷物はパパが持ってくれてる。一緒の鞄に入ってるからね。
流石高級な宿はエントランスも広くて窮屈な感じが一切しなかった。床もピッカピカだし。
「アニ、高い宿すごいね」
「あはは。もう? さすがシロちゃんは違いの分かる幼女なんだね」
「シロの審美眼は確かよ」
えっへんと胸を張る。
「ドヤるシロちゃんもかわいい」
「――ねぇ、シロ見て見て、これ手榴弾みたいじゃない?」
シリルがオブジェみたいなものを指さしてそう言う。
「はぁ、お前の審美眼は終わってんな」
「爆弾関係ならかなり見る目あるよ」
「爆弾関係以外が節穴だって言ってんだよ」
やれやれと、アニが首をふる。
貶されたシリルは不満顔だ。
「え~、じゃあシロはこれ何に見える?」
シリルがオブジェを指差す。
正直、何をかたどってるのか分からないオブジェだ。高度すぎる芸術って素人には全く理解できないよね。
「ん~、ブドウ?」
「いや、さすがにブドウはないで――」
「さすがシロちゃん! こんなのブドウ以外ののなんでもないよね!」
ニコニコするアニをシリルがすごい顔で見てる。話を遮られたから口も開きっぱなしだ。
そしてシリルがポケットからおもむろに何かを取り出す。
「わー!! シリル! この場でそれはまずい!!」
エルヴィスがシリルを羽交い絞めにする。
「離せ! お前の弟丸焼きにするから!!」
「丸焼きにするのはいいからこの場では止めてくれ! こんな高級宿で手榴弾なんかぶっ放したら弁償代が恐ろしい!!」
その金額を考えたのか、エルヴィスの顔は既に真っ青だ。
でも、そんなエルヴィスの悲痛な叫びを聞いてもシリルの手榴弾のピンを抜こうとする手は止まらない。
「はぁ、何やってんだお前ら」
騒ぎを聞きつけたパパが歩み寄ってきた。そしてアニの手から私を、シリルの手から手榴弾を奪い取る。
そんでもってシリルに私を手渡した。シリルは渋々そうに、だけど繊細な手付きで私を抱っこしてくれる。
「ほい、シロでも抱っこして落ち着け。エルヴィス、これはお前に渡しておくからいい頃合いでシリルに返しておいてくれ」
「了解です。宿を出てからにしますね」
自分の荷物の中に隠すように手榴弾を仕舞うエルヴィス。いい心がけね。
「……別に持ってる手榴弾は一つじゃないけどね」
ボソリとシリルが呟く。
「これ以上宿で暴れるようなら全部取り上げるぞ」
「う~ん、それは勘弁」
シリルもさっきよりは落ち着いたらしい。もう暴れる気はなさそうだ。怒りのピークは六秒っていうしね。
アニにはこれ以上余計なことは喋らないでもらおう。殿下が泊まるような高級宿、家具一つでも壊したら弁償代がいくらになるか分かんないもんね。
「――さて、チェックインが済んだようだから各々部屋に向かおう。シロはもちろんパパと同じ部屋だぞ~」
「あと僕も同じ部屋だ」
「おお、殿下も?」
てっきり殿下は別の部屋だと思ってたから意外だ。普通、殿下は一番豪華なお部屋に一人で泊まると思うよね。
「防犯的にはブレイクと同じ部屋に泊まるのが一番だからな。それで周りの部屋を特殊部隊隊員で固めておけば一国の城よりも落とすのは難しいよ」
「それもそうだね」
シロもどうやったら特殊部隊の警戒を掻い潜れるのか分かんないし。
「――ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
部屋に着き、私は歓声を上げた。
流石殿下と同じ部屋。広い、豪華、高そう。
床はなんかふっかふかの白いラグが敷いてあるし、ベッドはパパが横向きに寝ても大丈夫なくらい広くて本に出てくるような天蓋が付いている。それに、生地が良すぎるのかなんかシーツがテラテラ光ってる。
部屋の大きさ自体も、隊舎の寝室が四つほど入りそうなくらい広い。
ベッドは二つあるから、片方は殿下ので片方はシロとパパのかな……?
――うずうず、うずうず。
大きなベッドと言えばあれだよね。でも、殿下の前でお行儀が悪いかな……?
荷物も開封せずにうずうずしてると、パパが私の様子に気付いた。そして誰もが魅了されるような極上の笑みを浮かべる。
「シロ、おいで」
「あい」
てててっとパパのところに駆け寄ると、パッパッと服の埃をはたかれ、靴を脱がされた。
「よし、いくぞシロ」
そう言うと、パパは私を窓側の方のベッドにぽーんと放り投げた。
「ひゃっは~」
ぽすんっ、と極上のお布団に包み込まれる。なにこれ。高いお布団ってこんなに寝心地が違うの……?
「あ、衝撃を受けてるな」
「ほんとだ。目ぇ開けたまま固まってる」
あまりの衝撃に動けない私を二人が覗き込んでくる。
――シロ、将来は絶対にお金貯めていいお布団買おっと。
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