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二章
お泊りはテンション上がる
しおりを挟む「ねぇパパ、シーベルト国にはどのくらいでつくの?」
「何事も起こらなければ三日だな」
「え!? 三日!?」
思ったよりも長くてびっくりする。シロってば完全に今日中に着くつもりでいたよ。
「以外と遠いんだね」
「そうだぞ。まあ他国だしな」
まだまだ先は長いからあんまりはしゃぐと疲れちゃうぞ、とパパ。
素直な私は窓に張り付くのを止め、パパの膝の上に戻った。
「あれ? 三日かかるってことはどこかで寝泊まりするの? 野宿?」
「はは、仮にも一国の王子がいるんだぞ? ちゃんと道中に宿をとってる。殿下がいるおかげでいい宿だぞ」
「おお! シロ達もおんなじとこ?」
「もちろん」
「やったー!!」
野宿も楽しそうだけどお高い宿もいいよね。ごはんおいしそうだし。シロは高いお肉が食べたいです。
「野宿だと人目がないから彼らの歯止めがきかないしね。街中の方がまだ大人しくしてくれる」
「ああ……」
殿下の言う彼らとは、もちろん特殊部隊隊員のことだろう。
確かに、野宿なんてしたらみんな野生にかえっちゃいそう。移動だけでも馬車に詰め込まれてるくらいなのに。
「……みんな置いてきた方が楽なんじゃない?」
「「もちろん」」
父様と殿下の声が揃った。
「もちろんちょっとした遠征なら特殊部隊は連れて行かないさ。だが今回は特殊部隊の力が必要だからな」
腕を組んで殿下が言う。シーベルト国への怒りはまだ冷めてなさそう。そんなに粘着質じゃない殿下をここまで怒らせるって相当だよね。
「ガウ!」
足元でエンペラーが吠える。
「あ、殿下、そのお宿はエンペラーも入れる? 一匹だけ馬車でお留守番は可哀想」
「もちろん今回は特別に許可をとってる」
「さすが殿下。抜け目ないね」
「もっと褒めろ」
「殿下天才」
殿下がニッと笑う。
すると、ひょいっと抱っこされて殿下の膝の上に置かれた。そのまま大人しく抱っこされておく。
「シロはかわいいな~。向こうに滞在中、怒りで我を忘れそうになったらシロを抱っこしよう」
「それがいいな」
パパが同意する。
うんうん、シロが抱っこされるだけで国際問題を回避できるならいくらでも抱っこされますよ。なんならエンペラーもつけちゃう。
自分も抱っこしてほしそうにきゅるんとこちらを見上げてくるエンペラーはとってもかわいい。
「エンペラーおいで」
「ガウ!」
椅子に上がってきたエンペラーをぎゅっと抱きしめる。
う~ん、もふもふ。
そのままエンペラーの毛に顔を埋めていたら、いつの間にか目を閉じて寝てたみたい。宿のある街に着いたらエンペラーの毛皮がしっとりの濡れてた。
ごめんねエンペラー。よだれたらしちゃった。後で洗ってあげるね。
濡れた部分はもそっと他の毛で隠しておいた。
空はすっかりオレンジ色に染まっていた。
久々に動かない地面に降り立つ。
「お、なんか動かない地面の方が違和感」
タシタシとその場で足踏みする。
「――足踏みするシロちゃんかわいい!!」
「あ、アニ」
猛スピードで走ってきたアニにそのまま抱き上げられる。
「アニなんか久しぶりだね」
「うん、シロちゃんと馬車が違って俺ってば一日千秋の思いだったよ! なんで俺がシロちゃんと同じ馬車じゃないの!?」
「殿下がうるさいからアニは嫌だって」
「わぁなんて合理的な判断」
反論できないよね、その通りだし。
アニは私を片腕に乗せたまま歩きだした。
「シロちゃんお宿楽しみだねぇ。一緒の部屋かな?」
「ううん、違う部屋だって」
「ガッデム!!!」
片手で頭を抱えるアニ。
「でもごはんはいっしょに食べようね。シロ、たかいお肉楽しみ」
メニューは言われてないけど私の中ではお肉料理に確定してる。もしちがかったらちょっとだけ泣いちゃう。きっとお肉料理じゃなくてもおいしいんだろうけど。
見上げると、アニが目をまんまるにしてうるうるさせてた。
「――!!! シロちゃん!! 俺のごはん全部あげるよ!!」
「それだとアニがお腹空いちゃうよ? もしお肉があったら一切れだけちょうだい?」
「もちろん!!」
よしよし、お肉を一切れ確保することに成功。
「シロはちゃかりさんだなぁ」
お肉を確保してホクホクの私を、パパが生温かい目で見ていた。
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