天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

道中は楽しいこといっぱい

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「ガウ!」

 エンペラーが地面からこちらを見上げて鳴く。

「どうしたのエンペラー? 馬車乗らないの?」
「ガウ!」

 分かってないなぁとばかりに首を横に振るエンペラー。ちょっとバカにした顔がかわいい。

「ガフガフ!」

 エンペラーがその場で足踏みする。

「なに? 自分で走りたいの?」
「ガウッ!」

 その通り! と嬉しそうにエンペラーが鳴く。

「パパどうする?」
「いいんじゃないか? こいつもたまには思いっきり走りたいだろう」

 パパの対面では殿下も微笑ましそうに頷いている。
 大人二人から許可が出たらおっけーだろう。
 馬車の入り口から身を乗り出してエンペラーの頭をわしゃわしゃ撫でる。

「走っていってもいいけ無理しないでね。疲れちゃったらギャウギャウ鳴いて知らせるんだよ」
「ガウッ!」
「いいお返事」

 すると、エンペラーは待ちきれないのかさっさと離れていっちゃった。

「シロ、そろそろ出発だから扉閉めろ」
「は~い」

 パパに言われて馬車の扉をしっかりと閉めた。なんたって殿下の乗ってる馬車だからね。万が一があったら大変。
 ちなみに、アニ達は別の馬車に詰め込まれてる。シロと同じ馬車に乗りたい! ってみんな騒いでたけどうるさいからって殿下に華麗に却下されてた。

「ほら、もう動き出すぞ」
「は~い」

 パパの膝に抱き上げられ、しっかりと腕でホールドされる。うん、安定感ばつぐん!

 すると、とうとう馬車が動き始めた。

「おお! 動いた!!」

 ガラガラと車輪が音を立てて馬車が動き出した。



 窓の外の景色が流れていくのが楽しくて、窓にべったりと張り付いて眺める。

「楽しいか?」
「たのし~。でも、シロが自分で走った方が早そう」

 そのうち馬とかけっこしたいな……。
 流れていく景色を見ながらそんなことを思う。

「……さすがシロ」
「だろう。うちの子は発想が違う」

 よしよしとパパに頭を撫でられた。



 そして、しばらく馬車に揺られていると前の方がにわかに騒がしくなった。

「―――!」
「―――!?」
「―――!!!」

「何事だ?」

 殿下が呟き、馬車の中に少し緊張感が漂う。

 少しすると、一人の騎士さんがこの馬車にやってきた。―――エンペラーをその腕に抱いて。

「シロちゃんごめんね? 向こうに着くまでこの子馬車で預かってくれないかな」

 そう言ってエンペラーを受け渡される。

「どうした」

 殿下が騎士さんに尋ねた。

「その、この子が馬とかけっこをしたくなっちゃったようで……」
「ガウッ!」

 エンペラーが不満そうに鳴く。

「馬車を引いてたら馬が全力を出せないと思ったのか、馬を馬車から外そうとするんですよ。あと、馬の少し前を煽るように走るので馬が興奮しちゃって」
「ガフッ」

 仕方ないだろ、とばかりに鳴くエンペラー。それを見て騎士さんは困ったように頬を掻いた。
 ふむ、ここは飼い主として注意せねば。
 シロもお馬さんとかけっこしたいと思ったのは内緒にしておこう。

「こらエンペラー、騎士さんに迷惑かけちゃだめでしょ。お馬さんと仲良くしたいのは分かるけど」
「キュ~ン」

 エンペラーが耳と尻尾を垂らす。あらかわいい。

「うちの狼がすまなかったな」
「い、いえ! とんでもないです!!」

 騎士さんは急に恐縮したようにそう言うと、先頭の方に戻って行った。
 パパが声を掛けたら急に態度が変わったよね? なんでだろ。
 その疑問に答えてくれたのは殿下だった。

「ブレイクの強さは有名だからな。それに、あの変人達をまとめ上げているってことでブレイクに畏敬の念を抱いている騎士は多い」
「そうなんだ」

 それで急にかしこまった態度になったんだね。


 エンペラーを回収した後、馬車は再び動き始めた。

 そしてまた少し進むと、また前の方がにわかに騒がしくなる。

「今度はなんだ……」

 殿下がぼやく。
 すると馬車が止まり、扉がコンコンとノックされた。パパが扉を開く。

「どうした」
「あの、すみませんブレイク隊長。エスさんを止めていただけませんか……?」

 騎士さんが申し訳なさそうに言った。
 そして騎士さんの言葉でこの騒ぎの原因がエスだと悟る。

「すまない、うちの隊員が迷惑をかけているんだろう。あいつは一体何をしたんだ?」
「それが……馬車を引く馬が羨ましいそうで、自分が馬車を引くと言って聞かないんです。そのポジションをよこせと馬車を引く馬をどかそうとしますし、血走った目で並走するので馬がビビってます」
「……うちのがすまないな。すぐ回収する。シロはここで待ってろ」
「は~い」

 パパは私の頭を一撫でし、颯爽と馬車を降りていった。
 その後エスに飛び蹴りを食らわせたパパは、エスをグルグル巻きにしてそれまで乗っていた馬車に放り込んだらしい。ワイルドだね。

 私もかけっこしたいとは思ったけど実行してないし、お馬さんとか騎士さんに迷惑はかけてない。
 ……うん、エンペラーとエスよりはまともだね。











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