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二章

真のヒーローは誰だ!?

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 食後は少し休憩して、腹ごなしもかねて訓練をする。
 普段は和気藹々としつつもみんな真面目に取り組むんだけど……。


「くらえっ! ファイアーソード! アチッ」

 ある男が訓練用の木剣のブレードの部分に火をつけて振り回している。

「なんだと!? それじゃあこっちは、水に漬けた剣っ!」
「技名ダサいな」


 別の場所ではトランポリンが設置されていた。

「俺は三十メートル級の超ジャンプをやってみせる!」
「じゃあ俺は五十メートル級だ!」


 こっちでも……。

「ファイアーボムッ!」
「シリルそれただの小型爆弾だろ! ギャアアアアア!」

 ……シリルはいつも通りだった。
 ついでにエスも自分を縛れと隊員の一人に迫っている。

 訓練場の端に呆然と立ち尽くすウイリアムとエルヴィスがいた。二人にこの状況を説明してもらおう。

「ああ、アニが『ヒーローたるもの必殺技の一つや二つ撃てて当然!』とかぬかしてな。その言葉に触発された奴らが漫画に出てきそうな技を実践しようとしてるわけだ」
「ウチのセバスも行きやがった」
「へ~」

 ちょっと楽しそう。私も交ざってこようかな……。

「シロは行くなよ? 危ないから」
「……はぁ~い」

 エルヴィスめ。私の思考を把握しておる。

「むぅ~、じゃあパパなんかやって?」
「例えばどんなのだ?」
「う~ん、斬撃を飛ばして遠くのものを切るとか?」
「ふむ」

 すると、パパはおもむろに剣を抜いた。そして軽く振りかぶる。


「ほいっ」


 ビュンッッッ! ズバアアアアアアアアン!

「え?」
「は?」
「わお」

 前髪がフワッと風に煽られた。
 パパが残像を残しながら宙を切ったかと思えば、大体五十メートル程離れた所にあった木がスパンッと真っ二つに分かれていた。

 ……パパ、すっごい……。

 周りでバカなことをやっていた隊員たちもパパが繰り出した剣技に口を開いて唖然としていた。

 もうヒーロー選手権はパパの優勝でいいんじゃないかな。
 そんなことを思っていると、パパに脇に手を差し込まれ、持ち上げられた。

「シロ、どうだった?」
「すっごくかっこよかった!」
「ハッハッハー! そうだろ~」

 パパにとっては大した技でもないんだろうけど、娘に褒められてご満悦みたいだ。

「すっげー! さすが隊長! 俺もやってみよ!」
「え、俺も~!」
「俺もー」

 皆、次々にパパのマネを始める。――が、当然、刃の届く範囲のものしか切れない。
 まぁそうだよね……。




「――――!」
「――てっ!」


「ん?」

 耳が誰かの怒鳴り声を拾った。

「なんか向こうが騒がしいな」

 パパにも聞こえたようだ。

「ちょっと見てくる。シロはここにいろ」
「ん」

 パパは、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
 そして地を蹴って軽く屋根から屋根へ飛び移り、声のしたほうへと向かって行った。

 ……パパ、普通に超ジャンプできてるじゃん。


 ……ひまになっちゃった。エンペラーと遊ぼ。

「エンペラーおいで」
「ガウッ!」

 エンペラーを呼ぶと尻尾をブンブン振りながら駆け寄ってきた。かわいいやつめ。
 モフモフにギュッと抱き付いて頭を撫でてやる。

「ガウ~♪」
「んふ~♪」

 今日もいい毛並みだ。頬をスリスリしてもふもふを堪能する。




 タッタッタッタッ


「ん?」

 荒い呼吸と大人が走る足音。

「うおおおおおお!」

 振り返ると、知らない男の人がナイフを振り上げながらこちらに走って来ていた。その殺気は明らかに私を狙っている。

「……しろ」
「へ?」

 一瞬の間に、クロが男の人から私を守るように滑り込んできていた。覆いかぶさるようにギュッと抱き締められる。

「クロ!」



 トスッ




 クロの背中にナイフが刺さり、真っ赤な血液が流れ落ちる――――――ことはなかった。

 クロも今日は例にもれず隊服を身に着けていた。特殊部隊は危険な仕事も多いため、隊服は当然、防刃加工がなされている。
 つまり、そこらのナイフごときでは傷一つ付けることはできないということだ。

「いたい……」

 刃が刺さらなかったとはいえ、人を殺すつもりで放たれたものが当たれば痛くない筈がない。クロの背中にはまず間違いなくアザができてしまうだろう。

「クロ、かばってくれてありがとう」
「ん……」

 頭に擦り擦りされた。クロの行動にほっこりしてしまって、一瞬、ナイフを持った男がまだそばにいるということを忘れてしまった。

「オラアアアアアア!」

 再び男がナイフを振りかぶる。

 またクロに当たっちゃう!

「あぶなああああああい!」

 全速力で走ってきたアニが木剣でナイフを弾き飛ばした。それによって男が丸腰になる。
 アニは腕を組み、誇らしげに胸を張った。

「ふふん、今俺はシロちゃんをかばうクロをかばった。つまり! 間接的にシロちゃんを守ったってことだ! 俺がヒーロー!」
「は?」

 男は意味が分からないというような表情をした。そりゃそうだろう。急に大の大人がヒーローを自称し始めたのだ。

「それはずるいですアニ」

 何がずるいのかは分からないけど、エスもこちらに走ってきた。

「あ、僕が入れないので一歩下がってください」
「へ?」

 そう言って男の肩を押し、アニと男の間にスペースを作るとエスはそこにおさまった。

「ア、アニアブナーイ。これで僕はシロをかばったアニをかばったので、より多くを守った僕のほうがヒーローです」
「はぁ!? そんなの屁理屈だろ!」

 アニがエスに抗議する。

「ちょっと君もう一歩下がってくれる?」

 さらにシリルがエスと男の間に割り込んできた。

「これで僕はシロをかばったクロをかばったアニをかばったエスをかばったんだから、僕が一番のヒーローだね」

 シリルはニッコリと笑って言った。

「はあああああ!? じゃあ俺はシロをかばったクロをかばったアニをかばったエスをかばったシリルをかばってやるよ」
「あぁん! じゃあ俺はシロをかばった……」

 そんな感じで、次々とみんなが集まっては一列に並んでいった。今は体育の時間だったけか?

「シロ!」
「パパ!」

 後ろからギュウウと抱き上げられた。

「遅くなってごめんなシロ。怖い思いしてないか? ケガもしてないな? かわいい顔を見せてくれ」
「シロは無傷だよ。でも代わりにクロが痛い思いしちゃったの」
「そうか、よくシロを守ってくれたな」

 パパはよしよしとクロの頭を撫でた。クロも満更でもなさそうだ。

 パパが向かった先では、城に運び込まれてきた罪人たちが拘束を逃れて暴れ回ってたんだって。それを鎮圧していたらこちらの異変に気付くのが遅くなったと謝られた。
 もう抱っこ紐で縛ってずっと一緒に行動しようかとパパに聞かれた。抱っこされるのは嬉しいけどそれはなんかちょっと嫌だな。

 過保護をこじらせそうなパパに抱き締められていると、亀甲縛りにされた男をエルヴィスが引きずってきた。

「隊長、こいつ捕まえて(エスが)縛っておいたんですけど、どうしますか?」

 パパに耳を塞がれる。

「そいつは城の地下牢に運んどけ。……無傷では届けるなよ」
「はい!」

 パッと耳から手が離された。

 骨振動のせいだかなんだか知らないけど、耳を塞がれてても声って案外聞こえるよね……。
 私の沈黙をどう捉えたのか、パパは余計な補足説明をしてくれた。

「安心しろ。罪人を易々と逃がした奴らは殿下がキッチリお仕置きしておいてくれるからな」

 うわぁ。可哀想。……でも自業自得かな?





 その後はみんな何事もなかったかのようにヒーロー選手権に戻った。



 私はマイクを持って木の箱の上に乗った。

「それでは、けっかを発表します!」

 ダラダラダラダラダンッ

「一位はもちろんクロ! 二位はパパ! 三位はエンペラ~!」
「えぇ!? 俺は!?」
「アニはそもそも途中で失格になってたじゃん」
「そんなぁ」

 アニが食堂の床に崩れ落ちた。


「クロおめでと~!」

 私はピョンッとクロに抱き付く。

「ん……。ありがと」
「んふふ~」
「ほら、お前たちそろそろ席につけ。メシにすんぞ」

 クロは私を床に下ろして椅子に座った。
 そして私はパパに持ち上げられる。パパの膝の上に座らされるかと思えば、私が置かれたのはクロの膝の上だった。
 私とクロがハテナマークを浮かべていると、パパはキザにウインクをしてきた。

「何たら選手権はクロが優勝したらしいからな。ご褒美だ」

 そう言って自分は隣の席に腰かけた。
 ……これがご褒美になるのは極一部だと思うんだけど。親バカだなぁ。

「クロ、大丈夫? 重くない?」

 重くはないと思うけど一応聞いておく。

「ん……だいじょうぶ。しろといっしょ、うれしい……」

 そう言ったクロはかすかに微笑んで、私を抱きしめた。







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