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二章

みんなシロのヒーローになりたい!

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 次の日。

 なんだか、朝からみんなの様子がおかしい……。

 なぜか全員がキッチリ隊服着てる。いつもはシャツだけで上着なしとか、私服で訓練に来ちゃう人も多いのに……。



「あ、シロ。おはよう、今日も空中を漂ってる綿埃みたいにかわいいね」
「?」

 朝一で変な褒め言葉をかけられた。……褒め言葉なのかな? それともフワフワしてんじゃねーぞってこと? 意味わかんないよ。

 食堂に向かっていると、バラの花束をカゴに入れて背負っている人がいた。脳みそが風邪気味なのかもしれない。

「シロ、おはよう。キラーン。いい朝だねキラッ。今日も君の肌は固形石鹸のような白さで輝いているね、眩しくて目が潰れそうだよピカーン」

 ……誰か漫画の効果音は口で言うものじゃないってことを教えてあげて。

「お前、頭大丈夫か?」
「大丈夫です隊長。そんな牛乳を拭いた後の雑巾を洗えって言われた時みたいな顔しないでください」

 パパどんな顔してたの? 身長差があり過ぎて見えなかった。

「それで、お前は何でそんなメルヘンなモン背負ってんだ?」
「はい隊長! 昨日読んだ漫画のヒーローが登場シーンでバックに花を背負っていたので、ヒーローになるべく再現してみました!」
「あの花は実物じゃないから、今のお前はただのバカだ」
「…………oh」

 メルヘン男がショックを受けてしまった。全体的にションボリしている。

「……部屋に置いてきます」
「そうしろ」
「その前に、シロに一本バラをプレゼントするよ。これを僕だと思って大事に……イテッ! 何これ? 棘?」

 メルヘン男はバラを一本引き抜こうとして、指に棘が刺さってしまったようだ。

「シロにそんな危ないモン渡すんじゃねえ。もしシロにやるなら全部棘の処理して花束にしてこい」
「了解です隊長! 出直してきます!」

 パパの命令にメルヘン男はビシッと敬礼をして応えた。その指からは血が出ていたので、絆創膏を渡したら大袈裟なくらい喜ばれた。
 なんだかいいことをした気分。

「じゃあ一回部屋に帰って出直してきます……」「ちょっと待て」
「……何ですか?」

 部屋に戻ろうとした彼をパパが引き止めた。

「今日はなんだか知らんが俺の部下たちが気味悪くてよぉ。部屋に戻るのはその理由を説明してからだ」
「い、イエッサー!」





 メルヘン男の説明によると、『シロに好かれたい男たち(つまり特殊部隊の隊員)によるヒーロー選手権』がアニ主催で開催されているらしい。
 なんでも、昨日の私の発言が、少女漫画のヒーローみたいな行動をすればシロに好かれる→シロはヒーローが好き→ヒーローになればシロに好かれる、とよく分からない発想に進化したみたい。それで皆さっそく(自分が思う)少女漫画のヒーローのような行動をし始めたとのこと。

 ……その選手権、私参加できないじゃん。仲間はずれよくない。
 シロもごっこ遊びとかしたいお年頃なのに。

 むぅぅと頬を膨らませると、パパに呆れ笑いされた。げせぬ。

「シロにも健全な子どもの精神が宿っていて何よりだ。だがまあ、今日は奴らに付き合って遊んでやれ。ごっこ遊びは今度パパとしよう」
「ん!」

 約束ができて機嫌が直ったのでパパに抱き付いておいた。パパも嬉しそうに受け止めてくれる。

「あ、そうだ。遊ぶといえば、今日は罪人が何人か城に運び込まれてくるらしいからな。ないとは思うが、一応ウチの訓練場以外の場所には遊びに行くなよ?」
「はーい」




 食堂の扉を開くと、様子のおかしいロリコンが立っていた。こやつも珍しく隊服を着て、白い手袋までしている。

 ねぇ、なんでちょっとキメ立ちしてるの? なんで胸に手ぇあててんの?
 その床に撒かれた花びら、誰が掃除するの?

 周囲の男たちから花びらを投げつけられているアニは二枚目ばりの笑みを浮かべている。

「おはよう、シロちゃん。いい朝だねほら、小鳥たちも喜んでいるようだ。今鳴いてるのは……スズメかな?」
「ウグイスだよ」

 どこか死んだ目をしたエルヴィスが突っ込んだ。

「まあそんなことよりもシロちゃん」
「ぴっ」

 アニがズイッと迫ってきた。
 完璧な笑顔を貼りつけたまま早口でまくし立ててくる。

「シロちゃんは今日も本っ当に可愛いね。シロちゃんの愛らしさにはどんな小動物もかなわないよ。いやもう世界中のどんなかわいい生物だってシロちゃんの魅力に比べたらいつの間にか部屋の隅にたまっていたほこりみたいなものだよ。つまりシロちゃんという存在はナンバーワンでありオンリーワンなんだ。その声だって鈴の音なんかじゃ例えきれない程清らかで澄み渡っている。ずっと聞いていたいと常に思っているよ。もう録音して一日中放送しておこうか……」
「……う、」
「う?」

 アニが話を止め、首を傾げる。

「うえええええええ! こんなのあにじゃにゃいいいい! ぱぱぁぁあああぁぁああ! こわいいいいい!」

 私はパパにひしと抱き付いた。

「おーよしよし、怖かったなぁ。あとでシメてやろうな~」
「なんで!? こんなに褒めたのに!」
「お前の爽やかな笑顔と褒め言葉はホラーなんだよ」
「ヒドッ!」

 ポンッ

「え?」

 アニの肩にエルヴィスの手が乗せられた。

「シロを泣かせたからお前は失格だ」

「そんなぁ~」








「うぐっ、えぐっ、ぴぃぃぃ」
「シロちゃん泣きやんで~。驚かせてごめんねぇ~」

 ショックが強すぎて涙が止まらない。シロ、ホラーは苦手かも。
 アニは自分の兄にゲンコツとお説教をくらったらしく、頭にポッコリとタンコブができている。

「シロちゃ~ん、そろそろでてきてよぉ~」
「……やっ」

 私はパパのシャツの中にスッポリとおさまって籠城作戦を決行している。もう暫く出ていく気はない。
 安全、安心の保護者の懐ばんざい。

 そうしていると、シャツの上からパパに頭を撫でられた。

「シロ、そろそろ出てこい。メシ食うぞ。今日はステーキだ」

 ヒョコッ

「あ、出てきた」




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