天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

文字の大きさ
74 / 104
二章

みんなシロのヒーローになりたい!

しおりを挟む


 次の日。

 なんだか、朝からみんなの様子がおかしい……。

 なぜか全員がキッチリ隊服着てる。いつもはシャツだけで上着なしとか、私服で訓練に来ちゃう人も多いのに……。



「あ、シロ。おはよう、今日も空中を漂ってる綿埃みたいにかわいいね」
「?」

 朝一で変な褒め言葉をかけられた。……褒め言葉なのかな? それともフワフワしてんじゃねーぞってこと? 意味わかんないよ。

 食堂に向かっていると、バラの花束をカゴに入れて背負っている人がいた。脳みそが風邪気味なのかもしれない。

「シロ、おはよう。キラーン。いい朝だねキラッ。今日も君の肌は固形石鹸のような白さで輝いているね、眩しくて目が潰れそうだよピカーン」

 ……誰か漫画の効果音は口で言うものじゃないってことを教えてあげて。

「お前、頭大丈夫か?」
「大丈夫です隊長。そんな牛乳を拭いた後の雑巾を洗えって言われた時みたいな顔しないでください」

 パパどんな顔してたの? 身長差があり過ぎて見えなかった。

「それで、お前は何でそんなメルヘンなモン背負ってんだ?」
「はい隊長! 昨日読んだ漫画のヒーローが登場シーンでバックに花を背負っていたので、ヒーローになるべく再現してみました!」
「あの花は実物じゃないから、今のお前はただのバカだ」
「…………oh」

 メルヘン男がショックを受けてしまった。全体的にションボリしている。

「……部屋に置いてきます」
「そうしろ」
「その前に、シロに一本バラをプレゼントするよ。これを僕だと思って大事に……イテッ! 何これ? 棘?」

 メルヘン男はバラを一本引き抜こうとして、指に棘が刺さってしまったようだ。

「シロにそんな危ないモン渡すんじゃねえ。もしシロにやるなら全部棘の処理して花束にしてこい」
「了解です隊長! 出直してきます!」

 パパの命令にメルヘン男はビシッと敬礼をして応えた。その指からは血が出ていたので、絆創膏を渡したら大袈裟なくらい喜ばれた。
 なんだかいいことをした気分。

「じゃあ一回部屋に帰って出直してきます……」「ちょっと待て」
「……何ですか?」

 部屋に戻ろうとした彼をパパが引き止めた。

「今日はなんだか知らんが俺の部下たちが気味悪くてよぉ。部屋に戻るのはその理由を説明してからだ」
「い、イエッサー!」





 メルヘン男の説明によると、『シロに好かれたい男たち(つまり特殊部隊の隊員)によるヒーロー選手権』がアニ主催で開催されているらしい。
 なんでも、昨日の私の発言が、少女漫画のヒーローみたいな行動をすればシロに好かれる→シロはヒーローが好き→ヒーローになればシロに好かれる、とよく分からない発想に進化したみたい。それで皆さっそく(自分が思う)少女漫画のヒーローのような行動をし始めたとのこと。

 ……その選手権、私参加できないじゃん。仲間はずれよくない。
 シロもごっこ遊びとかしたいお年頃なのに。

 むぅぅと頬を膨らませると、パパに呆れ笑いされた。げせぬ。

「シロにも健全な子どもの精神が宿っていて何よりだ。だがまあ、今日は奴らに付き合って遊んでやれ。ごっこ遊びは今度パパとしよう」
「ん!」

 約束ができて機嫌が直ったのでパパに抱き付いておいた。パパも嬉しそうに受け止めてくれる。

「あ、そうだ。遊ぶといえば、今日は罪人が何人か城に運び込まれてくるらしいからな。ないとは思うが、一応ウチの訓練場以外の場所には遊びに行くなよ?」
「はーい」




 食堂の扉を開くと、様子のおかしいロリコンが立っていた。こやつも珍しく隊服を着て、白い手袋までしている。

 ねぇ、なんでちょっとキメ立ちしてるの? なんで胸に手ぇあててんの?
 その床に撒かれた花びら、誰が掃除するの?

 周囲の男たちから花びらを投げつけられているアニは二枚目ばりの笑みを浮かべている。

「おはよう、シロちゃん。いい朝だねほら、小鳥たちも喜んでいるようだ。今鳴いてるのは……スズメかな?」
「ウグイスだよ」

 どこか死んだ目をしたエルヴィスが突っ込んだ。

「まあそんなことよりもシロちゃん」
「ぴっ」

 アニがズイッと迫ってきた。
 完璧な笑顔を貼りつけたまま早口でまくし立ててくる。

「シロちゃんは今日も本っ当に可愛いね。シロちゃんの愛らしさにはどんな小動物もかなわないよ。いやもう世界中のどんなかわいい生物だってシロちゃんの魅力に比べたらいつの間にか部屋の隅にたまっていたほこりみたいなものだよ。つまりシロちゃんという存在はナンバーワンでありオンリーワンなんだ。その声だって鈴の音なんかじゃ例えきれない程清らかで澄み渡っている。ずっと聞いていたいと常に思っているよ。もう録音して一日中放送しておこうか……」
「……う、」
「う?」

 アニが話を止め、首を傾げる。

「うえええええええ! こんなのあにじゃにゃいいいい! ぱぱぁぁあああぁぁああ! こわいいいいい!」

 私はパパにひしと抱き付いた。

「おーよしよし、怖かったなぁ。あとでシメてやろうな~」
「なんで!? こんなに褒めたのに!」
「お前の爽やかな笑顔と褒め言葉はホラーなんだよ」
「ヒドッ!」

 ポンッ

「え?」

 アニの肩にエルヴィスの手が乗せられた。

「シロを泣かせたからお前は失格だ」

「そんなぁ~」








「うぐっ、えぐっ、ぴぃぃぃ」
「シロちゃん泣きやんで~。驚かせてごめんねぇ~」

 ショックが強すぎて涙が止まらない。シロ、ホラーは苦手かも。
 アニは自分の兄にゲンコツとお説教をくらったらしく、頭にポッコリとタンコブができている。

「シロちゃ~ん、そろそろでてきてよぉ~」
「……やっ」

 私はパパのシャツの中にスッポリとおさまって籠城作戦を決行している。もう暫く出ていく気はない。
 安全、安心の保護者の懐ばんざい。

 そうしていると、シャツの上からパパに頭を撫でられた。

「シロ、そろそろ出てこい。メシ食うぞ。今日はステーキだ」

 ヒョコッ

「あ、出てきた」




しおりを挟む
感想 356

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。