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二章
はつゆき!③
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「きゅぁ~!」
主に大人達の尽力によって立派なかまくらが完成した。
シロは大興奮でまるで犬のようにかまくらの周りをグルグルと走り回っている。大人達の頬や鼻は冷たくなっていたが、微笑ましいシロを見て心はほっこりとしていた。
かまくらの周りにはやたらと動物の雪像が増えていたが、それはかまくら作りそっちのけでイオが欲望のまま制作した成果だ。温かくなった頃に愛する動物の雪像が溶けて号泣することを本人はまだ知らない。
「中入っていい?」
「ああ、パパと一緒に入ろう」
「うん!」
ブレイクとシロは手を繋いでかまくらの中に入っていった。大人数で作っただけあって外観だけでなく中もかなり広い。
「ふおおおおお! すごい!」
「よかったなシロ」
「うん!」
ブレイクはかまくらの中で胡坐をかいて座ると、その上にきゃっきゃとはしゃぐシロをのせた。
ブレイク達の後からは続々と他の隊員達も入ってくる。
「お~、初めてにしては結構よくできたな」
「中は結構温かいんですね。期待外れです」
「お前はさっさと上着を着ろよ」
若干一名以外はかまくらの出来に満足そうだ。
かまくらの中には寒さに負け、今まで室内で待機していたクロの姿もあった。かまくらの中でもクロにとっては十分寒いのか父娘の隣で静かに丸まっている。
「犬は庭駆けまわるはずなのに……おかしいねぇ」
「ナチュラルにクロを犬扱いしてるな」
「シロは将来有望ですね」
「エスの言う将来有望ほど怖いものはないな……」
エルヴィスはついに上半身になにも布を纏わなくなったエスを見て遠い目をした。
「……というか、全員入るとさすがにちょっと狭いね」
シリルがポツリと呟く。
特殊部隊の隊員が全員座り込んだかまくらの中は、図らずも冬の遊び、おしくらまんじゅう状態になっている。
「これはこれでいい気がするけどな」
「てか、かまくらを作ったはいいけどここで何をするんだ?」
「作って終わりなんじゃね?」
「あ、俺オッサンからミカン貰ってきたっすよ。みんなで食べながら駄弁りましょ~」
そう言ってジローはカゴに山ほど入ったみかんを皆に見せた。
「おおジローナイス」
「よーしよし、いいこだねぇ」
「犬扱い止めてくださいっす!」
ジローの言葉にクロはピクリと反応し、むくりと起き上がった。
「……キャラかぶり……けす……?」
「そんなことで消さないでほしいっす。大体俺はワンコキャラじゃないんで」
「…………」
クロは暫しジローを見つめた後、納得したのかゆっくりと元の体勢に戻っていった。
ジローは安堵から胸をなでおろす。
「パパー、ミカンむいて~」
「ん?じゃあこれ食べろ。あーん」
ブレイクはちょうど剥き終わったミカンをシロの口元に持っていった。
「あーん。……うまうま」
シロは両頬に手を当ててミカンの甘い果汁を味わう。
その近くではアニが全身全霊でミカンの皮を剥いていた。
「シロちゃん待っててね。すぐにおいしいミカン食べさせてあげるから!」
「うん!」
「ほどほどの量にしろよ」
アニは白い筋まできれいに取ったミカンをシロに献上した。
「アニありがと~」
「ううん、お礼なんていいんだよ。俺が手を加えたものがシロちゃんの体を構成するってだけで俺は十分嬉しいんだから」
「やべぇな……」
一同ドン引きだ。
「ちょっと、お宅の弟さんいい加減どうにかしてよ」
「うちの子ったらちっとも言うこと聞いてくれないのよ」
シリルもエルヴィスも冗談めかした口調だが言っていることには紛れもない本音が混ざっていた。
***
特殊部隊の面々は結局夕方までかまくらの中で過ごした。
「寒くなってきたな。そろそろ戻るか」
「「「は~い」」」
ブレイクの言葉にシロもいいお返事をしているが、その表情はどこか名残惜しそうだ。
そこでアニはハタと気付いた。
(シロちゃんはまだここにいたいんじゃないかな。今日はかまくらで寝るとか言い出したらどうしよう……。いや、俺はシロちゃんに付き合ってここで寝てもいいんだけどシロちゃんが風邪ひいちゃうかもしれないしな……。)
「……シロちゃん、もしかしてまだかまくらで遊びたかったりする?」
「うん。でもシロは分別のある幼女だから自分を含めて体調を崩しそうな我儘は言いません。しっかりと温かいベッドで寝て明日も雪で遊ぶの」
「あ、そうだよね」
そう言えばシロちゃんは天才だった、とアニは思い出した。そしてシロをその辺の幼女と同じように考えてしまった自分を恥じると同時に感動する。
「俺達の体調まで心配してくれるなんて……シロちゃん! 一生ついて行きます!!」
主に大人達の尽力によって立派なかまくらが完成した。
シロは大興奮でまるで犬のようにかまくらの周りをグルグルと走り回っている。大人達の頬や鼻は冷たくなっていたが、微笑ましいシロを見て心はほっこりとしていた。
かまくらの周りにはやたらと動物の雪像が増えていたが、それはかまくら作りそっちのけでイオが欲望のまま制作した成果だ。温かくなった頃に愛する動物の雪像が溶けて号泣することを本人はまだ知らない。
「中入っていい?」
「ああ、パパと一緒に入ろう」
「うん!」
ブレイクとシロは手を繋いでかまくらの中に入っていった。大人数で作っただけあって外観だけでなく中もかなり広い。
「ふおおおおお! すごい!」
「よかったなシロ」
「うん!」
ブレイクはかまくらの中で胡坐をかいて座ると、その上にきゃっきゃとはしゃぐシロをのせた。
ブレイク達の後からは続々と他の隊員達も入ってくる。
「お~、初めてにしては結構よくできたな」
「中は結構温かいんですね。期待外れです」
「お前はさっさと上着を着ろよ」
若干一名以外はかまくらの出来に満足そうだ。
かまくらの中には寒さに負け、今まで室内で待機していたクロの姿もあった。かまくらの中でもクロにとっては十分寒いのか父娘の隣で静かに丸まっている。
「犬は庭駆けまわるはずなのに……おかしいねぇ」
「ナチュラルにクロを犬扱いしてるな」
「シロは将来有望ですね」
「エスの言う将来有望ほど怖いものはないな……」
エルヴィスはついに上半身になにも布を纏わなくなったエスを見て遠い目をした。
「……というか、全員入るとさすがにちょっと狭いね」
シリルがポツリと呟く。
特殊部隊の隊員が全員座り込んだかまくらの中は、図らずも冬の遊び、おしくらまんじゅう状態になっている。
「これはこれでいい気がするけどな」
「てか、かまくらを作ったはいいけどここで何をするんだ?」
「作って終わりなんじゃね?」
「あ、俺オッサンからミカン貰ってきたっすよ。みんなで食べながら駄弁りましょ~」
そう言ってジローはカゴに山ほど入ったみかんを皆に見せた。
「おおジローナイス」
「よーしよし、いいこだねぇ」
「犬扱い止めてくださいっす!」
ジローの言葉にクロはピクリと反応し、むくりと起き上がった。
「……キャラかぶり……けす……?」
「そんなことで消さないでほしいっす。大体俺はワンコキャラじゃないんで」
「…………」
クロは暫しジローを見つめた後、納得したのかゆっくりと元の体勢に戻っていった。
ジローは安堵から胸をなでおろす。
「パパー、ミカンむいて~」
「ん?じゃあこれ食べろ。あーん」
ブレイクはちょうど剥き終わったミカンをシロの口元に持っていった。
「あーん。……うまうま」
シロは両頬に手を当ててミカンの甘い果汁を味わう。
その近くではアニが全身全霊でミカンの皮を剥いていた。
「シロちゃん待っててね。すぐにおいしいミカン食べさせてあげるから!」
「うん!」
「ほどほどの量にしろよ」
アニは白い筋まできれいに取ったミカンをシロに献上した。
「アニありがと~」
「ううん、お礼なんていいんだよ。俺が手を加えたものがシロちゃんの体を構成するってだけで俺は十分嬉しいんだから」
「やべぇな……」
一同ドン引きだ。
「ちょっと、お宅の弟さんいい加減どうにかしてよ」
「うちの子ったらちっとも言うこと聞いてくれないのよ」
シリルもエルヴィスも冗談めかした口調だが言っていることには紛れもない本音が混ざっていた。
***
特殊部隊の面々は結局夕方までかまくらの中で過ごした。
「寒くなってきたな。そろそろ戻るか」
「「「は~い」」」
ブレイクの言葉にシロもいいお返事をしているが、その表情はどこか名残惜しそうだ。
そこでアニはハタと気付いた。
(シロちゃんはまだここにいたいんじゃないかな。今日はかまくらで寝るとか言い出したらどうしよう……。いや、俺はシロちゃんに付き合ってここで寝てもいいんだけどシロちゃんが風邪ひいちゃうかもしれないしな……。)
「……シロちゃん、もしかしてまだかまくらで遊びたかったりする?」
「うん。でもシロは分別のある幼女だから自分を含めて体調を崩しそうな我儘は言いません。しっかりと温かいベッドで寝て明日も雪で遊ぶの」
「あ、そうだよね」
そう言えばシロちゃんは天才だった、とアニは思い出した。そしてシロをその辺の幼女と同じように考えてしまった自分を恥じると同時に感動する。
「俺達の体調まで心配してくれるなんて……シロちゃん! 一生ついて行きます!!」
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