天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

文字の大きさ
61 / 104
二章

おせんたく!

しおりを挟む
「いけ! えんぺらー!!」
「ガウッ!!」

 シロはエンペラーに乗って隊舎の周りを風を切って駆け回る。


 楽しそうな娘をブレイクは眩しそうに見つめる。

「お~、キャッキャはしゃいでら~」
「シロ楽しそうっすね……お~、早いな」

 シロとエンペラーは当たったら木が抉れるんじゃないかというスピードで疾走している。

「まあ普通の犬くらいの速さじゃシロは満足しないだろ。それにエンペラーもシロを喜ばせようと張り切ってるみたいだしな」
「おいあれ大丈夫なのか?」
「お~オッサン。今日は天気がいいから洗濯日和だなぁ」
「ああ、昨日はあいにくの雨だったからな。ってちげぇよ!! あれ危ねぇだろ! 止めろよ!!」

 洗濯カゴを持ったオッサンがシロを心配してブレイクのところに寄ってきた。カゴの中身はからっぽなのであらかた洗濯物は干し終わったのだろう。少し離れた場所には風に靡く真っ白なシーツの群れがあった。

「ぎゃうんっ!?」
「ふぇ? ―――ぴええええええええええええええええええええええ!!!」

 全力で疾走していたエンペラーがぬかるんだ地面に足をとられつんのめり、その勢いのままシロは投げ出された。
 シーツの群れのど真ん中に。

「きゅおおおおおおおおおお!!!」

 幸い物干し竿などには当たらなかったものの、シロは干してあったシーツを巻き込んで吹っ飛んだ。

「ぺしょん……」

 大量のシーツが緩衝材になってシロに怪我はなかったが、真っ白だったシーツは茶色く汚れてしまっていた。

「あちゃ~……」

 オッサンは片手で顔を覆い、天を仰いだ。



***




「ごみんなさい」
「クゥ~ン」

 シロとエンペラーは泥だらけになったシーツの上で揃って土下座した。大人達の目には土下座というよりはごめん寝に見えたのだが。
 泥だらけになったエンペラーがシロを心配して突進したので二人とも泥だらけだ。

「まあ今日は足場が悪かったこともあるからな。今度からはもうちょっとスピード落として遊べよ」
「あい」
「ガウッ!」
「シンプルに話通じてそうな狼がこえーわ」

 オッサンは今更至極まっとうなことを言う。

「しゃーねー、もう一回洗濯し直すか」
「ちっちっちっ」

 地面に落ちたシーツを拾い始めたオッサンの袖をシロがちょいちょい引っ張った。

「なんだ?」
「この子たちはシロとエンペラーが汚したのでせきにんをもって二人で洗います」
「……シロとエンペラーでってことか?」
「あい!」

 キラキラとおめめを輝かせるシロ。そんなシロの頭の上にブレイクがポンと手を置いた。

「まあいいじゃねぇか。経験だよなぁシロ」
「うん!」

 シロは大きく頷いた。




「よいしょ」
「ガウ!」
「うんしょ」
「ガウウ!」

 シロは木製のタライに水と石鹸、そして汚れたシーツを入れてごしごし洗う。エンペラーも前脚をタライに突っ込んでふみふみしている。
 その光景を大人達は眉尻を下げて見守る。

「かわいい」
「なにあのほのぼの光景」
「仕事辞めて田舎にでも引っ越すか」
「「「それは止めてください隊長」」」


 エンペラーをジッと見つめた後、シロは靴を靴下を脱ぎ捨てた。

「シロもふみふみする!」

 エンペラーが羨ましくなったのかシロは裸足でシーツをふみふみし始めた。ザブンザブンとタライの中で水が波打つ。
 泡立入りの水がエンペラーに掛かる。

「ガウッ!」
「あはは! エンペラーも洗ってあげる」
「ガウッ!?」

 シロは既に石鹸入りの水を浴びていたエンペラーの毛皮を擦って泡立て始めた。
 すぐにエンペラーがあわあわになる。

「気持ちいいですか~?」
「ガウッ!」

 シロは自身にも泡が付くのも構わずエンペラーを洗っていく。



 結局、汚れた全てのシーツを洗い終えたのは夕方頃だった。

 ブレイクは、やり切ったと満足して眠ってしまった娘を抱き言った。

「見事に脱線したな」
「結局子どもに任せるよりは自分でやった方が早いんだよなぁ……まあ部屋干しするか」

 オッサンはキレイになったシーツの入った籠を持ちあげる。その足元にはやたらと毛並みのよくなった狼がいた。





しおりを挟む
感想 356

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。