天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

レッツ羽根つき!

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「し~ろ~ちゃ~んっ! これやろ~」
「?」

 ルンルンとスキップをしてシロの元に寄って来たアニが持っていたのは、持ち手らしきものがある2枚の板と黒くて小さな玉にカラフルな羽が何枚か付いたものだ。

「これなに?」
「『羽根つき』っていうどこかの国の遊びらしいよ。殿下がシロちゃんに渡してくれって。今から一緒にやらない?」
「やる!」

 シロはぴょこんっと飛び跳ねてアニの誘いに乗った。






「ルールは簡単、この羽根を落とさないようにこの羽子板で打ち合えばいいんだって」
「この墨はなに?」

 シロはいつの間にか用意されていた墨と筆を指差した。

「打ち損ねた人の顔にはこの墨で落書きをするらしい」
「ただでさえ打ち損ねて悔しいところにさらに追い打ちをするの。恐ろしいルールだね」
「……たしかに?」

 そう言われればそうかもしれない、とアニはシロの言葉に首を傾げつつ同意した。



「シロ~がんばれ~」
「ロリコンを蹴散らしてやれ~」

 場所は特殊部隊の訓練場。そこにはほぼ全員の特殊部隊隊員がギャラリーとして集まっていた。

 シロは羽根を手のひらでコロコロと転がす。シロの小さな手に乗っていると小さな羽根が相対的に大きく見えるのが不思議だ。

「シロからでいいの?」

 シロの体には少々大きめの羽子板を持ったシロが首を傾げる。ちなみに今日のシロの格好は殿下が用意した着物という衣装だ。赤色ベースの着物はシロによく似合っている。
 一方、普段と変わらない隊服を着たアニはシロの質問に笑顔で頷く。

「うんもちろん。全力でおいで」
「わかった」

 シロはアニの言葉にコクリと頷く。

(あ~シロちゃんかわいな~。かわいくない瞬間がないとか反則だよね。もう女の子として存在がルール違反だよシロちゃんは)

 そして、シロが羽根を宙に投げ、大きく羽子板を振りかぶった。


 パァァァァァンッ!!!!


「…………へ?」
「? アニ、羽根消えた」

 シロはキョロキョロと辺りを見回す。
 そんなシロの上からハラハラと羽だけが降ってくる。

 探しても羽根が見つからないシロは父親に助けを求めた。

「パパ」

 ブレイクはそんなシロの視線を慈愛の微笑みで受け止める。

「シロ、下を見てみろ」
「?」

 シロは素直に自分の足元を見る。すると、そこには黒い破片がパラパラと転がっていた。

「……なにこれ」
「羽根の丸いやつだ」
「あちゃ~」

 シロは力み過ぎて羽根を壊してしまったことにようやく気付いた。

「そうだっだ、シロちゃんはただの幼女じゃなくて超ハイスペック限界突破幼女だった……!」

 忘れてた……!とアニは謎の衝撃を受ける。
 そんな様子を傍から見ていたシリルは首を傾げ、隣にいたエルヴィスに問いかける。

「アニは一体なににショック受けてんの?」
「シロに関する事柄を忘れたことに対してじゃね?」
「おー、さすがお兄ちゃん」
「これで褒められても全然嬉しくない」


 アニはポケットから新しい羽根を取り出した。

「!」
「殿下が予備にいくつか持たせてくれたんんだ。まだ羽根つきはできるよ。今度はちょっと手加減してやろうか」
「うん!」

 折角もらった羽根を壊してしまって少しションボリとしていたシロはアニの言葉で元気を取り戻した。

「じゃあいくよ~」
「こ~い!」

 アニがシロに向けて優しく羽根を羽子板で打つ。

 そうして、ようやく羽根つきが始まったのであった。




***




「―――クッ! ダメだ! 俺にはできない! こんな残酷なこと……!!!」

 アニは崩れ落ち、四つん這いで項垂れる。

「いいからさっさとやれよ。大袈裟なやつだな」
「そんなっ……大袈裟だと!? シロちゃんの顔に墨を塗るなんて、俺に出来るわけがないだろ!!」

 うわあああ! とアニはついに頭を抱え込んでしまった。そんなアニの顔面はシロが容赦なく墨で落書きをしたため、黒くない面積の方が少なくなっている。
 地面にうずくまって嘆くロリコンに特殊部隊の面々は容赦なく冷たい視線を浴びせかけた。

「お前が持ってきたゲームだろ。まあ、正確には殿下だけど」

 まだ一滴も墨で顔が汚れていないシロはブレイクを見あげた。

「パパどうする?」
「ふむ、じゃあシロにはパパが可愛い麻呂眉を描いてやろう」

 そう言うとブレイクは筆をとり、シロの真っ白い眉の上から円を描き始めた。

「ふふふっ、くしゅぐったい」
「ちょっとの我慢だ」


 数十秒後、可愛らしい麻呂眉のシロが出来上がった。
 普段に増して幼さを感じさせる愛らしさに、アニは地面をのたうちまわる。

「ふわあああああああああああ!! 隊長は天才ですか!?」
「あったりめーだ。シロの父親だぞ」
「確かに当たり前だ!!」

 アニはカッと目を見開く。


「お前の弟どうにかしろよ」
「できたら俺は一国くらい牛耳れる男になってるぞ」

 そんな会話をするギャラリーの中からエスが進み出ていった。


「シロ、次は僕とやりましょう」
「いいよ! でも珍しいね、エスが率先してこういうのやりたがるの」
「そうですか?」

 シロはエスから少し離れた位置で羽根を握り羽子板を構えた。

「……エス?」

 一向に羽子板を手に取らないエスをシロが不審がる。
 すると、エスは羽子板を持つどころか隊服の上着を脱ぎ出した。そして上半身はYシャツ一枚になる。

「???」

 首を傾げ続けるシロに向けて、エスは大きく両手を広げた。

「さあシロ! 存分に羽根をぶつけてください! いっそのことそのまま羽子板で叩いてくれても構いません!!」
「あ、全然いつも通りだったね」

 力を抜きに抜いたシロが打った羽根は、ゆるゆると飛んでいってエスの足に当たった。








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