32 / 104
こぼれ話
ご都合主義ばんざい!
しおりを挟む王都の外れにある寂れた商店。
ホコリっぽく薄暗いそこには二人の男がいた。
片方は無精髭を生やした中年で、もう片方は深くフードを被っておりその容貌を窺うことはできない。
無精髭を生やした男は、フードの男に液体の入った小瓶を差し出した。
「ニイチャン、例のアレ、ようやく手に入ったぜ」
「! そうか……」
フードの男は大切にその小瓶を懐へとしまう。
「報酬はこれでいいか?」
そう言ってフードの男はパンパンに膨らんだ袋を手渡した。
「いいぜ」
無精髭の男は即座に受け取った袋の中身を確認すると、ニヤニヤと笑いながら了承の返事をした。
その後、数分と待たずにフードの男は店を後にした。
「にゃん♪ にゃんにゃん♪ にゃにゃ~♪」
「ガウッ! アオーン♪」
シロはエンペラーと共に上機嫌で廊下を歩いていた。
そこに猛ダッシュでロリコンが駆け寄ってくる。
「ぅえええええええ!!! 何そのお歌!! 可愛すぎるんですけどおおお! 今日はにゃんこなのかな!? シロにゃんは俺の心臓を握り潰したいの!?」
「シロ、ばっちいものは触っちゃだめってパパに言われてるの。だからアニの心臓は潰せない」
「ちゃんと言いつけを守るシロにゃんマジいい子!」
アニはその場に崩れ落ちた。
「……」
「う?」
ちょんちょん
四つん這いになったままピクリともしないアニをシロが恐る恐る指で突く。
ガバッ!!!
「ぴ!?」
アニが急に頭を上げ、驚いたシロはエンペラーに抱き着く。
「シロちゃん!」
「はいシロちゃんです!」
いつもより興奮気味のアニにガシッと両肩を掴まれ、シロは硬直する。あまりの剣幕に、無意識に両手をピンッと上げてしまった程だ。
「お願いがあるんだ! ほんとぉ~に、一生に一度のお願いなんだけど~」
「一生のおねがい? じゃあこれ以降はアニのお願いをきかなくていいってこと?」
一瞬、アニの動きが止まる。
「ほんとぉ~に、一生に二、三度はあるお願いなんだけど~」
「いいなおした」
アニは懐から小瓶を取り出す。
「これを受け取ってほしいんだ!!」
「これを受け取ればいいの?」
「できれば使ってみてほしいな~なんて……」
「……あやしい」
シロがそう言うとアニの体がビクッと反応した。
「ま、まあ確かに怪しいけど! ちょっとだけ! ちょっとだけ匂い嗅いでみて!!」
「う~ん……。ちょっとだけよ?」
シロは小瓶の蓋を開けると、フチに鼻を近付けて香りを吸い込んだ。エンペラーが心配そうにシロの様子を窺っている。
「すんすん。なんか甘いにお……い……」
「ガウッ!」
クラリと、その場に倒れ込みそうになったシロをエンペラーが体で受け止めた。
エンペラーにもたれかかるように横になったシロは、スウスウと寝息をたてはじめる。
「し、シロちゃん?」
唐突に眠ってしまったシロにアニが声をかける。
「シロ?」
「隊長!」
偶然にもブレイクがその場に通りかかった。
「シロはどうしてこんな所で寝てるんだ?」
「えぇ~と……」
「アニ、お前何をした」
ブレイクの眼光が鋭くなった。
アニの目がバタフライ並みに激しく泳ぐ。
「あ~う?」
唐突に、赤子のような声が二人の耳をくすぐった。
「え?」
「んな~?」
声の主はきょとんとした顔をして首をかしげたシロだった。
「……どうした? シロ。何か様子が……」
「んなーう」
いっこうに意味のある言葉を話さないシロにブレイクが疑問を覚えるのはすぐだった。ブレイクがシロを抱き上げると、シロはきゃっきゃっと喜ぶ。
「……アニ、これはどういうことだ?」
ブレイクは思いっきりアニを睨みつける。
「ええと……」
「「「赤ちゃんがえりの香!?」」」
「ああ……」
アニは食堂の床に正座させられ、事情を説明させられた。
曰く、この香の香りを嗅いだ人間は精神が赤ちゃんまで退化してしまう、と。だがこの香は十歳以下の子どもにしか効果がないらしい。
「なんて都合のいいアイテムなんだ」
「それを嗅いだからシロがこうなっちゃったんだ」
そう言ってシリルがエンペラーの尻尾で遊ぶシロに目を向ける。
「かんわいぃ~!」
「う?」
シロはきょとん、と首をかしげた。
シリルはシロの頭を撫で回す。
「危ない所から買ってねぇだろうな」
「一見あやしいですがちゃんと信頼できる筋から買ってます」
アニは自信満々に頷いた。
「うな~ん? むー」
「あ、コラ、シロ、エンペラーの尻尾を口に入れちゃダメだろ? めっ!」
「め~?」
「めっ」
「めぇ!」
「マネをするんじゃなくてな……」
シロは自分が怒られていると思っていないのか無邪気な笑顔でブレイクのマネをする。
「隊長、そんなデレデレした顔で言われたら怒られてるって気付きませんよ」
「む、そんな顔してたか」
「無意識ですか」
エルヴィスはシロを抱いてエンペラーから引き離した。
「あうぅ~! うー、だぁ~!」
シロはバタバタと手足を動かしてエンペラーのもとに戻ろうとする。
「か、かわいい~!」
アニが感動して目を潤ませ始める。
「兄さん! シロちゃんだっこさせて!!」
「お、おう」
弟の剣幕に負けてエルヴィスはシロをアニに手渡した。
「う~?」
「シロちゃん、にーにって呼んで見て。にーに」
アニはシロを抱いていないほうの手で自分を指差し、にーにを繰り返し言う。
「にーにー?」
「っ……!!!」
急にアニが顔をシロのお腹に埋めた。
「ど、どうしたアニ?」
エルヴィスがアニの様子を窺う。
「あ、コイツ号泣してるわ」
34
お気に入りに追加
7,051
あなたにおすすめの小説
生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~
雪野ゆきの
恋愛
叔父一家に虐げられていた少女リアはついに竜王陛下への生贄として差し出されてしまう。どんな酷い扱いをされるかと思えば、体が小さかったことが幸いして竜王陛下からは小動物のように溺愛される。そして生贄として差し出されたはずが、リアにとっては怠惰で幸福な日々が始まった―――。
感想、誤字脱字報告、エール等ありがとうございます!
【書籍化しました!】
お祝いコメントありがとうございます!
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。
亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません!
いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。
突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。
里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。
そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。
三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。
だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。
とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。
いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。
町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。
落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。
そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。
すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。
ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。
姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。
そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった……
これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。
※ざまぁまで時間かかります。
ファンタジー部門ランキング一位
HOTランキング 一位
総合ランキング一位
ありがとうございます!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~
あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。
その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。
その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。
さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。
様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。
ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。
そして、旅立ちの日。
母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。
まだ六歳という幼さで。
※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。
上記サイト以外では連載しておりません。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。