天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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こぼれ話

ご都合主義ばんざい!

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 王都の外れにある寂れた商店。

 ホコリっぽく薄暗いそこには二人の男がいた。
 片方は無精髭を生やした中年で、もう片方は深くフードを被っておりその容貌を窺うことはできない。
 無精髭を生やした男は、フードの男に液体の入った小瓶を差し出した。

「ニイチャン、例のアレ、ようやく手に入ったぜ」
「! そうか……」

 フードの男は大切にその小瓶を懐へとしまう。

「報酬はこれでいいか?」

 そう言ってフードの男はパンパンに膨らんだ袋を手渡した。

「いいぜ」

 無精髭の男は即座に受け取った袋の中身を確認すると、ニヤニヤと笑いながら了承の返事をした。

 その後、数分と待たずにフードの男は店を後にした。









「にゃん♪ にゃんにゃん♪ にゃにゃ~♪」
「ガウッ! アオーン♪」

 シロはエンペラーと共に上機嫌で廊下を歩いていた。
 そこに猛ダッシュでロリコンが駆け寄ってくる。

「ぅえええええええ!!! 何そのお歌!! 可愛すぎるんですけどおおお! 今日はにゃんこなのかな!? シロにゃんは俺の心臓を握り潰したいの!?」
「シロ、ばっちいものは触っちゃだめってパパに言われてるの。だからアニの心臓は潰せない」
「ちゃんと言いつけを守るシロにゃんマジいい子!」

 アニはその場に崩れ落ちた。

「……」
「う?」

 ちょんちょん

 四つん這いになったままピクリともしないアニをシロが恐る恐る指で突く。

 ガバッ!!!

「ぴ!?」

 アニが急に頭を上げ、驚いたシロはエンペラーに抱き着く。

「シロちゃん!」
「はいシロちゃんです!」

 いつもより興奮気味のアニにガシッと両肩を掴まれ、シロは硬直する。あまりの剣幕に、無意識に両手をピンッと上げてしまった程だ。

「お願いがあるんだ! ほんとぉ~に、一生に一度のお願いなんだけど~」
「一生のおねがい? じゃあこれ以降はアニのお願いをきかなくていいってこと?」

 一瞬、アニの動きが止まる。

「ほんとぉ~に、一生に二、三度はあるお願いなんだけど~」
「いいなおした」

 アニは懐から小瓶を取り出す。

「これを受け取ってほしいんだ!!」
「これを受け取ればいいの?」
「できれば使ってみてほしいな~なんて……」
「……あやしい」

 シロがそう言うとアニの体がビクッと反応した。

「ま、まあ確かに怪しいけど! ちょっとだけ! ちょっとだけ匂い嗅いでみて!!」
「う~ん……。ちょっとだけよ?」

 シロは小瓶の蓋を開けると、フチに鼻を近付けて香りを吸い込んだ。エンペラーが心配そうにシロの様子を窺っている。

「すんすん。なんか甘いにお……い……」
「ガウッ!」

 クラリと、その場に倒れ込みそうになったシロをエンペラーが体で受け止めた。
 エンペラーにもたれかかるように横になったシロは、スウスウと寝息をたてはじめる。

「し、シロちゃん?」

 唐突に眠ってしまったシロにアニが声をかける。


「シロ?」
「隊長!」

 偶然にもブレイクがその場に通りかかった。

「シロはどうしてこんな所で寝てるんだ?」
「えぇ~と……」
「アニ、お前何をした」

 ブレイクの眼光が鋭くなった。
 アニの目がバタフライ並みに激しく泳ぐ。


「あ~う?」


 唐突に、赤子のような声が二人の耳をくすぐった。

「え?」

「んな~?」

 声の主はきょとんとした顔をして首をかしげたシロだった。

「……どうした? シロ。何か様子が……」
「んなーう」

 いっこうに意味のある言葉を話さないシロにブレイクが疑問を覚えるのはすぐだった。ブレイクがシロを抱き上げると、シロはきゃっきゃっと喜ぶ。

「……アニ、これはどういうことだ?」

 ブレイクは思いっきりアニを睨みつける。

「ええと……」









「「「赤ちゃんがえりの香!?」」」

「ああ……」

 アニは食堂の床に正座させられ、事情を説明させられた。
 曰く、この香の香りを嗅いだ人間は精神が赤ちゃんまで退化してしまう、と。だがこの香は十歳以下の子どもにしか効果がないらしい。

「なんて都合のいいアイテムなんだ」
「それを嗅いだからシロがこうなっちゃったんだ」

 そう言ってシリルがエンペラーの尻尾で遊ぶシロに目を向ける。

「かんわいぃ~!」
「う?」

 シロはきょとん、と首をかしげた。
 シリルはシロの頭を撫で回す。

「危ない所から買ってねぇだろうな」
「一見あやしいですがちゃんと信頼できる筋から買ってます」

 アニは自信満々に頷いた。

「うな~ん? むー」
「あ、コラ、シロ、エンペラーの尻尾を口に入れちゃダメだろ? めっ!」
「め~?」
「めっ」
「めぇ!」
「マネをするんじゃなくてな……」

 シロは自分が怒られていると思っていないのか無邪気な笑顔でブレイクのマネをする。

「隊長、そんなデレデレした顔で言われたら怒られてるって気付きませんよ」
「む、そんな顔してたか」
「無意識ですか」

 エルヴィスはシロを抱いてエンペラーから引き離した。

「あうぅ~! うー、だぁ~!」

 シロはバタバタと手足を動かしてエンペラーのもとに戻ろうとする。

「か、かわいい~!」

 アニが感動して目を潤ませ始める。

「兄さん! シロちゃんだっこさせて!!」
「お、おう」

 弟の剣幕に負けてエルヴィスはシロをアニに手渡した。

「う~?」
「シロちゃん、にーにって呼んで見て。にーに」

 アニはシロを抱いていないほうの手で自分を指差し、にーにを繰り返し言う。

「にーにー?」

「っ……!!!」

 急にアニが顔をシロのお腹に埋めた。

「ど、どうしたアニ?」

 エルヴィスがアニの様子を窺う。



「あ、コイツ号泣してるわ」











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