天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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こぼれ話

ば〜ぶ、あう、だ〜あ!(私は今何と言っているでしょうか?)

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「うっ、ううっ!」

 泣き続けるアニ。

「う~?」
「うん、にーにだよ~」

 感極まったアニはシロを抱きしめて腹に顔を埋めた。止まる気配なく溢れる涙がシロの服に吸い込まれていく。

「……しろの服がぬれる」
「あっ!」

 アニにされるがままになっていたシロは、いつの間にか来ていたクロの腕におさまった。

「だ~う! うんにゃ~?」
「……かわいい」

 クロがシロの頬をツンツンとつつき始める。それがくすぐったかったのか、シロはキャッキャッと笑う。

「たべちゃいたい……」
「やめなさい」
「……」

 もちろん歯はたてていないが、柔らかな頬をアグアグとみ出したクロにエルヴィスがストップをかけた。
 クロは不満そうな顔をするも、大人しくシロの頬から唇を離した。

「まったく……」

 エルヴィスはハンカチを取り出して濡れた頬を拭いてやった。
 すると、シロは嬉しそうに声を上げる。

「あ~!」

 にっこりとシロが笑うので自然とエルヴィスも笑顔になる。

「お前もそんなに変わんねぇじゃねーか」
「……どうるい」
「や~いロリコ~ン」
「それお前アニにだけは言われたくない」

 苛ついたエルヴィスはアニの頭に軽いゲンコツをくらわせた。

 そのままやいのやいのと騒いでいると、シロがブレイクに両手を向けてぐずり始めた。

「あ~う、あぁ~うぅ~!」
「……やっぱり、たいちょがいいのかな……」
「うぅ~……だぁ!!」
「おーよしよし、パパが抱っこしてやろうな~」

 ブレイクの手に移ったシロはコロリと機嫌を直し、にぱっと笑みを見せる。


「……隊長、そのドヤ顔は正直ムカつきます」
「……くやしい……」
「お、俺だってシロちゃんに『にーに』って呼んでもらえたし!!!」
「え~僕まだ抱っこもさせてもらってないんだけど~」

 ブレイクの美貌を台無しにするドヤ顔に不満が止まらない。

「きやぁ~!」
「む、こらシロ、イケメンなパパの顔をペチペチするんじゃない」
「うきょきょきょっ!」

 ブレイクが嫌がるのが嬉しいのかシロは奇妙な笑い声をあげる。

「シロ、めっ! だ。悪い子にはちゅーすんぞ」
「ちゅ~?」
「そうだぞ。むっちゅ~」

 ブレイクはシロの頬にちゅっちゅっとキスを贈る。

「おえっ」
「おい今オエッて言ったか?」

 シロは真顔でふるふると首を振る。


「し~ろ~。シロはかわいいからとっておきの火薬をあげようね」
「中身赤ん坊に危険物与えんな」

 シロの手に火薬の入った袋を握らせたシリルはすかさずエルヴィス常識人に頭を叩かれた。
 シロはすかさずライターで火をおこした。

「やだこの子賢い。火薬の使い方をわかってるわ。誰だよシロにライター渡したの」
「え、俺」
「幼女の安全に配慮しろロリコン」

 エルヴィスはシロの手からライターを回収した。
 シロは不思議そうに首を傾げ、エルヴィスにライターを返せというような顔をした。

「うぅ~! あう~!!」
「だめ、危ないでしょ。ないないだよ」
「うぅぅぅ~……びええええええええ!!」

 おもちゃライターを取られたシロの顔は徐々にゆがみ、ついには泣き出してしまった。
 皆の視線がエルヴィスに集まる。

「「「「い~けないんだ~エルヴィス~で~んか~にいっってやろ~」」」」
「いい年した大人が……。殿下に言うのはリアルに報復が怖いから止めてください」
「ボクがなんだって?」
「ヒエッ!?」

 いつの間にかエルヴィスの背後に殿下が立っていた。

「殿下なんでいるんだ? 仕事中だろ」
「いや、仕事をサボってでも見に行った方がいいものがあるって影に聞いてな」
「ツッコミどころが多すぎる!!」





 「……!!!」

 殿下の体中に電撃が走った。

「う~?」

「なんだっ!!! この生き物はっ!!!」

 殿下は口元を覆ってその場に崩れ落ちた。

「親近感を感じる……」

 アニの発言。

「あ~う! あ~う!」
「尊い……」
「推しに感動するオタクか」

 ブレイクは殿下の反応に呆れっぱなしだ。

「さ、触ってもいいか……?」

 殿下はカバーガラスを扱うよりも慎重にシロの頬に人差し指を触れさせる。

「変態臭いぞ殿下」
「うるさいな」

 ブレイクがうろんな目をする。


「う!」

 不意に、シロが殿下の指をガシッと掴みそのまま流れるようにぱくっと口にくわえた。

「――――!!!」
「むごむご」

「コラッ、ばっちいだろ。ぺってしなさい」
「おい誰の指がばっちいだ」
「だぁ!」

 シロはデロンと殿下の指を吐き出した。

「シロ、指はやれんが、これで遊んでいろ」

 そう言って殿下はシロに手のひら大のゴムボールを握らせた。
 シロはそれを見てキラキラと瞳を輝かせる。

「あ」

 一瞬ブレイクがしまった、というような声を出す。

「だう!!」

 バビュン!!

 シロが投げたゴムボールは豪速球となって壁にめり込んだ。
 ブレイクは冷静に壁からボールを回収して言った。

「体はそのままで精神が赤子になっただけだからな。手加減ができなければこうなる」
「普通の5歳児はこうはならないですよ……」
「力が強いとこういう事態が起こりかねないから十歳以下にしか効果がないのかもねぇ」

 シリルも冷静に分析しだす。

「今日のシロに物を持たせるのは危険だな……」
「あの香の効果は一日なので今日をのりきればどうにかなりますよね……」

 大人達が真剣に議論し始める。


「クゥ~ン」
「どうしたエンペラー、今ちょっと話し合いが……」

 ブレイクがエンペラーに視線をやると、そこには毛布にくるまれてエンペラーの腹に埋もれ、すやすやと寝息を立てるシロがいた。

「うにゅ……すぴー、すぴー」

 気付けば日はほとんど沈んでいた。













 ブレイクは一時間経っても起きないシロを抱いて部屋に戻ってきた。
 ベッドにシロを寝かせる。

 そして、いつもよりもどこか幼い寝顔を見つめた。

「……やっぱり、最初からずっと育ててやりたかったな……」

 静まり返った部屋でブレイクは本音を吐露した。
 シロはもっとイタズラやわがままを言ったりしてもよいとブレイクは考えている。シロは賢いがゆえに、その年齢にしては聞き分けがよすぎるからだ。
 シロを割と強引に特殊部隊に入れたことは確固たる居場所を与えるという点では成功していた。だが、同時にシロに余計な責任感を感じさせてもいた。

 シロは基本的に訓練や仕事を嫌がらない。むしろ、仕事に自分から同行したがることさえある。
 それはブレイクや皆と一緒にいられるというのもあるだろうが自分は特殊部隊の一員なのだからしっかりせねばという意識があるのも事実だろう。

 ブレイクはシロが嫌だと言ったら無理にやらせるつもりはなかった。むしろ、もっとわがままを言ってもいいと日々考えていた。
 今日の赤子らしい無邪気なシロも余計ブレイクにそう思わせた。

「……やはり俺から甘やかしていくしかないか」

 ふむ、とブレイクは一つ頷き、子育ての方針を変えることを決意した。

 考え事が一段落したブレイクはシロの横にもぐり込み、娘を抱き込んで眠りに入った。












 その後の三日間、シロはアニと口をきかなかった。





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