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こぼれ話
シリルの罰
しおりを挟む「被告人シリル。何か言い訳はあるかね?」
「ついっ……出来心で……っ僕は無実だ!!」
「無実ではないでしょう」
エスがバッサリと切り捨てる。
私は訓練場の木に亀甲縛りで吊るされたシリルの下に水と塩の入った皿を置いた。
「大丈夫?シリル、熱中症には気をつけてね。ちゃんと塩と水と辛酸なめてね」
「え、僕これから辛酸なめさせられるの?」
「そ~。……ぅおうっ」
パパに後ろから抱きかかえられた。
「隊長、ピンヒールの刑に処しましょう。歩きづらい上に靴ずれします」
「それよりシリルのズボンのケツの部分全部切り取ってやろう」
「加齢臭を凝縮した香水を降りかけてやりましょうぜ」
「……ぶっころす…………」
以上、検事の方々の求刑でした。
ちなみに弁護士はいない。
「最後のは別として、よくお前らそんな地味にキツイ嫌がらせ思いつくな」
パパは呆れ半分、感心半分の様子だ。
「まあ俺個人としては俺がタコ殴りすんのが一番早いと思うんだが……」
「それはもう死刑と変わらないですから」
パパの死刑宣告をエルヴィスが止める。
「シロは何か提案あるか?」
「背中がかゆいから掻いてほしい」
「それはただして欲しいことだな。この辺か?」
「あ~そこそこ~」
パパは私を抱き上げたままピンポイントでかゆい所を探り当てた。そしてちょいちょいっと指で掻いてくれる。
「エスは何かないか?」
「亀甲縛りで吊し上げる……とかですかね」
「実行してから提案する新しいスタイルだな」
既にシリルはエスによって縛り上げられた後だ。
犯行は全てエスの独断で行われた。
コホン、とアニが咳払いをして一度場を静める。
「ではシロ裁判長、判決を」
「異議ありー!いぃ~ぎぃ~あ~りぃ~!!僕の何が罪だっていうのさ!?爆破なんて日常でもどんな任務でもやってきたじゃん!!」
「それがまず普通じゃないってことに気付け」
エルヴィスのごもっともなツッコミ入りました~。
「……何が罪……だと?」
お、珍しくアニがバックに黒いものを背負ってる。
「お前の罪はなぁ!神より賜りしロリを危険にさらしたことだあああああああ!!!」
いつも通りのアニだったわ。
「シロちゃんの真珠よりもスベスベで社会の闇を知らないようなもっちりとしたお肌に深さ約0.1mm長さが約1.0cmの傷ができたんだぞゴルアアアアア!」
「それに気付くお前が気持ち悪いわ」
兄は弟にドン引きのようだ。
シロもドン引き。というか自分でも気付いてなかったよ。
「あと爆風でシロちゃんのトゥルントゥルンの髪に枝毛が二本もできたんだぞ!!」
「ぱぱ、しろはホラーよりも恐ろしいものを見てる気がする……」
「パパも同意見だ。ロリコンはナイナイしような」
パパにそっと目を塞がれた。
本業ロリコンの観察力いと怖し。
「よってシリルは生涯ロリ達への無償奉仕の刑に処す!いやむしろ刑というよりはご褒美だけど!!異論も反論も認めないっ!!!」
「異論と反論しかないわ」
「このロリコンこそ逮捕されるべき」
「本心からの同意」
上からシリル、エルヴィス、エスの発言だ。
思いっきり兄に見放されてるじゃん。
「検事アニ、退廷を命ずる」
「なんでなんだよおおおおおおおお!!」
アニは心優しい特殊部隊隊員によって引きずられて行った。うむ、自業自得ナリ。
「もうここは最高権力者の殿下に決めてもらおうよ」
もうめんどうだから殿下に丸投げしちゃおう。
実はずっといた殿下に決断を委ねることにした。
この場の最高権力者はウイリアムとセバスが用意したパラソルの下でオシャンなドリンクを嗜んでいる。単純にうらやま。
「ん?ボクが決めていいの?」
「そもそも殿下から受けた任務だし」
「それもそうか、ん~公に罰するわけにはいかないしなぁ。…………じゃあ、シリルはこれから一ヶ月間プライベートでの爆破行為を全面禁止だ。さらに、一度それを破る毎に期間を延ばす」
沈・黙。
最初に口を開いたのはエルヴィスだった。
「……なっ、なんて恐ろしい罰なんだ…………。爆弾のないシリルなんて幼女じゃないシロ、ロリコンじゃないアニ、Mじゃないエスみたいなものじゃないかっ!!!」
「すごくわかりやすい例えだねぇパパ」
「そうだなシロ。つまりキャラの濃さを極限まで薄めた状態になるわけだな」
周りを見渡して見ると、なぜかアニがショックを受けたようにワナワナと震えていた。
「どうしたの?アニ」
「そんなっ……そんなっ……!クレイジー爆弾野郎じゃなくなったシリルなんてただのイケメン優男じゃないかっ!!そんなシリルにシロちゃんがコロッと惚れたりしたらどうするんだ!!!」
「シロはクレイジー爆弾野郎なシリルを知ってるから惚れたりしないよ?」
そんなに惚れっぽくないもん。
そういえば、当のシリルはどんな反応なんだろう。
クレイジー爆弾野郎の様子を確認しようと振り返る。
「シリルっ…………うわぁ」
シンプルに号泣してる。
「うっ、ううっ……」
「ちょっと可哀想だが耐えるしかねぇな。隠密にっていう殿下の命令破っちまったからなぁ」
「南無阿弥陀仏」
「腹黒を怒らせるから」
特殊部隊のみんなは結構好き勝手に言ってる。自分達にはあんまり関係ないもんね。
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うむ。
「それでは、これにて閉廷!」
「おーい、茶番は終わったかー?」
唐突に耳に入った、到底イケボとは言えない声。
「あ!おっさん!!」
私はパパから下りておっさんの元へ駆け寄った。
その勢いのままおっさんによじ登る。おっさんの図体は大きいのでとても登りがいがある
「あっ!コラッちびっこ、なにすんだ!?」
「おっさん登り」
「木に登りなさい」
そうやって文句を言いつつも好きにさせてくれるおっさんは近所に一人は欲しいタイプだ。
「手続きを終えてきた。今日から俺はこの特殊部隊の隊舎の雑用係だ」
そう、おっさんは見事、シロ達にお持ち帰りされてしまったのである。
なぜおっさんをテイクアウトしてきたのかと言うと、シロ達がおっさんと関わってしまったのと、シリルが盛大にやらかしたからだ。
元々今回の任務は極秘で達成しなければならないものだった。国宝が盗まれたなんて恥でしかないのだから。
だけど、特殊部隊隊員である私達は盗賊のおっさんと普通に関わってしまった上に、シリルが大規模な爆発を起こしてしまった。
どうやらおっさんは盗賊というよりはコソドロのようなことをしていたらしい。
お金がなくて盗賊団に入ったが、暴力が苦手で一人だけ荒事には参加していなかった。そのせいで、他のメンバーからは嫌われていた。
だから一人だけ留守番だったんだね……。
それを聞いた殿下は、あるシナリオを思い付いた。
曰く、盗賊達からの扱われ方に不満を抱いたおっさんが、復讐としてアジトを爆破し逃げたことにしよう、と。幸いと言っていいのか、崩壊した建物は国宝が取り返されたことに気付ける感じではない。おっさんが前々から計画していたように見せかける細工を少ししておけば、誰にも疑われないだろう。
そしてガッツリ国の関与を知り、犯人に仕立てあげられたおっさんはお持ち帰りされたというわけだ。かと言って、コソドロとはいえ犯罪者のおっさんを無罪放免にすることはできない。なので殿下は償いと、余計なことを言いふらさないように監視をするという意味も含めておっさんを最低二年間は特殊部隊の雑用として雇うことを命じたのだ。
もちろんお給料は格安。
その話を聞いても「真人間になる良いチャンスだ」と言っておっさんは笑っていた。
あ、そうだ。おっさんに言おうと思ってたことがあったんだ。
「そういえばおっさん、特殊部隊関係のお仕事って『働きたくない職場ランキング、命の危険を感じる部門』と『常識の通じない部門』で殿堂入りしたらしいよ」
「二年後の転職先探しとくわ」
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