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こぼれ話
絵本ってこんなにシビアだったんだ
しおりを挟む殿下曰く、輸送中の国宝が盗賊に奪われてしまったらしい。だが、そんな事を公にするわけにはいかないので特殊部隊に秘密裏に取り返して来て欲しいということだ。
「……ボクの説明聞いてるか?」
「ああ、聞いてる聞いてる。ポンコツ輸送護衛達の尻拭いだろ?」
パパが熱心に私の毛繕いをしながら殿下の問いかけに答える。昼寝の間に寝癖がついてたみたいだ。
「まったく、不真面目な」
「じゃあ聞くが国宝とシロの毛並み、どっちが大事だ?」
「シロの毛並みだな」
「だろ」
「だな」
……国宝じゃない?
「第一、俺はシロを養うために働いてんだから、娘よりも大事な仕事なんて存在しねぇよ。俺は有休を消化しきる男だ」
「パパかっこいい」
「かっこいいか?」
エルヴィスのツッコミはスルー。
パパに寝癖が直った頭を撫でてもらう。
「むふ~」
「シロご機嫌だなぁ~。パパも嬉しいぞ」
むぎゅ~っとパパに抱き締められる。
あったかい。
「……」
「ガウッ!」
「何だワンコ共。大人しく待てができないのか」
クロとエンペラーが並んでこちらをジッと見詰めている。
「……仕方ないな。ほらシロ、犬っころ共と遊んでやってこい。パパは殿下のお話を聞いてあげないといけないから」
「あい」
私はパパの膝からちょこんと床に降ろされた。すると、瞬く間に二匹が飛び付いてくる。
「しろ……」
「ガウッ」
「うおっ」
エンペラーにペロペロと頬を舐められる。……クロは一応人間だからだめだよ。顔近付けてこないで。
「……」
悲しそうな顔してもだめっ!
暫く見詰め合っていると、諦めたのかクロは私から目を逸らし、どこからか絵本を取り出した。
ずいっと私の眼前に絵本が差し出される。
「クロが読んでくれるの?」
「……ん」
クロはコクリと頷くと、胡座をかいて私をその上に乗せた。そしてさらに私の膝の上に中型犬サイズになったエンペラーが寝そべる。もふり。
クロが私達に見えるように絵本の表紙をめくった。
「ええと………ムカシムカシアルトコロニ―――」
「ごめんクロ全然話が入ってこない」
棒読みにも程があるよ。
「……がんばる」
「うん、がんばれ」
「……『昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。』」
「ふむふむ」
私は頷きながらクロの声に耳を傾ける。
「『おじいさんは山へ狩りに、』」
「おじーさんあぐれっしぶぅ」
「『おばあさんは川へ衣服に付着した血痕を洗い流しに行きました。』」
「濃厚な事件の香りしかしない」
何の血なんだろうね。
「『おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流からどんぶらこ~どんぶらこ~、と食肉桃に捕食されそうになっている鶴が流れてきました。』」
「食肉桃とは」
「……たぶん、この話の中でのももの変異種」
「なるほど……」
実際にはいないのか。よかった。
「『鶴を助ければ後で美女になって恩返しに来るのは定番なので、おばあさんは鶴を助けてあげました。』」
「まだその定番を知らない子ども向けの絵本でそういうこと言っちゃう?」
「『次の日、おばあさんとおじいさんが桃を食べていると、誰かが二人の家に訪ねて来ます。おばあさんの企み通り、それは美しい娘に化けた鶴でした。』」
「ほうほう」
「『ある部屋に女が入ると、突然女は叫び始めた。その部屋には、おじいさんが前日に狩りで捕ってきた鶴達が保存されていました。』」
「ホラー!」
絵面を想像したらただの恐怖映像だよ。
「『驚いた女は自分も殺られる!と即座に鶴の姿に戻り、恩返しそっちのけで飛び去って行きました。』」
そらそーだ。
「『そのことに怒ったおばあさんは女に化けた鶴が盗みをしていったと嘘を吐き、警察に通報しました。警察が痕跡を見つけるために家宅捜索をした結果、おじいさんやおばあさんの様々な罪が明らかとなり、二人は逮捕されてしまいました。』……おしまい」
……後味わるっ!
教訓になってる気はしないでもないけど子どもに聞かせるもんじゃない。
「……しろ、おもしろかった?」
クロの瞳が褒めて褒めてと暗にアピールしている。
正直闇を感じたなんて言えない。どこで買ったのこんな絵本……。
「うん、おもしろかったよ。ありがとうクロ」
「……ん」
読み聞かせをやり遂げたからなのか、クロもそこはかとなく嬉しそうだ。ならまあいいや。
「じゃあ、つぎのはなし……」
「まだあるんだ」
「クロがまともに読み聞かせしてるだと!?」
「いやあれ内容がまともじゃないだろ」
シロ達から少し離れた所でこんな会話を交わす兄弟がいた。
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