天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

文字の大きさ
26 / 104
こぼれ話

絵本ってこんなにシビアだったんだ

しおりを挟む


 殿下曰く、輸送中の国宝が盗賊に奪われてしまったらしい。だが、そんな事を公にするわけにはいかないので特殊部隊に秘密裏に取り返して来て欲しいということだ。


「……ボクの説明聞いてるか?」
「ああ、聞いてる聞いてる。ポンコツ輸送護衛達の尻拭いだろ?」

 パパが熱心に私の毛繕いをしながら殿下の問いかけに答える。昼寝の間に寝癖がついてたみたいだ。

「まったく、不真面目な」
「じゃあ聞くが国宝とシロの毛並み、どっちが大事だ?」
「シロの毛並みだな」
「だろ」
「だな」

 ……国宝じゃない?

「第一、俺はシロを養うために働いてんだから、娘よりも大事な仕事なんて存在しねぇよ。俺は有休を消化しきる男だ」
「パパかっこいい」
「かっこいいか?」

 エルヴィスのツッコミはスルー。
 パパに寝癖が直った頭を撫でてもらう。

「むふ~」
「シロご機嫌だなぁ~。パパも嬉しいぞ」

 むぎゅ~っとパパに抱き締められる。
 あったかい。


「……」
「ガウッ!」
「何だワンコ共。大人しく待てができないのか」

 クロとエンペラーが並んでこちらをジッと見詰めている。

「……仕方ないな。ほらシロ、犬っころ共と遊んでやってこい。パパは殿下のお話を聞いてあげないといけないから」
「あい」

 私はパパの膝からちょこんと床に降ろされた。すると、瞬く間に二匹が飛び付いてくる。

「しろ……」
「ガウッ」
「うおっ」

 エンペラーにペロペロと頬を舐められる。……クロは一応人間だからだめだよ。顔近付けてこないで。

「……」

 悲しそうな顔してもだめっ!

 暫く見詰め合っていると、諦めたのかクロは私から目を逸らし、どこからか絵本を取り出した。
 ずいっと私の眼前に絵本が差し出される。

「クロが読んでくれるの?」
「……ん」

 クロはコクリと頷くと、胡座をかいて私をその上に乗せた。そしてさらに私の膝の上に中型犬サイズになったエンペラーが寝そべる。もふり。
 クロが私達に見えるように絵本の表紙をめくった。

「ええと………ムカシムカシアルトコロニ―――」
「ごめんクロ全然話が入ってこない」

 棒読みにも程があるよ。

「……がんばる」
「うん、がんばれ」
「……『昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。』」
「ふむふむ」

 私は頷きながらクロの声に耳を傾ける。

「『おじいさんは山へ狩りに、』」
「おじーさんあぐれっしぶぅ」
「『おばあさんは川へ衣服に付着した血痕を洗い流しに行きました。』」
「濃厚な事件の香りしかしない」

 何の血なんだろうね。

「『おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流からどんぶらこ~どんぶらこ~、と食肉桃に捕食されそうになっている鶴が流れてきました。』」
「食肉桃とは」
「……たぶん、この話の中でのももの変異種」
「なるほど……」

 実際にはいないのか。よかった。

「『鶴を助ければ後で美女になって恩返しに来るのは定番なので、おばあさんは鶴を助けてあげました。』」
「まだその定番を知らない子ども向けの絵本でそういうこと言っちゃう?」
「『次の日、おばあさんとおじいさんが桃を食べていると、誰かが二人の家に訪ねて来ます。おばあさんの企み通り、それは美しい娘に化けた鶴でした。』」
「ほうほう」
「『ある部屋に女が入ると、突然女は叫び始めた。その部屋には、おじいさんが前日に狩りで捕ってきた鶴達が保存されていました。』」
「ホラー!」

 絵面を想像したらただの恐怖映像だよ。

「『驚いた女は自分も殺られる!と即座に鶴の姿に戻り、恩返しそっちのけで飛び去って行きました。』」

 そらそーだ。

「『そのことに怒ったおばあさんは女に化けた鶴が盗みをしていったと嘘を吐き、警察に通報しました。警察が痕跡を見つけるために家宅捜索をした結果、おじいさんやおばあさんの様々な罪が明らかとなり、二人は逮捕されてしまいました。』……おしまい」

 ……後味わるっ!
 教訓になってる気はしないでもないけど子どもに聞かせるもんじゃない。

「……しろ、おもしろかった?」

 クロの瞳が褒めて褒めてと暗にアピールしている。
 正直闇を感じたなんて言えない。どこで買ったのこんな絵本……。

「うん、おもしろかったよ。ありがとうクロ」
「……ん」

 読み聞かせをやり遂げたからなのか、クロもそこはかとなく嬉しそうだ。ならまあいいや。

「じゃあ、つぎのはなし……」
「まだあるんだ」








「クロがまともに読み聞かせしてるだと!?」


「いやあれ内容がまともじゃないだろ」


 シロ達から少し離れた所でこんな会話を交わす兄弟がいた。




しおりを挟む
感想 356

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。