16 / 39
16.
しおりを挟む
「リエラ」
「あ! お父様!」
嬉しそうなシェイドのエスコートを受けた庭園の出口の先で、不機嫌そうな父と出会した。
殿下とのお話は終わったのだろう。しかし表情を見るに、思ったより良い話合いが出来なかったのだろうかと思う。
珍しいなとリエラは首を傾げた。
そういえばあれから随分時間が経っている。
(お兄様はどうしただろう? ……まあいいか)
このまま父と一緒に帰れそうだなと笑顔を向けると、何故か父の顔は複雑そうで、リエラは慌ててシェイド様を紹介した。
「あの、お父様。こちらはシェイド・ウォーカー子爵令息様です。庭園を案内して頂いておりましたの」
「……知っとるよ」
溜息混じりに口にするその返事に、シェイドの纏う空気もどことなく固い。
そう言えば自分には男性の友人もいなかったから、こういう時はどうしたらいいのか分からない。
「あの、アロット伯爵……」
躊躇いがちに声を掛けるシェイドに、父がじろりと視線を向ける。それから面白くなさそうに顔を背けた。
「私は娘の意思を尊重する」
「……!」
それだけ唸るように告げたと思いきや、アロット伯爵はシェイドからリエラを引ったくった。
「だが婚約者でもない男に娘を預ける気はない。娘と過ごす時間が欲しければ、正式な手順を踏んでから出直して来い」
「お、お父様?」
婚約?
(それは何というか……嬉しいような、気が早いような……)
困惑するリエラを他所に、シェイドは感極まったように一瞬震え、深く頭を下げた。
「はい、後日改めてお伺い致します。その時はどうぞ、よろしくお願い致します」
「!」
「ふん!」
(ちょっとお父様!)
頭を下げたままのシェイドに父は鼻を鳴らし、リエラの手を取りその場を去る。
頭を下げたままのシェイドを振り返りながら、リエラはムッと父を見上げた。
確かに供もいない状況でシェイドと二人きりになってしまったけれど……シェイドはクライド殿下の側近だし、父も兄もいなくなってしまったからじゃないか。
「そう睨まないでくれ」
唇を尖らせていると、娘の不満を横顔で受け止めた父が拗ねた口調で口を開いた。
「ですがお父様、シェイド様は何も悪くありません」
その言葉にぶすりとした顔を向け、父ははぁと溜息を吐いた。
「仕方ないだろう。いくら幸せを願ったところで……これは娘を持つ父親の正当な反応だ」
「……もう」
過保護なお父様。
内心で溜息を吐きつつも、リエラは嬉しくなる。
(でもシェイド様はまた会いに来て下さると仰られた。……私との未来を見据えた話をしに……)
『──ついてくんな!』
十歳の頃。デビュー未満の貴族の子女のお茶会で。
それはリエラにとっては初めての社交デビューの日。兄レイモンドに邪険に突き放されて、リエラは途方に暮れていた。
見渡しても知ってる顔はどこにもない。
親たちは自身の社交に精を出していた。
唯一頼りにしていた兄は、男同士の集まりに妹を連れて歩くのを恥ずかがり置いて行ってしまった。両親に妹の面倒を見るようにと言いつけられていた筈なのに。
会場にぽつんと一人取り残されて、リエラは居た堪れずに会場の端に寄った。
する事も無く一人、楽しそうな他の子たちを眺めていると不安が込み上げてくる。ここに来るまでは楽しみにしていたのに。着るのが嬉しかった筈のドレスの裾をきゅっと握りしめた。
『どうしたの?』
静かな声音にハッと息を詰める。
そっと視線を向けば気遣わしそうな眼差しとぶつかって、リエラは身じろぎした。
『あ、あの……私……』
『気分が悪いの?』
ふるふると首を横に振れば、目の前の子は優しく笑った。
『そうなの? ならそんな端っこにいないで一緒に話そう。美味しいお菓子もあるよ』
そう言って手を引いて、その子は端で蹲っていたリエラをあっさり連れ出してくれた。
『美味しい?』
『お茶もあるよ』
『これもどうぞ』
リエラはこくこくと頷いて、ただ食べるだけだったけれど。
楽しそうに笑うその子の笑顔にホッとして、嬉しくて。兄に置いて行かれた時は耐えられた涙が込み上げてきそうだった。
『もう大丈夫かな?』
お茶を飲んで一息ついて。そう問われこくりと頷けば、その子はふわりと笑顔を見せた。陽の光を受けて輝くその様に、リエラは思わず見惚れてしまった。
『あら、リエラ』
『ここにいたのね』
そしてちょうどリエラの友達が見つかって、同時にその子も他の女の子たちに囲まれた。
『あ……』
人垣に飲まれ背中すら見えなくなっていく。
優しい眼差しの、笑顔がキラキラと眩しい人。
男の子だ、と後から友人に教えて貰うまで、性別に気付かないくらい愛らしい顔立ちをしていた。服装にも気が回らなかったくらい、夢中になっていた。
(でも……)
兄やその友達のような男の子は苦手だけれど。
あの子から仲良くできるかな。
あの子と仲良くしたい。
その頃のリエラにはまだ異性を意識するような自覚はなくて。純粋に、仲良くなれる友人になりたかった。
(それなのに、いつの間にか……)
赤くなる頬を抑え、リエラはにっこりと笑った。
父に連れられながら、こちらを見送るシェイドを振り返る。
その時は──シェイドが来る時は言わなくてはならない。
私もずっと、目を逸らせないくらいあなたを好きだったのだ、と。
◇
半年後、王家が所有する聖堂の一つで、身内だけのささやかな婚約式が開かれた。
そこに第三王子であるクライドと、その婚約者であるアリサ・ミレイ侯爵令嬢が列席してあったとあり、彼らの婚約は注目されるものとなった。
アリサはびしりと姿勢が良く、初対面でもスパスパものを言う令嬢だが、不思議とリエラに向けられる眼差しは優しいものだった。
「リエラ、とっても綺麗だ」
幸せそうに顔を蕩かせて、シェイドはリエラの腰を引き寄せた。
「シェイド様も、とっても素敵です」
嬉しそうに笑いかけるシェイドの身なりからは野暮ったさが抜け、輝くような容姿は聖堂で際立っていた。
伊達眼鏡のシェイドに慣れてしまったリエラには思うところがあったのだが、シェイドは譲らなかった。
『誰にもつけいる隙を与えたくないんだ。もし完璧無比な相手が現れたとしても、絶対に君に選んで貰えるように努力するけれど』
嬉しくて恥ずかしくて、自分もシェイドの隣に立つに相応しい人になりたいと、苦手だった社交を頑張ろうと意気込んだのだが、程々でいいと複雑な顔をされた。
「社交に出たら、君は注目されてしまうだろう? それは嫌なんだ……」
「……シェイド様ったら」
自分たちは何て似た物同士なんだろうと笑ってしまう。
一番好きだから、一番不安で……
「あなたにの隣に、堂々と立ちたいのです。私もあなたを愛しているから」
そうして真っ赤になったシェイドの頬に唇を寄せた。
背中にシェイドの腕が周り、ギュっと抱きしめられた。
「もうこのまま永遠の愛を誓ってしまおうか……」
縋るような声に笑い、リエラもシェイドの腰に腕を回す。
「駄目です。半年後に素敵な式を挙げるのを楽しみにしているんですから」
「はあ。そうだな……今から既にお義父上が不機嫌そうだ……」
列席者の中にシェイドの両親はなく、彼の弟が婚約者と共に参列していた。
リエラは婚約を結ぶ際に一度だけ彼の両親に会った。
息子をダシに楽をする事だけを考えるような人たちで、シェイドが会う必要はないと何度も拒んだ理由が理解できた。
それと同時に彼の幼少期のやるせなさを改めて垣間見てしまい、その日リエラはシェイドを長い時間抱きしめた。
『あなたは凄いわ。自分の信念を曲げず、大事な一部を切り捨てた。そんな事、誰でもできる事じゃない』
親に逆らえない人なんて沢山いるし、ただ楽な道を選ぶ人だっている。
ウォーカー子爵家で、子供だったシェイドは自分を守るのがやっとだったのではないかと思うと、リエラは胸が詰まって苦しかった。
家族になるからと会いに行ったが、その次はもう無かった。そしてシェイドは両親の列席を拒んだ。事実上の絶縁宣言。
やがて第三王子の側近であるシェイドとの仲違いにより、彼らは王都にはいられなくなり、領地へ逃げるように去って行った。
せめてもの救いはシェイドと弟の関係が良好な事だ。次期ウォーカー子爵領は、きっと安定基盤のもと栄えていける事だろう。
きっと大丈夫。
だから……
「早く君と結婚したい」
「はい、私もです」
両手を繋ぎ、神父の向かいに二人並び立ち。
お互いの気持ちに喜び照れながら、婚約式の宣誓を告げた。
※ おしまい
お付き合い頂きありがとうございました^_^
※ 書くのを忘れていた小ネタ
アリサは普段眼鏡を掛けているのですが、夜会のような公の場では外すようにしています。
エスコート必須な状況がクライドはたまらんらしいです。
…………最終話に書く話だったかなとは思いましたが……(^^;
「あ! お父様!」
嬉しそうなシェイドのエスコートを受けた庭園の出口の先で、不機嫌そうな父と出会した。
殿下とのお話は終わったのだろう。しかし表情を見るに、思ったより良い話合いが出来なかったのだろうかと思う。
珍しいなとリエラは首を傾げた。
そういえばあれから随分時間が経っている。
(お兄様はどうしただろう? ……まあいいか)
このまま父と一緒に帰れそうだなと笑顔を向けると、何故か父の顔は複雑そうで、リエラは慌ててシェイド様を紹介した。
「あの、お父様。こちらはシェイド・ウォーカー子爵令息様です。庭園を案内して頂いておりましたの」
「……知っとるよ」
溜息混じりに口にするその返事に、シェイドの纏う空気もどことなく固い。
そう言えば自分には男性の友人もいなかったから、こういう時はどうしたらいいのか分からない。
「あの、アロット伯爵……」
躊躇いがちに声を掛けるシェイドに、父がじろりと視線を向ける。それから面白くなさそうに顔を背けた。
「私は娘の意思を尊重する」
「……!」
それだけ唸るように告げたと思いきや、アロット伯爵はシェイドからリエラを引ったくった。
「だが婚約者でもない男に娘を預ける気はない。娘と過ごす時間が欲しければ、正式な手順を踏んでから出直して来い」
「お、お父様?」
婚約?
(それは何というか……嬉しいような、気が早いような……)
困惑するリエラを他所に、シェイドは感極まったように一瞬震え、深く頭を下げた。
「はい、後日改めてお伺い致します。その時はどうぞ、よろしくお願い致します」
「!」
「ふん!」
(ちょっとお父様!)
頭を下げたままのシェイドに父は鼻を鳴らし、リエラの手を取りその場を去る。
頭を下げたままのシェイドを振り返りながら、リエラはムッと父を見上げた。
確かに供もいない状況でシェイドと二人きりになってしまったけれど……シェイドはクライド殿下の側近だし、父も兄もいなくなってしまったからじゃないか。
「そう睨まないでくれ」
唇を尖らせていると、娘の不満を横顔で受け止めた父が拗ねた口調で口を開いた。
「ですがお父様、シェイド様は何も悪くありません」
その言葉にぶすりとした顔を向け、父ははぁと溜息を吐いた。
「仕方ないだろう。いくら幸せを願ったところで……これは娘を持つ父親の正当な反応だ」
「……もう」
過保護なお父様。
内心で溜息を吐きつつも、リエラは嬉しくなる。
(でもシェイド様はまた会いに来て下さると仰られた。……私との未来を見据えた話をしに……)
『──ついてくんな!』
十歳の頃。デビュー未満の貴族の子女のお茶会で。
それはリエラにとっては初めての社交デビューの日。兄レイモンドに邪険に突き放されて、リエラは途方に暮れていた。
見渡しても知ってる顔はどこにもない。
親たちは自身の社交に精を出していた。
唯一頼りにしていた兄は、男同士の集まりに妹を連れて歩くのを恥ずかがり置いて行ってしまった。両親に妹の面倒を見るようにと言いつけられていた筈なのに。
会場にぽつんと一人取り残されて、リエラは居た堪れずに会場の端に寄った。
する事も無く一人、楽しそうな他の子たちを眺めていると不安が込み上げてくる。ここに来るまでは楽しみにしていたのに。着るのが嬉しかった筈のドレスの裾をきゅっと握りしめた。
『どうしたの?』
静かな声音にハッと息を詰める。
そっと視線を向けば気遣わしそうな眼差しとぶつかって、リエラは身じろぎした。
『あ、あの……私……』
『気分が悪いの?』
ふるふると首を横に振れば、目の前の子は優しく笑った。
『そうなの? ならそんな端っこにいないで一緒に話そう。美味しいお菓子もあるよ』
そう言って手を引いて、その子は端で蹲っていたリエラをあっさり連れ出してくれた。
『美味しい?』
『お茶もあるよ』
『これもどうぞ』
リエラはこくこくと頷いて、ただ食べるだけだったけれど。
楽しそうに笑うその子の笑顔にホッとして、嬉しくて。兄に置いて行かれた時は耐えられた涙が込み上げてきそうだった。
『もう大丈夫かな?』
お茶を飲んで一息ついて。そう問われこくりと頷けば、その子はふわりと笑顔を見せた。陽の光を受けて輝くその様に、リエラは思わず見惚れてしまった。
『あら、リエラ』
『ここにいたのね』
そしてちょうどリエラの友達が見つかって、同時にその子も他の女の子たちに囲まれた。
『あ……』
人垣に飲まれ背中すら見えなくなっていく。
優しい眼差しの、笑顔がキラキラと眩しい人。
男の子だ、と後から友人に教えて貰うまで、性別に気付かないくらい愛らしい顔立ちをしていた。服装にも気が回らなかったくらい、夢中になっていた。
(でも……)
兄やその友達のような男の子は苦手だけれど。
あの子から仲良くできるかな。
あの子と仲良くしたい。
その頃のリエラにはまだ異性を意識するような自覚はなくて。純粋に、仲良くなれる友人になりたかった。
(それなのに、いつの間にか……)
赤くなる頬を抑え、リエラはにっこりと笑った。
父に連れられながら、こちらを見送るシェイドを振り返る。
その時は──シェイドが来る時は言わなくてはならない。
私もずっと、目を逸らせないくらいあなたを好きだったのだ、と。
◇
半年後、王家が所有する聖堂の一つで、身内だけのささやかな婚約式が開かれた。
そこに第三王子であるクライドと、その婚約者であるアリサ・ミレイ侯爵令嬢が列席してあったとあり、彼らの婚約は注目されるものとなった。
アリサはびしりと姿勢が良く、初対面でもスパスパものを言う令嬢だが、不思議とリエラに向けられる眼差しは優しいものだった。
「リエラ、とっても綺麗だ」
幸せそうに顔を蕩かせて、シェイドはリエラの腰を引き寄せた。
「シェイド様も、とっても素敵です」
嬉しそうに笑いかけるシェイドの身なりからは野暮ったさが抜け、輝くような容姿は聖堂で際立っていた。
伊達眼鏡のシェイドに慣れてしまったリエラには思うところがあったのだが、シェイドは譲らなかった。
『誰にもつけいる隙を与えたくないんだ。もし完璧無比な相手が現れたとしても、絶対に君に選んで貰えるように努力するけれど』
嬉しくて恥ずかしくて、自分もシェイドの隣に立つに相応しい人になりたいと、苦手だった社交を頑張ろうと意気込んだのだが、程々でいいと複雑な顔をされた。
「社交に出たら、君は注目されてしまうだろう? それは嫌なんだ……」
「……シェイド様ったら」
自分たちは何て似た物同士なんだろうと笑ってしまう。
一番好きだから、一番不安で……
「あなたにの隣に、堂々と立ちたいのです。私もあなたを愛しているから」
そうして真っ赤になったシェイドの頬に唇を寄せた。
背中にシェイドの腕が周り、ギュっと抱きしめられた。
「もうこのまま永遠の愛を誓ってしまおうか……」
縋るような声に笑い、リエラもシェイドの腰に腕を回す。
「駄目です。半年後に素敵な式を挙げるのを楽しみにしているんですから」
「はあ。そうだな……今から既にお義父上が不機嫌そうだ……」
列席者の中にシェイドの両親はなく、彼の弟が婚約者と共に参列していた。
リエラは婚約を結ぶ際に一度だけ彼の両親に会った。
息子をダシに楽をする事だけを考えるような人たちで、シェイドが会う必要はないと何度も拒んだ理由が理解できた。
それと同時に彼の幼少期のやるせなさを改めて垣間見てしまい、その日リエラはシェイドを長い時間抱きしめた。
『あなたは凄いわ。自分の信念を曲げず、大事な一部を切り捨てた。そんな事、誰でもできる事じゃない』
親に逆らえない人なんて沢山いるし、ただ楽な道を選ぶ人だっている。
ウォーカー子爵家で、子供だったシェイドは自分を守るのがやっとだったのではないかと思うと、リエラは胸が詰まって苦しかった。
家族になるからと会いに行ったが、その次はもう無かった。そしてシェイドは両親の列席を拒んだ。事実上の絶縁宣言。
やがて第三王子の側近であるシェイドとの仲違いにより、彼らは王都にはいられなくなり、領地へ逃げるように去って行った。
せめてもの救いはシェイドと弟の関係が良好な事だ。次期ウォーカー子爵領は、きっと安定基盤のもと栄えていける事だろう。
きっと大丈夫。
だから……
「早く君と結婚したい」
「はい、私もです」
両手を繋ぎ、神父の向かいに二人並び立ち。
お互いの気持ちに喜び照れながら、婚約式の宣誓を告げた。
※ おしまい
お付き合い頂きありがとうございました^_^
※ 書くのを忘れていた小ネタ
アリサは普段眼鏡を掛けているのですが、夜会のような公の場では外すようにしています。
エスコート必須な状況がクライドはたまらんらしいです。
…………最終話に書く話だったかなとは思いましたが……(^^;
221
お気に入りに追加
2,015
あなたにおすすめの小説

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~
参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。
二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。
アイシアはじっとランダル様を見つめる。
「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」
「何だ?」
「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」
「は?」
「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」
婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。
傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。
「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」
初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。
(あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?)
★小説家になろう様にも投稿しました★

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる