謎の臭いがする部屋

風上すちこ

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3話/臭いの推理

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椎葉しいばさん、いますか?前に担当してもらった者なんですけど。」

「お名前伺ってもよろしいですか?」

二瀬にせ香織です。一ヶ月前に、〇〇アパートの紹介をしてもらったんですけど…」

「少々お待ちください」

不動産屋についた私たちは、担当者の椎葉さんを呼んでもらう。椎葉さんは感じの良いおばちゃんだったので、今回も親身になってくれるだろう。

「はいはい~。二瀬さん、何かありました~?あら、お友達ですか?」

「はい、香織の友人の八重樫やえがし楓美です。付き添いで来ました。」

楓美はお辞儀をし、自己紹介をする。

「八重樫さんね。それで、どうしたんですか?」

「はい…。あの、入居してから気づいたんですけど、部屋の臭いが気になりまして…」

「臭い?」

椎葉さんの表情が険しくなる。

「肉が焼けたような臭いがするんです。それで、楓美にも嗅いでもらったら、人が焼かれたときに出る臭いなんじゃないかって。」

「あはははは!」

「え…?」

椎葉さんはこれでもかと大笑いする。さっきの表情とは打って変わり、おかしそうに笑う。

「人が焼かれた臭いぃ~?そんなのする訳ないじゃないですかぁ。」

「で、でも…!」

臭いについてあっさりと否定されるが、実害で出ている以上、食い下がれない。

「こちらも新しい入居者さんが来る前に消臭するんですよ?それに、一緒に内見にも行ったじゃないですか。」

「そうですけど…」

消臭されているのか…。ではどうして臭いが残るんだろう…?

「じゃあ前住居者について、何か教えてくれませんか?本当に変な臭いがするんです。引き下がれません。」

「前住居者については、守秘義務なのでお教えできかねます!」

内見のときは優しかった椎葉さんに強めに言われ怯む。
それに、守秘義務か…やはり前住居者については教えてくれない。

「臭いって、ニ瀬さんの入居後の事でしょう?焼肉でもして、臭いが残ったんじゃないですか?大学生なんて、勉強もせずに毎日パーティー三昧なんでしょう」

迷惑そうな椎葉さんの顔に、引き下がりそうになる。
嫌味な言い方に、舐められているような、そんな気配を感じる。

「あの部屋、実は事故物件なんじゃないんですか?」

「はぁ??」

負けじと、楓美が椎葉さんに言い返す。

「誰かが自殺したり、殺されたりした事故物件なら、不動産屋には話すがありますよね!?」

「ですから、事故物件だとか、人が燃やされただとか、そういった事実はございません!!」

「そんな…」

椎葉さんが怒鳴る。嘘をついているような様子でもなかった。

「はぁ、また何かあったら来てください。」

「いや、だから…「お引き取り願います。では。」

椎葉さんはそう言って奥に帰っていってしまった。取り付く島もないとは、こういうことだ。

「あんな冷たい人じゃなかったのに…」

「そのときは契約取るために必死だったのよ。よくある事だから、元気だしてよ?…前住居者はともかく、ちょっとは臭いについてちょっと調べてくれてもよかったのにね。」

「はぁ…もう帰ろうか」

まさかの収穫なし。スタート地点に戻ってしまった。

もう用はないと、不動産屋から出ようとしたとき。
「あのぉ…聞こえちゃったんですけど、〇〇アパートのことですか?」と声をかけられた。

隣で違う従業員と話していた女性だ。
新居探し中なのだろうか。二重で肌が白く、笑顔の可愛らしい人だ。

「はい、〇〇アパートのことで…」

「うそ、私この前までそのアパート住んでましたよ!」

「そうなんですか!?」

思ってもみなかった偶然に、声が大きくなってしまう。
これ幸いと、楓美が質問する。

「あの、香織の部屋…102号室について、何か知りませんか?」

「102号室がどうかしたの?」

アパートに住んでいた人なら、前住居者についても何か知っているかもしれない。
本当に、あの部屋では何もなかったのか。
真相を知るまで、あの臭いのことは納得できない気がする。

「ええと…」

話せば長くなりそうだったので、不動産屋から移動し、近くの喫茶店に行くことにした。
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