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第18話
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「やっぱ、体育祭と文化祭を並行して準備するって、けっこうきついな…」
清水さんに頼まれた文化祭実行委員用の資料を職員室から運んでいる最中、俺は疲労の溜まった体に息ついた。誰もいないのを確認して、階段を上る足を止めた。
階段の手すりに寄りかかり、小休憩。
「ふぅ」
やはり、薬の副作用なのか、最近、疲れが抜け切れない。
あのヤブ医者め。
また、薬を増やしやがって…。
わざわざ、検査で通院してやってるんだから、もっとましな薬処方しろよな。
学園祭が3日後に迫った今、午前中が体育祭の練習、午後が文化祭の準備とタイトなスケジュール。
文化祭は裏方で、当日は基本仕事なし。次の日の体育祭では二人三脚しか出場しないとはいえ、二ヶ月前まで病院のベッドに監禁されていた身。健常人と同じ事はできない事くらい把握している。
自分の限界を知っているからこそ、惨めになる。
「はは。俺、なんでこんな事してるんだろ…」
薄ら笑いが漏れた。
ふとした時に自分が奈落の底に投げ落とされる感覚に襲われる。
自分の中の黒い感情がふつふつと俺の体を蝕んでいく感じ。
この感じ、嫌だな。
俺はジワリとにじむ脂汗に思わず胸を押さえた。
■■■■■
彼女が昔の俺を好きだったと知ってからも、俺達の関係性は何も変わっていない。
当たり前だ。
彼女の感情を一方通行に知ってしまっただけだから。
だから、俺は…。
「あと3日後ですね。文化祭」
「そうだな」
「当日は上級生やPTAの屋台が出るので、ちょっとしたお祭りで楽しみですよね」
ふふ。
「屋台か…。清水さんは祭りで絶対に必要な出店、なんだと思う?」
俺は聞いた。
彼女は昔からお祭りが好きだ。
カウントダウンライブとか夏フェスとか、花火大会の会場で出演依頼があったものなら率先して手を挙げていたイメージ。で、変装して一般人に混ざって屋台を練り歩いたっけ。
毎回、俺まで道連れにしてさ。
一緒の番組でロケした時も、高級なレストランよりお祭りの屋台が大好きだとか言ってたっけ。
その時、彼女が絶対にお祭りに外せない屋台と断言したのが…
「それは、もちろん、桜餅!ですね」
嬉しそうにどや顔をしていた。
そっか。
桜餅。
これは変わってないんだな。
「一時期、フルーツ飴たるものも流行りましたが、やはり、屋台の王道と言えば、桜餅です。」
いや、桜餅の屋台が王道だとは誰も思ってないと思うぞ....。
意気揚々とプレゼンしてくれる彼女が少し懐かしくて、笑ってしまった。
それを彼女は勘違いして恥じた。
「あ、すみません。取り乱しましたね。実は、私、桜餅に目がなくて…桜の葉を使うお菓子とか大好きなんですよ」
「なるほど…」
知ってる。と言いたい言葉を飲み込み、彼女の話に耳を傾ける。
俺達、2年生文化祭実行委員用に設けられた多目的室。
そこで俺達はここ毎日、文化祭のための雑務をこなす。
彼女はクラスの委員長でもあるから引っ切り無しに仕事がやってくる。けど、彼女はそれも楽しいと言っていた。
黙々と業務をこなす。
そして、たまに、こうして雑談をする。
それは、他愛もない話であり、彼女の愛想笑いしか見れなかったが、今の俺に取って居心地は悪くなかった。
「文化祭、成功するといいですね」
「だな」
「今頃、私達のクラスは舞台で演技練習しているのでしょうね」
「そうだな。流石に本番は観ないとな」
「もちろんです。その時は一緒に客席座りましょうね」
「ああ」
有名アイドルが客席に座ると他の人が騒がしくなるんじゃないのか?と一瞬思ったが、まぁ、今は関係ないと相づちだけをする。
俺達は裏方中の裏方だから、クラスメイトが舞台の練習をしていても何も関わらない。
「磯崎さんの脚本、すっごく面白かったですから、きっと上手く行きますよ」
ふふ。
彼女も舞台に立ちたいだろうに、彼女は自分の事のように嬉しそうに頬を緩ませた。
■■■■■
「それでは、只今から、学園祭を開催致します!皆様、楽しんで行きましょう!!!」
最近流行りのロック調な吹奏楽部の演奏で、学園祭の幕が明けた。
「まず初めに、本学の学園祭について諸注意を....文化祭実行委員長が致します」
今は、全校生徒を集めた体育館で文化祭実行委員や、生徒会執行部による開会式が行われている。
「こんにちは。皆さん。私達の学園では気持ちよく、楽しい文化祭にする為に、いくつか注意事項が設けられております....。
まず、初めに、在校生以外の方の撮影機器を用いた撮影は禁じられております。外部の方で事前に許可したカメラマンさんについては、腕に緑のワッペンがついております。一般観覧の皆様、くれぐれも、ご自身の端末等で撮影なされないようにお願い致します.......」
そんな説明をぼーっと聞きながら、今日一日、俺は、どう過ごそうか....、文化祭を一緒に楽しむ友達などいないし....かと言って、独りではっちゃけるほどキチガイでも無いし....暇だな.....と悩んでいた。
清水さんに頼まれた文化祭実行委員用の資料を職員室から運んでいる最中、俺は疲労の溜まった体に息ついた。誰もいないのを確認して、階段を上る足を止めた。
階段の手すりに寄りかかり、小休憩。
「ふぅ」
やはり、薬の副作用なのか、最近、疲れが抜け切れない。
あのヤブ医者め。
また、薬を増やしやがって…。
わざわざ、検査で通院してやってるんだから、もっとましな薬処方しろよな。
学園祭が3日後に迫った今、午前中が体育祭の練習、午後が文化祭の準備とタイトなスケジュール。
文化祭は裏方で、当日は基本仕事なし。次の日の体育祭では二人三脚しか出場しないとはいえ、二ヶ月前まで病院のベッドに監禁されていた身。健常人と同じ事はできない事くらい把握している。
自分の限界を知っているからこそ、惨めになる。
「はは。俺、なんでこんな事してるんだろ…」
薄ら笑いが漏れた。
ふとした時に自分が奈落の底に投げ落とされる感覚に襲われる。
自分の中の黒い感情がふつふつと俺の体を蝕んでいく感じ。
この感じ、嫌だな。
俺はジワリとにじむ脂汗に思わず胸を押さえた。
■■■■■
彼女が昔の俺を好きだったと知ってからも、俺達の関係性は何も変わっていない。
当たり前だ。
彼女の感情を一方通行に知ってしまっただけだから。
だから、俺は…。
「あと3日後ですね。文化祭」
「そうだな」
「当日は上級生やPTAの屋台が出るので、ちょっとしたお祭りで楽しみですよね」
ふふ。
「屋台か…。清水さんは祭りで絶対に必要な出店、なんだと思う?」
俺は聞いた。
彼女は昔からお祭りが好きだ。
カウントダウンライブとか夏フェスとか、花火大会の会場で出演依頼があったものなら率先して手を挙げていたイメージ。で、変装して一般人に混ざって屋台を練り歩いたっけ。
毎回、俺まで道連れにしてさ。
一緒の番組でロケした時も、高級なレストランよりお祭りの屋台が大好きだとか言ってたっけ。
その時、彼女が絶対にお祭りに外せない屋台と断言したのが…
「それは、もちろん、桜餅!ですね」
嬉しそうにどや顔をしていた。
そっか。
桜餅。
これは変わってないんだな。
「一時期、フルーツ飴たるものも流行りましたが、やはり、屋台の王道と言えば、桜餅です。」
いや、桜餅の屋台が王道だとは誰も思ってないと思うぞ....。
意気揚々とプレゼンしてくれる彼女が少し懐かしくて、笑ってしまった。
それを彼女は勘違いして恥じた。
「あ、すみません。取り乱しましたね。実は、私、桜餅に目がなくて…桜の葉を使うお菓子とか大好きなんですよ」
「なるほど…」
知ってる。と言いたい言葉を飲み込み、彼女の話に耳を傾ける。
俺達、2年生文化祭実行委員用に設けられた多目的室。
そこで俺達はここ毎日、文化祭のための雑務をこなす。
彼女はクラスの委員長でもあるから引っ切り無しに仕事がやってくる。けど、彼女はそれも楽しいと言っていた。
黙々と業務をこなす。
そして、たまに、こうして雑談をする。
それは、他愛もない話であり、彼女の愛想笑いしか見れなかったが、今の俺に取って居心地は悪くなかった。
「文化祭、成功するといいですね」
「だな」
「今頃、私達のクラスは舞台で演技練習しているのでしょうね」
「そうだな。流石に本番は観ないとな」
「もちろんです。その時は一緒に客席座りましょうね」
「ああ」
有名アイドルが客席に座ると他の人が騒がしくなるんじゃないのか?と一瞬思ったが、まぁ、今は関係ないと相づちだけをする。
俺達は裏方中の裏方だから、クラスメイトが舞台の練習をしていても何も関わらない。
「磯崎さんの脚本、すっごく面白かったですから、きっと上手く行きますよ」
ふふ。
彼女も舞台に立ちたいだろうに、彼女は自分の事のように嬉しそうに頬を緩ませた。
■■■■■
「それでは、只今から、学園祭を開催致します!皆様、楽しんで行きましょう!!!」
最近流行りのロック調な吹奏楽部の演奏で、学園祭の幕が明けた。
「まず初めに、本学の学園祭について諸注意を....文化祭実行委員長が致します」
今は、全校生徒を集めた体育館で文化祭実行委員や、生徒会執行部による開会式が行われている。
「こんにちは。皆さん。私達の学園では気持ちよく、楽しい文化祭にする為に、いくつか注意事項が設けられております....。
まず、初めに、在校生以外の方の撮影機器を用いた撮影は禁じられております。外部の方で事前に許可したカメラマンさんについては、腕に緑のワッペンがついております。一般観覧の皆様、くれぐれも、ご自身の端末等で撮影なされないようにお願い致します.......」
そんな説明をぼーっと聞きながら、今日一日、俺は、どう過ごそうか....、文化祭を一緒に楽しむ友達などいないし....かと言って、独りではっちゃけるほどキチガイでも無いし....暇だな.....と悩んでいた。
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