病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第17話

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■■■■■
学校を休んで病院に行った次の日。

「竹中君!竹中君!」
「もう!竹中君!大丈夫?!」
ふと、我に返ると机に突っ伏していた俺を磯崎さんが心配そうに覗いていた。
「お、おう」
何故、磯崎さんが俺を呼ぶ?状況をいまいち理解できず困惑したまま、取り合えず体を起こした。
「まーったく、もう」
「もしかして、まだ調子悪い?昨日休んでたし…」
心配そうに覗き込んでくる磯崎さんに俺は拳を叩いて見せる。今日のは強がりとかじゃない。
「や、全然。元気元気」
ただ、病院行ってただけだし。




今日学校へ行くと、クラスメイトには昨日、休んだのは風邪と言う事になっていた。
詳しい事情を話さないで欲しいと学校側に頼んでいるその配慮だと思う。
そのせいで、彼女にいらぬ心配をさせてしまうのは心苦しいが、たびたび家庭の事情で学校を欠席するより、定期的に風邪を引くほうが嘘に自然身がある。
「無理は良くないよ。本当に大丈夫?」

磯崎さんはいつも優しい。けど、今日はいつになく心配してくれている。そんな気がした。
「ただでさえ、今日は暑いんだから。」
「いや、本当に大丈夫だから。」
「....。竹中君がそういうなら....。大丈夫なんだろうけど、無理はしないでね。」
「分かった、分かった」
よく見ると、クラスメイトのほとんどが体操着姿だった。
「今から体育祭各種目の個人練習時間だよ」
「なるほど。それでハチマキか」
じゃ、俺も体操着に着替えてくるわ。
俺はそう言って更衣室へ向かおうと立ち上がる。
「大丈夫?本当に無理してない?」
「ふっ。今日の磯崎さんは心配症だな」
「だって、昨日風邪引いて休んでるもん。病み上がりの体は心配だよぉ」
「大丈夫。ほら、この通り、俺には元気な蓄えが沢山あるから、ちょっとやそっとで倒れないさ」
俺はたるんだ二の腕を見せ、ニッと歯を見せて笑った。
そして、更衣室へ向った。

■■■■■



「ふわぁ。走ったぁ~!!!私達、息ぴったりじゃない?!」
「そうだな。男女ペアとしては割と成立してる方なんじゃないか?」
俺は、周りの練習風景を見ながら言った。
「これも竹中君のお陰だね!」
運動神経良いから頼りになるぅ!
「そうか?」
「やっぱり、昔何かスポーツやってたでしょ!?」
「いーや。これっぽっちもやってない」
「嘘だぁ!」
「そう言う磯崎さんも何かスポーツしてたんじゃないのか?」
あれだけ走ったのに全然平気そうな顔だ。
文芸部の部長とは思えないよ。



俺が言ったこの言葉が気に障ったのか分からない。けれど、磯崎さんは困ったように眉を伏せてはにかんできた。まるで、泣きたいのを我慢しているみたいに。


そして、その顔を隠すように俺に背を向けて空を仰いだ。






「竹中君。自分を偽って生きていくのってどういう気持ちなのかな?」
苦しい?罪悪感とか感じるのかな?
いきなり、そんなことを磯崎さんが口にした。
「え?」
自分を偽って…。
一瞬、俺の事かと思った。
俺も偽って、弱い自分を隠して彼女に近づいているから....。

内心焦っていると磯崎さんは続ける。
「今、偽りの主人公を題材にした小説を書きたいと思っているんだけど、主人公の心情が読み辛くて…」
平気な顔で息をするように嘘をつく人の心情が知りたくなって....。


なんだ。
小説の話か…。
俺はほっと息を付く。
「わりと、生きやすいと思っているかもしれないぞ?」
実際、俺がそうだから。全盛期のキラキラした俺を知らないから平気で街を歩ける。
「え?嘘ついてるから、うしろめたさ感じるんじゃないの?」
磯崎さんは驚いて目を丸くしている。
「嘘を付くって事は、自分が思い描いている最強の自分を演じる事が出来るって事だろ?だから、その人の最強像が崩れないかぎり、自分が最強だと思い込める…と言うか、理想の自分でいられるみたいな?」
何言ってるんだろ。俺。
まるで、自分の事じゃないか。

「ほんほん。なるほど。逆かぁ。罪悪感より逆に、防衛心が働くんだね」
磯崎さんはメモに俺がさっき言った事を書き込んでいく。


「自分のことを強がって大きく見せようとしている人、この世界にどのくらいいるんだろうね」
やはり、物語を書く人だからか考えることが壮大で人の生き方の芯をついてくる。
「さぁ」
少なくとも、世界に一人は、嘘つきがいると確信できる。
それは俺だ。
「案外、世界の9割の人は自分に嘘をついて生きているのかもしれないね」
「かもしれないな」
俺は何も言葉にできなくて、磯崎さんの言葉を復唱した。



「よし!じゃぁ、休憩終わり!二人三脚、練習しよ!」
竹中君も元気になったみたいだしね。
磯崎さんはそう言って立ち上がり、俺に元気な笑顔を見せてきた。




あぁ。
俺はきっと、こんなに素直な心優しい人にも平気に嘘をつけるようになっているんだな。
そう思うと、狂人になってしまっているみたいで笑えてきた。
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