病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

文字の大きさ
上 下
4 / 27

第1話

しおりを挟む
俺の名前は竹中たけなかたすく
2年間の闘病生活に終止符を打ち、都内の高校に編入し復学を果たした者である。


久し振りに嗅いだ秋の空気は哀愁の匂いがした。
闘病中に薬の影響で抜けた髪は不自然の無いくらいに生えそろった。通学途中の路地。店のガラス越しに俺の姿が映る。
年相応の姿と言えば違和感はないけれど、昔の面影が一つも感じられない自分の姿。その姿にまだ慣れない。
まるで、別人にでもなったかのようだ。

―ブブッ
ポケットに入れていたスマホが震えた。
見ると、LINEのアイコンがチカチカと点滅した。
2年前から一度も開かれてないグループLINE。
その通知件数は1万件。
今日もそれは届いた。
『おはよう。元気?』
『どこで何をやってるのよ。馬鹿。早くこっちに戻ってきなさいよ。後で置いて行くな!って泣きついても知らないんだからね!』
『私達は今度、冠番組2つもらえるわよ。だから、はやく連絡しなさい。待ってるから。』
強気な口調の通知が一気に3件溜まってしまった。
俺はそのメッセージを読むだけ読んで、既読もつけずにスライドさせ画面から消した。

悪い。俺、もう激しい運動出来ないから。
もう、イケメンじゃないから。
昔の俺じゃなくなったから。
あの世界に戻れないから。


それに、今の『Cherry's』は寿と楓真だから。
初期メンバーに俺がいた事を覚えている人なんてほとんどない。
もう、帰る場所もない。


俺は駅前にでかでかと張り出された広告を見上げた。
そこには互いに背を向き合い、王子様みたいな衣装に身を包んだ2人がウインクをして俺を見ていた。



■■■■■

久し振りにくぐる校門。
編入試験の時は青葉だったのに、校庭のイチョウの木は地面に黄色の絨毯を引いていた。
朝は病院に行っていたため、こんな昼下がりの時間に重役出勤をする羽目になった。

教室を見上げるといくつもの頭が黒板に向いているのが見えた。



よし。高校生活を俺は今から1年半、満喫しよう。そう思うと、気慣れないごわごわした制服が少しだけ馴染んできた気がした。



事務室の小窓をノックした。
「あの、今日から編入する竹中です...」
名前を名乗ると、新聞を読んでいた事務のおじさんが老眼鏡を外して、受付名簿を確認してきた。
「えーっと、竹中祐君だね。聞いているよ。編入おめでとう。」
「ありがとうごさいます」
「担任の先生が来ると思うからそれまでこっちで待っておいて」
「はい」
思ったよりすんなり応接室に通された。


昨年、新校舎が完成したばかりで貴族の書斎か?ってくらい綺麗な応接室。俺は適当に3人掛けのソファーに座り、迎えの先生が来るのを待つ。
この2年間は病室で通信教育だったから同級生と同じ席を並べて勉強するのは2年ぶりで少し緊張しているみたいだ。俺は汗ばんだ手をぎゅっと握りしめ、はぁっと息を吐いた。




■■■■■
少し待つと応接室の扉がノックされた。
「失礼します。」
凛として落ち着いた口調の声。
声質的に若めの教師みたいだ。
俺はこの声によく似た人を知っている。その人は今でも俺に連絡を入れてくるクソ真面目な人だ。
「どうぞ。」
俺はノックに答える。



―ガチャリと扉が開いた。
廊下の窓が開いていたのか秋の肌寒い風が部屋の中に入り込んできた。
清楚感のある長い髪。
その髪が風に舞った。


入ってきたのは担任の先生でも事務室のおじさんでもなかった。
「こんにちは。」
俺は制服姿の君を見つけた。







しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...