病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第2話

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「今日から編入してくる竹中祐君ですね?」
「ああ。」
「ごめんなさい。九重先生が忙しいみたいで、学級委員長の私が来ました。」
どうやら、九重先生というのは彼女の担任の先生のようだ。ということは必然的に俺の担任でもある。
「いや。わざわざ迎えに来てもらってありがとう。」
休み時間潰したよな。申し訳ない。
「いえ。これも学級委員長の立派な仕事ですから。」
気にしないで下さい。


ふわりと優しく微笑んでくれる顔。
ああ。
もう、俺には愛想笑いの仲になるのか。
俺はイジリ倒していた昔の自分がとても恵まれていた事を今更ながらに実感した。


■■■■■
「こんな時期に編入って大変じゃなかったですか?」
教室へ向かう廊下で世間話ついでに彼女が聞いてきた。
「大変、まぁ…そう、だな。」
先に、あんなキツイ闘病生活を送っていた事を考えると、こんな編入試験なんて片手間にできるほど楽勝…だとは言えない。
俺は曖昧な返事でごまかした。


彼女は不慣れな俺を気遣ってくれているのか横で話を続ける。
「でも、編入時期は今時分が最適なんだと思いますよ?」
俺が話に入りやすいように質問をしてくれる。
「最適?」
いまいちピンとこなかった。
「2週間後に文化祭と体育祭があるんです。他クラスの人とも仲良くなれるチャンスですね。」


そう笑ってきた。
■■■■■

「そういえば、私、まだ、名前を名乗ってなかったですね。」
知ってる。
俺はお前の名前知ってるし。
本名も芸名も知ってる。
教えてくれたのはお前だろ?


「初めまして。竹中君。私の名前は清水《しみず》沙希菜《さきな》です。知ってるかは、分かりませんが、アイドルグループのセンターをしてたりもします。」
これからよろしくお願いしますね。


初めましてなんてどの口が言っているんだ。昔は一緒に仕事をしていただろう?こう言えたらなんて気持ちがいいんだろうか。けれど、口にできない。俺は昔の俺とは外見も中身も変わってしまったのだから。
彼女が俺に気づいていない事は少し寂しかった。彼女に嘘を付くこと少し心苦しかった。
それでも、俺は、彼女の他人行儀な笑顔で伸ばしてきた手を握ってしまった。
「初めまして。竹中祐です。よろしくお願いします。」




■■■■■

元アイドルグループのセンターでリーダーだった日生遼。
本名、竹中祐は2年前の春。
過労で倒れた。その後、深刻な病が見つかり、活動を休止、闘病生活の末、今、俺はこうして地に足をつくことができた。病気の事はファンはもちろん、テレビ関係者にも言ってない。話したのは事務所の社長とマネージャーとメンバーだけ。

俺が倒れたのは、少しづつ頑張ってきた活動が芽を結び始めた。そんな時期だった。
都内のロケでテレビ局をハシゴして、息付く暇なくライブのリハーサル。
もう、目まぐるしく動いていた。
メンバーも睡眠時間は3時間取れたら喜びうらやましがられるそんな感じだった。俺も、体は疲弊しているのを感じるが、逆に精神は向上する一方だった。
やっと、俺たちの活動が日の目を見る時がくる。
そう思うと興奮しない訳にはいかなかった。


思えば、体調が悪いのはその日だけじゃなかった。
毎日、一定の周期で自分の中の歯車がリズムを失う事自覚していた。それでも、俺は大丈夫だと思って気にしてこなかった。今は自分の体より、どうやったら有名になれるかで頭がいっぱいだったから。



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