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浦島伝説の始まり
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今は昔、とある網元夫婦がいた。彼らには嫡子がいなくて、何度も子宝祈願をした。
ある夜、藁で編んだ舟形のゆりかごに入った赤子が浜に流れ着いた。ちょうど良いことに男の子であった。網元夫婦は「神からの授かり子」と喜んで、その男の子を「浦の嶋子(うらのしまこ)」として育てた。
嶋子が来てから、不思議なことに夫婦は子宝に恵まれた。本来は弟や妹たちを従えるべき存在なのだが、嶋子は本ばかり読んで物思いにふける子であった。次第に両親は家督を活発な次男に譲った方が良いと思うようになった。
成人した嶋子はますます「変わり者」となった。現世をはかなみ、蓬莱山へ行って仙人になりたいと本気で思い始めていた。現実逃避のためか、彼は毎日舟で沖へと漕ぎ出し、釣り糸を垂れていた。
ある日、糸を引いたら五色の亀を釣り上げた。「五色」とは「神仙」なものの特徴である。
「これは珍しい」
嶋子は釣り上げた亀を舟板に置いた。また釣り糸を垂れてしばらくすると、亀がもがいている。海中が恋しくなったのであろうか。嶋子は亀がなんだか哀れに思えてきた。
「悪かったよ。好きな所に行きなさい。」
そう言って亀を放した。
それからさらに一時ばかりすると、今度は向こうから舟が近づいてきた。なんと、その舟には目も見張るような美女が乗っていた。
「もしもし、そこのお方。」
その声もとても美しく、嶋子は彼女がただの人間とは思えなかった。
その日、嶋子は浜に戻らなかった。次の日もそのまた次の日も、そして何年も。
網元夫婦は「嶋子は蓬莱山に行ったのだ」と思うことにした。そして次男に家督を継がせた。行方不明になった嶋子について伝説が生まれた。これが丹後に伝わる「浦嶋子伝説」であり、「丹後国風土記」に記され、さらに平安時代に好んで読まれたとされる。
時はすぎ、丹後国の同じ漁村に一人の女がいた。彼女は家族もなく、孤独であった。どんな生まれでどんな育ちの女なのか誰も知る者はいなかった。
すさまじい時化の翌日、海岸にでた彼女は、一人の幼い少年が倒れているのを見つけた。
少年はまだ七つになるかならないかの年だった。彼女はその少年を家に連れて行って介抱したら、少年は意識を取り戻した。
しかし、少年は記憶を失っていた。女は彼を連れて出来る限り尋ね回ったが、誰も少年を知る者はいなかった。
こうして、女は少年を育てることにした。自分の名前さえも失った彼のために、新しい名をつけた。この土地に古くから伝わる伝説にちなんで、彼を「浦島太郎」と名付けた。
こうして物語は始まった。
ある夜、藁で編んだ舟形のゆりかごに入った赤子が浜に流れ着いた。ちょうど良いことに男の子であった。網元夫婦は「神からの授かり子」と喜んで、その男の子を「浦の嶋子(うらのしまこ)」として育てた。
嶋子が来てから、不思議なことに夫婦は子宝に恵まれた。本来は弟や妹たちを従えるべき存在なのだが、嶋子は本ばかり読んで物思いにふける子であった。次第に両親は家督を活発な次男に譲った方が良いと思うようになった。
成人した嶋子はますます「変わり者」となった。現世をはかなみ、蓬莱山へ行って仙人になりたいと本気で思い始めていた。現実逃避のためか、彼は毎日舟で沖へと漕ぎ出し、釣り糸を垂れていた。
ある日、糸を引いたら五色の亀を釣り上げた。「五色」とは「神仙」なものの特徴である。
「これは珍しい」
嶋子は釣り上げた亀を舟板に置いた。また釣り糸を垂れてしばらくすると、亀がもがいている。海中が恋しくなったのであろうか。嶋子は亀がなんだか哀れに思えてきた。
「悪かったよ。好きな所に行きなさい。」
そう言って亀を放した。
それからさらに一時ばかりすると、今度は向こうから舟が近づいてきた。なんと、その舟には目も見張るような美女が乗っていた。
「もしもし、そこのお方。」
その声もとても美しく、嶋子は彼女がただの人間とは思えなかった。
その日、嶋子は浜に戻らなかった。次の日もそのまた次の日も、そして何年も。
網元夫婦は「嶋子は蓬莱山に行ったのだ」と思うことにした。そして次男に家督を継がせた。行方不明になった嶋子について伝説が生まれた。これが丹後に伝わる「浦嶋子伝説」であり、「丹後国風土記」に記され、さらに平安時代に好んで読まれたとされる。
時はすぎ、丹後国の同じ漁村に一人の女がいた。彼女は家族もなく、孤独であった。どんな生まれでどんな育ちの女なのか誰も知る者はいなかった。
すさまじい時化の翌日、海岸にでた彼女は、一人の幼い少年が倒れているのを見つけた。
少年はまだ七つになるかならないかの年だった。彼女はその少年を家に連れて行って介抱したら、少年は意識を取り戻した。
しかし、少年は記憶を失っていた。女は彼を連れて出来る限り尋ね回ったが、誰も少年を知る者はいなかった。
こうして、女は少年を育てることにした。自分の名前さえも失った彼のために、新しい名をつけた。この土地に古くから伝わる伝説にちなんで、彼を「浦島太郎」と名付けた。
こうして物語は始まった。
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