20 / 41
第20話
しおりを挟む
ついにエレオノーラが処刑される日がやってきた。
処刑はサミュエルの立ち合いの元で行われることになった為、それまで地下牢の独房で待機する。
処刑の時間が来て、サミュエルが地下牢を訪れた。
処刑執行見届け人として地下牢の看守も同席しているが、サミュエルが彼を金で買収済みである為、何が起きても確かに処刑は執行されたと王家側に証言される。
なお、エレオノーラを悪だと断じたシモンがこの場にいないのは、処刑を直に見るにはまだ年齢的によろしくないという配慮からである。
「エレオノール、時間だ。ここから脱出して、ジョシアと落ち合え。脱出した先にジョシアが待っているから、彼と一緒に私が手配した馬車に乗って港町のモンブリーまで行き、そこからルズベリー帝国行きの船に乗れ。ルズベリー帝国に着いた後のことはジョシアが皇帝と打ち合わせ済みだから心配しなくても良い」
「わかりましたわ、お父様。では、私は脱出しますわね。お父様とは一旦お別れですが、また帝国で必ず会いましょう」
「気を付けて。後のことは私に任せておけ」
エレオノーラがいる独房には実は隠し扉があり、隠し扉を開けて通路を歩いて行けば、城下町にある古い小さめの屋敷の中にたどり着く。
クーデターで王族が地下牢に入れられた時の為に、脱出用の通路が作られているのだ。
その屋敷は昔、王族の一人が愛人と逢瀬する為に作られた屋敷で、その王族と愛人亡き後は相続する者がいなかった為、誰も住んでいない。
なので地下牢からの脱出用の通路が極秘で作られた時に、通路の出口に選ばれた。
サミュエルは宰相として職務上、隠し通路の内、全部ではないがいくつかは把握しており、その内の一つがこの通路である。
エレオノーラはレンガ造りの壁の内、サミュエルに教えてもらった場所にあるレンガをいくつか動かす。
すると、人ひとり通れそうな通路が現れる。
その通路は一本道で、エレオノーラはひたすら進む。
長い間誰も使っていない通路だったので、通路の中は蜘蛛の巣やほこりを被っており、あまり快適な道とは言えなかった。
やっと目の前に扉が現れ、扉を開けると、話に聞いていた通り、貴族の屋敷の一室にたどり着いた。
「エレオノール、地下牢からの脱出お疲れ様。ずっと一人で心細かっただろう。とりあえずこの服に着替えて、馬車に乗ろう」
「ジョシア! 独房で誰にも会えず一人きりは不安でしたわ。今日、お父様にやっとお会いしました」
エレオノーラが着いた一室にはジョシアがおり、服を彼女に手渡す。
平民が着るよりも少し質が良いワンピースだ。
別室で着替えたエレオノーラはジョシアと共に屋敷を出て、馬車に乗る。
馬車に揺られることおよそ三時間。
二人は港町モンブリーに到着する。
ルズベリー帝国行きの船のチケットをジョシアがサミュエルから預かっていた旅資金から二人分購入して、船に乗り込む。
船は夜出発して翌朝帝国に着くようになっている為、今夜は船の中で一泊だ。
この旅の為にジョシアが必要なものを詰めて背中に背負っているリュックサックの中に、保存食を入れていたので今日のところはそれを夕食代わりに食べて、泥のように眠る。
翌朝、船は問題なく予定通りルズベリー帝国の港に到着する。
二人は下船して、港町のカフェで朝食を取ることにした。
トーストとサラダとコーヒーという簡素なメニューだが、長旅で疲れていた二人には美味しく感じられた。
「何とか帝国まで無事について良かったね」
「ええ。疲れたけれど、何とかここまで来れましたわね」
「これから父上が手配した馬車に乗って帝都ロージアンまで移動する予定だよ。この港町からロージアンまでは馬車で一時間程度かな? 父上からの手紙にはそう書いてあったはず」
「そうなのですわね。長時間移動ではなくて助かりましたわ」
「さあ、行こう」
ジョシアの案内で、馬車が用意されている場所まで歩き、馬車に乗り込む。
そしておよそ一時間後に帝都ロージアンにあるグロスター城までたどり着く。
グロスター城とはルズベリー帝国の皇帝とその家族が住んでいる城である。
石造りの重厚なデザインの城で、いくつもの塔から成り立っている。
「久々にここに帰ってきたな。オルレーヌ王国に避難した時はここにお嫁さんを連れて帰ることになるなんて思ってもみなかったけれど」
「ここがジョシアが生まれ育った城なのですわね。私はルズベリー帝国に来たのも初めてなので色々教えて下さい」
「案内は勿論任せて」
城門で門番にジョシアが声をかけ、事情を説明するとすぐに案内役の使用人が門にやって来て、ジョシアとエレオノーラを城内の応接室に案内する。
少し待っていると、扉がノックされ、男女が二人入室する。
「ジョシア、久々だな。よく戻って来た。そちらはエレオノール嬢か? 私はジョシアの父でリチャードと言う。貴女のことはサミュエルとジョシアから手紙で話は聞いている」
「ジョシア、お帰りなさい! 此方がジョシアのお嫁さんのエレオノール様ね。初めまして! ジョシアの母のダイアナですわ」
「初めまして。エレオノール・ブロワと申します。父がお世話になっております」
「そんな畏まらなくてもいいのよ。私のことはお義母様、リチャードのことはお義父様と呼んでちょうだいね」
こうしてエレオノーラはルズベリー帝国の皇帝夫妻でもあり、ジョシアの両親でもあるリチャードとダイアナに邂逅する。
処刑はサミュエルの立ち合いの元で行われることになった為、それまで地下牢の独房で待機する。
処刑の時間が来て、サミュエルが地下牢を訪れた。
処刑執行見届け人として地下牢の看守も同席しているが、サミュエルが彼を金で買収済みである為、何が起きても確かに処刑は執行されたと王家側に証言される。
なお、エレオノーラを悪だと断じたシモンがこの場にいないのは、処刑を直に見るにはまだ年齢的によろしくないという配慮からである。
「エレオノール、時間だ。ここから脱出して、ジョシアと落ち合え。脱出した先にジョシアが待っているから、彼と一緒に私が手配した馬車に乗って港町のモンブリーまで行き、そこからルズベリー帝国行きの船に乗れ。ルズベリー帝国に着いた後のことはジョシアが皇帝と打ち合わせ済みだから心配しなくても良い」
「わかりましたわ、お父様。では、私は脱出しますわね。お父様とは一旦お別れですが、また帝国で必ず会いましょう」
「気を付けて。後のことは私に任せておけ」
エレオノーラがいる独房には実は隠し扉があり、隠し扉を開けて通路を歩いて行けば、城下町にある古い小さめの屋敷の中にたどり着く。
クーデターで王族が地下牢に入れられた時の為に、脱出用の通路が作られているのだ。
その屋敷は昔、王族の一人が愛人と逢瀬する為に作られた屋敷で、その王族と愛人亡き後は相続する者がいなかった為、誰も住んでいない。
なので地下牢からの脱出用の通路が極秘で作られた時に、通路の出口に選ばれた。
サミュエルは宰相として職務上、隠し通路の内、全部ではないがいくつかは把握しており、その内の一つがこの通路である。
エレオノーラはレンガ造りの壁の内、サミュエルに教えてもらった場所にあるレンガをいくつか動かす。
すると、人ひとり通れそうな通路が現れる。
その通路は一本道で、エレオノーラはひたすら進む。
長い間誰も使っていない通路だったので、通路の中は蜘蛛の巣やほこりを被っており、あまり快適な道とは言えなかった。
やっと目の前に扉が現れ、扉を開けると、話に聞いていた通り、貴族の屋敷の一室にたどり着いた。
「エレオノール、地下牢からの脱出お疲れ様。ずっと一人で心細かっただろう。とりあえずこの服に着替えて、馬車に乗ろう」
「ジョシア! 独房で誰にも会えず一人きりは不安でしたわ。今日、お父様にやっとお会いしました」
エレオノーラが着いた一室にはジョシアがおり、服を彼女に手渡す。
平民が着るよりも少し質が良いワンピースだ。
別室で着替えたエレオノーラはジョシアと共に屋敷を出て、馬車に乗る。
馬車に揺られることおよそ三時間。
二人は港町モンブリーに到着する。
ルズベリー帝国行きの船のチケットをジョシアがサミュエルから預かっていた旅資金から二人分購入して、船に乗り込む。
船は夜出発して翌朝帝国に着くようになっている為、今夜は船の中で一泊だ。
この旅の為にジョシアが必要なものを詰めて背中に背負っているリュックサックの中に、保存食を入れていたので今日のところはそれを夕食代わりに食べて、泥のように眠る。
翌朝、船は問題なく予定通りルズベリー帝国の港に到着する。
二人は下船して、港町のカフェで朝食を取ることにした。
トーストとサラダとコーヒーという簡素なメニューだが、長旅で疲れていた二人には美味しく感じられた。
「何とか帝国まで無事について良かったね」
「ええ。疲れたけれど、何とかここまで来れましたわね」
「これから父上が手配した馬車に乗って帝都ロージアンまで移動する予定だよ。この港町からロージアンまでは馬車で一時間程度かな? 父上からの手紙にはそう書いてあったはず」
「そうなのですわね。長時間移動ではなくて助かりましたわ」
「さあ、行こう」
ジョシアの案内で、馬車が用意されている場所まで歩き、馬車に乗り込む。
そしておよそ一時間後に帝都ロージアンにあるグロスター城までたどり着く。
グロスター城とはルズベリー帝国の皇帝とその家族が住んでいる城である。
石造りの重厚なデザインの城で、いくつもの塔から成り立っている。
「久々にここに帰ってきたな。オルレーヌ王国に避難した時はここにお嫁さんを連れて帰ることになるなんて思ってもみなかったけれど」
「ここがジョシアが生まれ育った城なのですわね。私はルズベリー帝国に来たのも初めてなので色々教えて下さい」
「案内は勿論任せて」
城門で門番にジョシアが声をかけ、事情を説明するとすぐに案内役の使用人が門にやって来て、ジョシアとエレオノーラを城内の応接室に案内する。
少し待っていると、扉がノックされ、男女が二人入室する。
「ジョシア、久々だな。よく戻って来た。そちらはエレオノール嬢か? 私はジョシアの父でリチャードと言う。貴女のことはサミュエルとジョシアから手紙で話は聞いている」
「ジョシア、お帰りなさい! 此方がジョシアのお嫁さんのエレオノール様ね。初めまして! ジョシアの母のダイアナですわ」
「初めまして。エレオノール・ブロワと申します。父がお世話になっております」
「そんな畏まらなくてもいいのよ。私のことはお義母様、リチャードのことはお義父様と呼んでちょうだいね」
こうしてエレオノーラはルズベリー帝国の皇帝夫妻でもあり、ジョシアの両親でもあるリチャードとダイアナに邂逅する。
111
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が残した破滅の種
八代奏多
恋愛
妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。
そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。
その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。
しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。
断罪した者は次々にこう口にした。
「どうか戻ってきてください」
しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。
何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。
※小説家になろう様でも連載中です。
9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。
婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる