悪役令嬢の残した毒が回る時

水月 潮

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第21話

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 過去の回想を終えたエレオノーラは現実に戻る。

 ベッドから起き上がり、メイドの手を借りて湯あみと着替えを済ませ、ジョシアと共に朝食を摂る。

 今朝はメイドが気を利かせて朝食と食後の紅茶を部屋まで運んで来ているが、基本的に食事は皇族専用の食堂で摂ることになっている。

 今日の朝食は焼きたてのブリオッシュやクロワッサンに、新鮮な野菜を使ったグリーンサラダ、ベーコンエッグに温かいコーンポタージュである。

 二人はそれを美味しく食べ、食後の紅茶を飲んで一服する。


 その後はジョシアにグロスター城の内部の案内をしてもらった。

 グロスター城はルズベリー帝国を建国した初代皇帝アレックスが建国当初に作らせたもので、建築物としての歴史は古い。

 今からおよそ130年程前の話だ。

 石造りの重厚な城で、城としてのデザイン性よりも質実剛健な質の方を重視して建てられた。


 今、二人がいる場所は初日にリチャードとダイアナに出会った応接室と同じ塔の違う階だ。

「この辺り一帯とこの階から上にある部屋は全部執務室で、文官達の仕事場だね。どこの部門がどの執務室を使うかは割り振られているから、ドアの上にその部屋を使用している部門の名前が書かれている」

「かなりたくさん部門があるのですわね」

「因みにルズベリー帝国の文官は全員が全員貴族出身ではないから、中には平民出身の者もいる。近衛もそう。身分至上主義ではなく、実力主義だから優秀ならば出自は問わず雇用している。でも、重要な部門や人気のある部門にはやっぱり貴族出身である方が回されやすいし、出世もしやすいから完全な実力主義とは言えない。まだ課題は多いんだ」

「オルレーヌ王国では文官も武官も家を継げない二男・三男がなるもので、平民出身の方はいらっしゃりませんわ。そのようなところ一つ取っても、王国と帝国は違うのですわね」

「そうだね。さて、次の場所に行こう」


 このような感じで二人は午前中いっぱいは城内巡りをする。

 時刻が正午になり、大きな鐘の音がゴーン、ゴーン、ゴーン……と響き渡る。

「この鐘の音は何で鳴るのですか?」

「これはお昼のお知らせの鐘の音だよ。皆、仕事に集中して時間が過ぎていることを忘れる人もいるからね。この鐘が鳴ったら、皆お昼休み。さっき見た大食堂でランチを摂るか、混雑が嫌な人は自分で何かお昼に食べるものを用意して人気ひとけの少ない場所で食べたり。後は、城から徒歩10分以内の場所にあるお店で食べるという人もいる」

「先程の大食堂で満員になるとすると400人以上が城でお勤めされているのですね」

「文官・武官、それ以外にもメイドや医者とその補佐等それら全部含めるとやっぱりどうしても大所帯になるよね」


 二人はランチを摂る為に、皇族専用の食堂に向かう。

 二人が食堂に着くと、ちょうどリチャードとダイアナ、あと一人エレオノーラは知らない男性が既にテーブルについていた。

「マーク兄上、久しぶり!」

「お帰り、ジョシア。こうして会うのは何年振りだ? 最後に会った時はまだチビだったのにこんな大きくなっちゃって。しかもお嫁さんまで連れて来るなんて」

「10年ぶりだね。マーク兄上、こちらは僕の妻のエレオノーラ。オルレーヌ王国でお世話になっていた公爵家の令嬢」

「初めまして、エレオノール嬢。私はマーク。ジョシアの三歳上の兄だ。二人の結婚式も参加したかったが、ちょうど同盟国で会合があって参加出来ずすまなかった。ジョシアのことをよろしく頼む」

「こちらこそ初めまして、マーク様。私はエレオノーラと申します。よろしくお願いしますわ」


「さぁご挨拶も済んだことだし、二人も席に着いてランチを頂きましょう。二人の分をお願いね」

 ダイアナの指示で、二人の分のランチが作られ、テーブルに用意される。

 今日のランチはチキンの香草焼きとミネストローネとサラダとバケット。

 朝食よりもボリュームがあるメニューだ。


「そう言えば、二人には結婚のお披露目と称して何か国か視察を兼ねて外遊して欲しいのよね。エレオノールちゃんの故郷のオルレーヌ王国も含めて」

「わかりました、母上」

「他の国と視察内容は後でリチャードから聞いて確認してね。リチャードから話には聞いていたけれど、冤罪で処刑だなんて本当に酷い王族ね」


 憤慨しているダイアナにはエレオノーラは自分がわざとそうなるように仕向けたなんて言えなかった。

 確かに表面上だけ見れば冤罪で処刑された可哀想な令嬢だが、策を巡らせてこの状況を作った。

 エレオノーラは曖昧に微笑んだ。


 でも、機会がやってきたことには感謝した。



 さぁ、もうすぐよ。

 シモン王太子殿下とマリアン。

 あなた達の幸せはもうすぐ終わるわ。



 エレオノーラは心の中でうっそりと笑っていた。
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