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第10章 瑛太4
第144話 和解
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ああ、圭は小さいときの怪我以来、俺の後ろを付いて歩く事はなかったな。
怪我した後からは出歩かなくなったし、本やPCとか一人で出来る事に夢中になっているように見えた。
だけど,俺と疎遠になるとかはなくて‥‥、いつもニコニコして俺の話を聞いてくれた。
俺は圭の話を聞いていたかというと、圭の話は‥‥、異世界とか‥‥。良くわからなかったんだよ。ごめんよ。
詳しく聞いておけば良かったって、今は事有る毎に思うよ。
「その子が君に、パンの製法を残してくれたんだね。遺産だね。」
「‥‥遺産‥‥、そうだね‥‥。」
圭が遺したもの。マジックバッグになった鞄。
何故か、呪具を解呪できる動画の入ったSDカード。ソーラーモバイルバッテリー。
何か予知してきたかのような山のようなお弁当。未だに、何がどれだけ入っているか不明な、鞄の中身。
パンの製法以外にも、様々な知識と見解が書かれた異世界ガイドノート。
確かに、大いなる遺産だ。
他人に知られたらとんでもない事になりそうな程の価値があると思う。
だから、俺は、誰かに取りあげられたりしないように、でもなるべく活かしたくて、少しずつ圭の知識を試して行こうと思っている。
宿の部屋の窓辺に、買った花器を置いた。何か圭の物を一緒に供えようと思って、圭の鞄についていた猫のストラップを外して花器の隣に置いた。
「それ。防災ネコランじゃん。」
「ネコラン?」
尾市さんがストラップを見て言う。俺は良くわからなくて訊き返した。
「防災グッズだよ。震災の後に出てた奴。使えるのかな。腹押してみ?」
尾市さんに言われてストラップの猫のお腹部分をくっと押した。すると猫の両目がライトのように光った。
「おお!」
「これ、今あると超便利!」
「確かに‥‥。」
「一度消して、長押ししてみ。消すのはもう一度同じように押すんだよ。」
言われた通りに、もう一度ストラップ猫の腹部分を押すと、猫の目ライトが消えた。そして、今度は長押しをすると、ストラップ猫全体が輝いた。
まだ日が明るいから良くわかり難いけど、照明がない窓からの光だけの室内の少し日陰になっている場所に移動すると、ランタンのように周囲を照らした。
「‥‥ネコラン。猫ランタン‥‥、猫ランプ?」
「そうそう。機能を知らないで持ってるって、これ圭君の?」
「うん。鞄についてた。」
「流石圭君。サスケイ。」
電池がどのくらい持つかわからないけど、ありがたいね、と言い合って、もう一度窓辺の花器の傍において、拝んだ。
夕食後に生地を仕込み、早朝に焼いて、屋台で売る。結構ハードなサイクルだったけど、売上げは順調で、結構充実した日々を送った。
屋台レンタル一週間の最終日、俺が交代で店頭に立った時、緑の髪の少年が店の前に姿を現した。
「お、おう‥‥。この間はその‥‥悪かったな。ぼったくりとか言って‥‥。」
緑の髪‥ルースだったっけ。ルースがモジモジしながら言う。
「シスターから聞いたんだ。お前達が、狩猟ギルドからの寄付の食糧を運んでくれていたって‥‥。低級冒険者専用の依頼だから、低級冒険者で頑張っているんだろうって‥‥。」
まあ、頑張ってはいますけど?
「‥‥その‥‥昨日、パンを貰ってさ。分けて食べたんだよ。‥‥旨かった。」
「‥‥それは良かった。」
「大きさも普通のパンの二倍くらいあるし‥‥全然ぼったくりじゃなかった。その‥‥ごめん‥‥。」
「謝罪は受け取るよ。」
パンを旨いって認めてもらえたし、まあ、いいかな。
俺が謝罪を受け入れると言ったら、顔を上げたルースが明るい笑顔を見せた。
「俺!狩猟ギルドに登録したんだ!今まで、狩猟ギルドの依頼で子供が一人でうろつくのは危ないって言われていて、稼ぐの無理じゃん!って思ってたんだけど。
仲間と一緒に行動すればよかったのかって思って‥‥。
それでな‥‥。狩猟ギルドで稼いだら、パンを買いにくるから!」
「あー‥‥。」
キラキラした目で宣言をされてしまって、少し申し訳ない気持ちになった。
「ごめん。今日最終日なんだ。」
怪我した後からは出歩かなくなったし、本やPCとか一人で出来る事に夢中になっているように見えた。
だけど,俺と疎遠になるとかはなくて‥‥、いつもニコニコして俺の話を聞いてくれた。
俺は圭の話を聞いていたかというと、圭の話は‥‥、異世界とか‥‥。良くわからなかったんだよ。ごめんよ。
詳しく聞いておけば良かったって、今は事有る毎に思うよ。
「その子が君に、パンの製法を残してくれたんだね。遺産だね。」
「‥‥遺産‥‥、そうだね‥‥。」
圭が遺したもの。マジックバッグになった鞄。
何故か、呪具を解呪できる動画の入ったSDカード。ソーラーモバイルバッテリー。
何か予知してきたかのような山のようなお弁当。未だに、何がどれだけ入っているか不明な、鞄の中身。
パンの製法以外にも、様々な知識と見解が書かれた異世界ガイドノート。
確かに、大いなる遺産だ。
他人に知られたらとんでもない事になりそうな程の価値があると思う。
だから、俺は、誰かに取りあげられたりしないように、でもなるべく活かしたくて、少しずつ圭の知識を試して行こうと思っている。
宿の部屋の窓辺に、買った花器を置いた。何か圭の物を一緒に供えようと思って、圭の鞄についていた猫のストラップを外して花器の隣に置いた。
「それ。防災ネコランじゃん。」
「ネコラン?」
尾市さんがストラップを見て言う。俺は良くわからなくて訊き返した。
「防災グッズだよ。震災の後に出てた奴。使えるのかな。腹押してみ?」
尾市さんに言われてストラップの猫のお腹部分をくっと押した。すると猫の両目がライトのように光った。
「おお!」
「これ、今あると超便利!」
「確かに‥‥。」
「一度消して、長押ししてみ。消すのはもう一度同じように押すんだよ。」
言われた通りに、もう一度ストラップ猫の腹部分を押すと、猫の目ライトが消えた。そして、今度は長押しをすると、ストラップ猫全体が輝いた。
まだ日が明るいから良くわかり難いけど、照明がない窓からの光だけの室内の少し日陰になっている場所に移動すると、ランタンのように周囲を照らした。
「‥‥ネコラン。猫ランタン‥‥、猫ランプ?」
「そうそう。機能を知らないで持ってるって、これ圭君の?」
「うん。鞄についてた。」
「流石圭君。サスケイ。」
電池がどのくらい持つかわからないけど、ありがたいね、と言い合って、もう一度窓辺の花器の傍において、拝んだ。
夕食後に生地を仕込み、早朝に焼いて、屋台で売る。結構ハードなサイクルだったけど、売上げは順調で、結構充実した日々を送った。
屋台レンタル一週間の最終日、俺が交代で店頭に立った時、緑の髪の少年が店の前に姿を現した。
「お、おう‥‥。この間はその‥‥悪かったな。ぼったくりとか言って‥‥。」
緑の髪‥ルースだったっけ。ルースがモジモジしながら言う。
「シスターから聞いたんだ。お前達が、狩猟ギルドからの寄付の食糧を運んでくれていたって‥‥。低級冒険者専用の依頼だから、低級冒険者で頑張っているんだろうって‥‥。」
まあ、頑張ってはいますけど?
「‥‥その‥‥昨日、パンを貰ってさ。分けて食べたんだよ。‥‥旨かった。」
「‥‥それは良かった。」
「大きさも普通のパンの二倍くらいあるし‥‥全然ぼったくりじゃなかった。その‥‥ごめん‥‥。」
「謝罪は受け取るよ。」
パンを旨いって認めてもらえたし、まあ、いいかな。
俺が謝罪を受け入れると言ったら、顔を上げたルースが明るい笑顔を見せた。
「俺!狩猟ギルドに登録したんだ!今まで、狩猟ギルドの依頼で子供が一人でうろつくのは危ないって言われていて、稼ぐの無理じゃん!って思ってたんだけど。
仲間と一緒に行動すればよかったのかって思って‥‥。
それでな‥‥。狩猟ギルドで稼いだら、パンを買いにくるから!」
「あー‥‥。」
キラキラした目で宣言をされてしまって、少し申し訳ない気持ちになった。
「ごめん。今日最終日なんだ。」
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