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この目で、その姿を
しおりを挟むそして、お茶会の日となる。
それまでに、先に開かれた二家のお茶会、もしくはパーティの成功と評判は、既にマルティネ子爵家も聞き及んでいた。
どちらの集まりも、家格、規模、提供された食事や飲み物、招待客の階級など、全てが素晴らしかったらしい。
マルティネ家は、家格こそ子爵でしかないが、それ以外の要素で劣る様であってはいけないと気合を入れ直す。
子爵夫人は、この日のために新たに使用人を何人も雇い入れ、入念な準備を始めていた。
贅を尽くした立派なお茶会にしなくては。
そんな夫人の意気込みも、両公爵家から出された要望により、呆気なく方針転換となった。
彼らは、茶会の規模をなるべく小さく、出来るなら近しい者たちのみの親睦会としてほしいと伝えてきたのだ。
増員した使用人を思うと少し肩透かしをくらった気分にはなったが、少人数での茶会は子爵家にとっても悪い話ではない。
それだけ親密に両公爵家と親しくなれる機会ともなるからだ。
・・・招待客を厳選する分、より質の高い茶会を提供すればいいのよ。
そう気持ちを整え直した夫人は、招待客たちが来る前に、茶会会場の最終チェックを行う。
用意した茶葉に菓子、テーブルや椅子の配置、茶器の確認など、夫人は忙しなく会場内を動き回る。
本当ならば、もうすぐ爵位を譲る長男夫婦に任せたい所だが、嫁は今、第一子を妊娠中。安定期とはいえ、負担をかけてお腹の子に何かあったら大変だ。
・・・こんな時、テオフィロにもお嫁さんがいたら、もう少し楽が出来たのだけれど。
そんな小さな不満を抱きつつ、最終チェックを終了した。
それから約半刻後。
本日の主役、ランスロットとヴィオレッタが到着する。
昼間の、しかも茶会の場とあって、ヴィオレッタの服装は淡いクリーム色のデイドレス。鮮やかな刺繍を施したショールで肩を覆っている。
ランスロットは正装用の装飾が多い騎士服だ。
馬車から降りただけでも目を引く二人を、子爵家は一家総出で歓迎し、口々に招待に応じてくれた事への感謝を述べた。
その中には当然、テオフィロもいて。
そのはるか後方、茶会会場から少し外れた目立たない場所で、使用人たちの中に紛れ、頭を下げているのがイライザだ。
場から離れているのは、いざその時になっても疑われずに最後まで見物するため。
また、近くにいて見咎められる様な失態を犯さないためだ。
正直に言えば、間近でヴィオレッタが苦しんで死ぬ姿を眺めたかった。
けれど、メイド服とキャップ帽、更に眼鏡などで簡単な変装をしているとはいえ、イライザの顔はあちらに知られている。
使用人たちの中に埋没していれば大丈夫だろうが、目をつけられやすい位置に立つのは避けたかった。
かといって、その場から完全に離れるという選択はない。
どうしても、そうイライザはどうしても、ヴィオレッタが死ぬ瞬間をこの目で見たかったから。
テオフィロからもらった毒は、ヴィオレッタのカップに既に塗ってある。
予め席の配置を確認さえしておけば簡単な事だ。
・・・後は、他のメイドがお茶を注げば。
イライザは口の端を吊り上げた。
もうすぐ、もうすぐよ。
あのくだらない世間話が終わって、それぞれが席について、そうしたら、ほら。
ベテランメイドがお茶の用意を始めるのを見ながらほくそ笑んでいると、ふと視線を感じた様に思い、周りを見回す。
「・・・」
だが、周りにいる使用人たちも、客も、子爵家の人たちも皆、ゲストに視線を向けている。
・・・気のせい?
そう思い、首を傾げたところで、今度は顔を上げたランスロットと一瞬、視線が合ったーーー気がした。
「・・・っ」
見破られたかと思い、焦るイライザ。
だが、すぐにランスロットからの視線も外される。
当たり前だ、貴族が使用人になど注意を払う訳がない。
イライザは胸を撫で下ろし、再び注意をヴィオレッタへと向けた。
メイドの手により、それぞれのカップに茶が注ぎ入れられる。
・・・後は飲むだけ。
その時を今か今かと待ち続けるイライザだが、期待に反して、話が弾んだ彼らはなかなか茶に口をつけようとしない。
イライザの苛立ちは、極限にまで膨れ上がる。
ーーー次の瞬間。
ヴィオレッタがカップを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。
・・・飲んで。
ほら、さっさと飲みなさいよ。
遠い位置から凝視するイライザに、テオフィロはそっと視線を向けて笑みを浮かべる。
こくり、とヴィオレッタの喉が動く。
だが、すぐに異変が起こることはなく、その後も何事もなく会話が続く。
騙されたのかとイライザがテオフィロを睨みつけた時だ。
ヴィオレッタはカップを戻すと額に手を当て、何かを振り払う様に首を軽く左右に振った。
そして。
ぐらり
彼女の体が、ゆっくりと傾き始める。
それを見た誰かの、恐らくは子爵夫人だろう、悲鳴が上がる。
ランスロットがさっと立ち上がり、力なく倒れゆくヴィオレッタを腕の中で抱き止めるのが見えた。
ーーーやったわ。
にんまりと笑みを浮かべたイライザの隣には、いつの間にか側によっていたテオフィロの姿があった。
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