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第9章 9 ルドルフの帰郷 9

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「エドガー様・・・僕は本当はずっと・・疑っていたんです。教会が火事になった原因を作ったのはヒルダ様ではなく・・・僕の友人達だったのではないかと・・。」

ルドルフは悔しそうに唇をかみしめながらエドガーに語る。

「ルドルフ・・・君の知ってること全て話してくれ。俺は・・何としてもヒルダを救いたいんだ。」

エドガーは真剣な目でルドルフを見た。

「はい、これは全て父から聞いた話なんです・・・。教会焼失事件が起こった時は・・・すでに僕とヒルダ様は婚約を解消していたので。あの日、ヒルダ様は無理やりグレースに馬車に乗せられて教会に連れて行かれたそうです。そしてヒルダ様の話だと・・・寒くて薪に火をつけた時に誤って床に落としていまい・・火事になったそうなんですが・・・ヒルダ様はマッチなんか持っていなかったんです。持っていたのはグレースたちでした。」

「何だって・・・・?それじゃ・・・ひょとするとヒルダは嘘の証言をしたって事か?でも・・何故ヒルダは彼らを庇ったんだ・・?」

エドガーは何故ヒルダが自分で罪を被ったのかさっぱり理由が分からなかった。

(恐らくヒルダに尋ねても・・絶対に真相は話してくれないだろう・・・。大体事件から2年も過ぎているんだ。ヒルダにしてみれば辛い記憶をわざわざ蒸し返すような真似はしてもらいたくないはずだ・・・。)

「僕が・・・僕がいけなかったんです。いくら婚約を解消されていたからと言って、ヒルダ様にこれ以上嫌われようも、どんなに冷たくされようとも・・もっとちゃんと向き合っていれば・・・話を聞いてあげていれば・・。」

ルドルフは涙ぐみながら自分の心情を吐き出した。

「ルドルフ・・・。こんな事・・・話したくはないかもしれないが・・どうしてヒルダとの婚約を破棄にしたんだ?」

「それが・・・僕にはさっぱり分からないんです・・。ヒルダ様と婚約が決まったあの日・・・少なくとも自惚れではなく、ヒルダ様は僕を好いてくれていると確信がありました・・。それから少しの間・・・僕とヒルダ様は本当に幸せな時間を過ごせていたのに・・・。」

「そうか・・・。」

ヒルダを愛しているエドガーはルドルフの話に胸を痛めながら耳を傾けていた。恋敵ともいえるルドルフの・・ヒルダとの幸せな話など本来なら聞きたくは無かった。しかし、その話の過程で教会焼失事件の何か重要な手掛かりがつかめるのではないかという思いから、エドガーは苦しい胸の内を押さえながらルドルフの言葉を一語一句聞き漏らすまいとしていた。

「けれど・・ある日を境に突然ヒルダ様は・・変わってしまったんです。僕との婚約を破棄したいって・・自分より爵位が高い男の人じゃないと嫌だって・・。」

「え・・・?ヒルダがそんな事を言ったのか?」

エドガーは首をひねった。

「はい。そうです・・・。」

ルドルフは俯く。

「いや・・・まさか、ヒルダが爵位にこだわるとは思えない。ルドルフ、君の事は知ってるよ。もとは平民だったが、父が爵位を買って男爵家になったのだろう?でも・・君の今までの話から考えると、ヒルダは婚約を破棄する為の言い訳として爵位の事を持ち出したとしか思えない。」

「え・・?」

ルドルフは顔を上げてエドガーを見た。

「ルドルフ、よく思い出してくれ。ヒルダが婚約破棄を告げてきた前後に・・何か周りで変化は無かったか?」

「変化・・・あ・・・そう言えば・・その話の直前にグレースがヒルダ様の学校に転校してきました。それからヒルダ様は僕から離れ・・・代わりにグレースが僕に付きまとうようになって・・・。」

「またか・・・。」

エドガーはポツリと呟くように言った。

「え・・?また・・って何でしょう?」

「いや、今までの話の中で必ずグレースの名前が出てくるなと思って・・・。ひょっとするとヒルダの事件の中心人物は・・グレースなんじゃないか・・?」

「・・・!」

(そうだ・・・何故気づかなかったんだろう・・・?グレースはヒルダ様を敵対視していたんだ。ヒルダ様が僕の為に届けてくれたお見舞いの品を隠してしまったあの時から・・!)

ルドルフは全身から血の気が引いていくのを感じた―。
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