157 / 566
第5章 7 ヒルダの夏休み ⑦
しおりを挟む
8月に入り、『カウベリー』から本日は兄のエドガーがやって来る日である。エドガーの滞在日数は前回と同じ2日間。その2日間の間は、ヒルダはアルバイトの休みを貰った。
港町『ロータス』は大都市である。駅もとても大きく、様々な路線の汽車だけでなく、多くの貨物列車も行き交っている。
ヒルダは多くの人々で混雑している駅の改札でエドガーが到着するのを1人で待っていた。
「お兄様、まだかしら・・・。」
ヒルダは駅に設置してある時計を見ながらポツリと呟いた。時計は12時半を指している。本来の予定であれば、エドガーは12時には到着する事になっているのだが、一向に姿を現さない。
「何かあったのかしら・・・。」
不安になり、何度も時計を確認していると突然ポンと背後から軽く肩を叩かれた。
慌てて振り向くとそこにはエドガーが笑みを浮かべて立っていた。
「ごめん。待たせてしまったな。ヒルダ。」
「お兄様。お久しぶりです。」
ヒルダはペコリと頭を下げた。
「お兄様・・・何かあったのですか?」
2人で駅の構内を並んで歩きながらヒルダは尋ねた。
「ああ、それなんだけど・・・途中で汽車が止まったんだよ。何でも信号機の故障とかでね。それでしばらく停止していたんだ。だから・・・ヒルダの事が心配だったよ。」
エドガーはヒルダの頭を撫でながら言う。
「お兄様・・・。」
「こんな事なら駅まで迎えに来るのを断れば良かったかなって。」
「いいえ、そんなわけにはいきません。わざわざ『カウベリー』からお兄様が来てくださるのを・・・家でただ待っているなんて・・・。」
「そうかい、ありがとう。ヒルダ。」
歩きながら2人はいつの間にか駅の構内を出て、メインストリートに出ていた。
「ホテルは前回と同じ場所に宿泊する予定なんだ。」
「え・・?」
エドガーの言葉にヒルダの顔は曇った。
「どうしたんだ?ヒルダ。」
「い、いえ・・・。ただ、あのホテルは・・・。」
ヒルダが言いかけるとエドガーが続けた。
「確かに古くて狭いホテルかもしれないけど・・・それ程悪くはないさ。掃除は行き届いているし、食事もまあまあいけるしな。」
「そうですか・・・。」
するとエドガーが言った。
「ヒルダ。どこかで食事をしよう。お腹空いただろう?」
「はい、お兄様。」
その後、2人はエドガーの宿泊するホテルに隣接するカフェに入り、2人でサンドイッチにレモネードを頼んだ。
窓際のテーブル席に座り、2人でサンドイッチを食べながら色々な話をした。
「そうか、ヒルダは先月また同じ島へ行ったんだな?楽しかったか?」
レモネードを飲みながらエドガーは尋ねた。
「はい、楽しかったです。皆で3泊4日でマイクの別荘に宿泊したんです。」
「え?マイクの・・?」
エドガーがマイクの名前に反応した。
「ヒルダ・・・マイクに何もされなかったか?」
エドガーはレモネードの入ったグラスをテーブルに置くと真剣な顔で尋ねてきた。
「何もって・・程の事ではありませんけど・・・強く右手首を掴まれました。2人で夕日を見に行こうって誘われて・・・。」
「何だって・・・?それでどうした?」
エドガーの顔つきが厳しくなる。
「その時、ステラがやってきてマイクを止めてくれたんです。」
「そうか・・・良かった・・・。」
エドガーは安堵の溜息をついた。
「お兄様・・・?」
「ヒルダ・・・。あの少年にはあまり近づかない方がいい。あの少年は・・・どこか油断が出来ない。いいか?」
「は、はい。」
ヒルダは素直に頷くと、今度はエドガーに尋ねた。
「お兄様は・・・何か変化はありましたか?」
「あ、ああ・・・・。実はね・・先月・・父の勧めで見合いをしたんだ。相手はまだ14歳の・・少女で、伯爵令嬢なんだよ。ヒルダよりも年下なんだけどね・・先方がどうしてもって父に頭を下げて頼んできたそうなんだ・・。」
「まあ、そうだったのですか?どんな方でしたか?」
ヒルダは目を丸くしながら尋ねた。
「そうだね・・・栗毛色の巻き毛の・・・可愛らしい方だったよ。先方がすごく乗り気で・・・仮婚約を結ぶ事になりそうなんだ。」
エドガーは話しにくそうに言う。
「でも、仮でも婚約を結んだのですよね?おめでとうございます。お兄様。」
「・・・。」
エドガーは少しの間、身動きもせず、じっとヒルダを見つめていたが・・やがて口を開いた。
「ありがとう、ヒルダ。」
エドガーはどこか悲し気に笑みを浮かべるのだった―。
港町『ロータス』は大都市である。駅もとても大きく、様々な路線の汽車だけでなく、多くの貨物列車も行き交っている。
ヒルダは多くの人々で混雑している駅の改札でエドガーが到着するのを1人で待っていた。
「お兄様、まだかしら・・・。」
ヒルダは駅に設置してある時計を見ながらポツリと呟いた。時計は12時半を指している。本来の予定であれば、エドガーは12時には到着する事になっているのだが、一向に姿を現さない。
「何かあったのかしら・・・。」
不安になり、何度も時計を確認していると突然ポンと背後から軽く肩を叩かれた。
慌てて振り向くとそこにはエドガーが笑みを浮かべて立っていた。
「ごめん。待たせてしまったな。ヒルダ。」
「お兄様。お久しぶりです。」
ヒルダはペコリと頭を下げた。
「お兄様・・・何かあったのですか?」
2人で駅の構内を並んで歩きながらヒルダは尋ねた。
「ああ、それなんだけど・・・途中で汽車が止まったんだよ。何でも信号機の故障とかでね。それでしばらく停止していたんだ。だから・・・ヒルダの事が心配だったよ。」
エドガーはヒルダの頭を撫でながら言う。
「お兄様・・・。」
「こんな事なら駅まで迎えに来るのを断れば良かったかなって。」
「いいえ、そんなわけにはいきません。わざわざ『カウベリー』からお兄様が来てくださるのを・・・家でただ待っているなんて・・・。」
「そうかい、ありがとう。ヒルダ。」
歩きながら2人はいつの間にか駅の構内を出て、メインストリートに出ていた。
「ホテルは前回と同じ場所に宿泊する予定なんだ。」
「え・・?」
エドガーの言葉にヒルダの顔は曇った。
「どうしたんだ?ヒルダ。」
「い、いえ・・・。ただ、あのホテルは・・・。」
ヒルダが言いかけるとエドガーが続けた。
「確かに古くて狭いホテルかもしれないけど・・・それ程悪くはないさ。掃除は行き届いているし、食事もまあまあいけるしな。」
「そうですか・・・。」
するとエドガーが言った。
「ヒルダ。どこかで食事をしよう。お腹空いただろう?」
「はい、お兄様。」
その後、2人はエドガーの宿泊するホテルに隣接するカフェに入り、2人でサンドイッチにレモネードを頼んだ。
窓際のテーブル席に座り、2人でサンドイッチを食べながら色々な話をした。
「そうか、ヒルダは先月また同じ島へ行ったんだな?楽しかったか?」
レモネードを飲みながらエドガーは尋ねた。
「はい、楽しかったです。皆で3泊4日でマイクの別荘に宿泊したんです。」
「え?マイクの・・?」
エドガーがマイクの名前に反応した。
「ヒルダ・・・マイクに何もされなかったか?」
エドガーはレモネードの入ったグラスをテーブルに置くと真剣な顔で尋ねてきた。
「何もって・・程の事ではありませんけど・・・強く右手首を掴まれました。2人で夕日を見に行こうって誘われて・・・。」
「何だって・・・?それでどうした?」
エドガーの顔つきが厳しくなる。
「その時、ステラがやってきてマイクを止めてくれたんです。」
「そうか・・・良かった・・・。」
エドガーは安堵の溜息をついた。
「お兄様・・・?」
「ヒルダ・・・。あの少年にはあまり近づかない方がいい。あの少年は・・・どこか油断が出来ない。いいか?」
「は、はい。」
ヒルダは素直に頷くと、今度はエドガーに尋ねた。
「お兄様は・・・何か変化はありましたか?」
「あ、ああ・・・・。実はね・・先月・・父の勧めで見合いをしたんだ。相手はまだ14歳の・・少女で、伯爵令嬢なんだよ。ヒルダよりも年下なんだけどね・・先方がどうしてもって父に頭を下げて頼んできたそうなんだ・・。」
「まあ、そうだったのですか?どんな方でしたか?」
ヒルダは目を丸くしながら尋ねた。
「そうだね・・・栗毛色の巻き毛の・・・可愛らしい方だったよ。先方がすごく乗り気で・・・仮婚約を結ぶ事になりそうなんだ。」
エドガーは話しにくそうに言う。
「でも、仮でも婚約を結んだのですよね?おめでとうございます。お兄様。」
「・・・。」
エドガーは少しの間、身動きもせず、じっとヒルダを見つめていたが・・やがて口を開いた。
「ありがとう、ヒルダ。」
エドガーはどこか悲し気に笑みを浮かべるのだった―。
1
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。
そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、
死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。
「でも、子供たちの心だけは、
必ず取り戻す」
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。
それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。
これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
【完結】王妃を廃した、その後は……
かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。
地位や名誉……権力でさえ。
否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。
望んだものは、ただ一つ。
――あの人からの愛。
ただ、それだけだったというのに……。
「ラウラ! お前を廃妃とする!」
国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。
隣には妹のパウラ。
お腹には子どもが居ると言う。
何一つ持たず王城から追い出された私は……
静かな海へと身を沈める。
唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは……
そしてパウラは……
最期に笑うのは……?
それとも……救いは誰の手にもないのか
***************************
こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる