嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第5章 7 ヒルダの夏休み ⑦

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 8月に入り、『カウベリー』から本日は兄のエドガーがやって来る日である。エドガーの滞在日数は前回と同じ2日間。その2日間の間は、ヒルダはアルバイトの休みを貰った。


 港町『ロータス』は大都市である。駅もとても大きく、様々な路線の汽車だけでなく、多くの貨物列車も行き交っている。
ヒルダは多くの人々で混雑している駅の改札でエドガーが到着するのを1人で待っていた。

「お兄様、まだかしら・・・。」

ヒルダは駅に設置してある時計を見ながらポツリと呟いた。時計は12時半を指している。本来の予定であれば、エドガーは12時には到着する事になっているのだが、一向に姿を現さない。

「何かあったのかしら・・・。」

不安になり、何度も時計を確認していると突然ポンと背後から軽く肩を叩かれた。
慌てて振り向くとそこにはエドガーが笑みを浮かべて立っていた。

「ごめん。待たせてしまったな。ヒルダ。」

「お兄様。お久しぶりです。」

ヒルダはペコリと頭を下げた。



「お兄様・・・何かあったのですか?」

2人で駅の構内を並んで歩きながらヒルダは尋ねた。

「ああ、それなんだけど・・・途中で汽車が止まったんだよ。何でも信号機の故障とかでね。それでしばらく停止していたんだ。だから・・・ヒルダの事が心配だったよ。」

エドガーはヒルダの頭を撫でながら言う。

「お兄様・・・。」

「こんな事なら駅まで迎えに来るのを断れば良かったかなって。」

「いいえ、そんなわけにはいきません。わざわざ『カウベリー』からお兄様が来てくださるのを・・・家でただ待っているなんて・・・。」

「そうかい、ありがとう。ヒルダ。」

歩きながら2人はいつの間にか駅の構内を出て、メインストリートに出ていた。

「ホテルは前回と同じ場所に宿泊する予定なんだ。」

「え・・?」

エドガーの言葉にヒルダの顔は曇った。

「どうしたんだ?ヒルダ。」

「い、いえ・・・。ただ、あのホテルは・・・。」

ヒルダが言いかけるとエドガーが続けた。

「確かに古くて狭いホテルかもしれないけど・・・それ程悪くはないさ。掃除は行き届いているし、食事もまあまあいけるしな。」

「そうですか・・・。」

するとエドガーが言った。

「ヒルダ。どこかで食事をしよう。お腹空いただろう?」

「はい、お兄様。」



 その後、2人はエドガーの宿泊するホテルに隣接するカフェに入り、2人でサンドイッチにレモネードを頼んだ。
窓際のテーブル席に座り、2人でサンドイッチを食べながら色々な話をした。


「そうか、ヒルダは先月また同じ島へ行ったんだな?楽しかったか?」

レモネードを飲みながらエドガーは尋ねた。

「はい、楽しかったです。皆で3泊4日でマイクの別荘に宿泊したんです。」

「え?マイクの・・?」

エドガーがマイクの名前に反応した。

「ヒルダ・・・マイクに何もされなかったか?」

エドガーはレモネードの入ったグラスをテーブルに置くと真剣な顔で尋ねてきた。

「何もって・・程の事ではありませんけど・・・強く右手首を掴まれました。2人で夕日を見に行こうって誘われて・・・。」

「何だって・・・?それでどうした?」

エドガーの顔つきが厳しくなる。

「その時、ステラがやってきてマイクを止めてくれたんです。」

「そうか・・・良かった・・・。」

エドガーは安堵の溜息をついた。

「お兄様・・・?」

「ヒルダ・・・。あの少年にはあまり近づかない方がいい。あの少年は・・・どこか油断が出来ない。いいか?」

「は、はい。」

ヒルダは素直に頷くと、今度はエドガーに尋ねた。

「お兄様は・・・何か変化はありましたか?」

「あ、ああ・・・・。実はね・・先月・・父の勧めで見合いをしたんだ。相手はまだ14歳の・・少女で、伯爵令嬢なんだよ。ヒルダよりも年下なんだけどね・・先方がどうしてもって父に頭を下げて頼んできたそうなんだ・・。」

「まあ、そうだったのですか?どんな方でしたか?」

ヒルダは目を丸くしながら尋ねた。

「そうだね・・・栗毛色の巻き毛の・・・可愛らしい方だったよ。先方がすごく乗り気で・・・仮婚約を結ぶ事になりそうなんだ。」

エドガーは話しにくそうに言う。

「でも、仮でも婚約を結んだのですよね?おめでとうございます。お兄様。」

「・・・。」

エドガーは少しの間、身動きもせず、じっとヒルダを見つめていたが・・やがて口を開いた。

「ありがとう、ヒルダ。」

エドガーはどこか悲し気に笑みを浮かべるのだった―。





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