嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
112 / 566

2章 6 ヒルダとカミラ

しおりを挟む
 翌朝―
朝から太陽がさんさんと地上に降り注ぎ、外の雪は大分解けてはいるが、その分道はぬかるんでいる。


「ヒルダ様、本日ご予定は何かありますか?」

朝食を食べ終え、ホットミルクティーをヒルダと飲みながらカミラが尋ねてきた。

「ええ。実は足のマッサージクリームが無くなったから、アレン先生の所へ診察も兼ねて伺おうと思っているの。」

カミラは心配そうに言った。

「ヒルダ様・・・雪解けで外はかなりぬかるんでおります。その足でお出掛けになるのは大変ではありませんか?お薬なら私が仕事の帰りに貰って帰ってきますよ?」

「大丈夫よ、カミラ。このところアパートメントに引きこもりがちだったから、リハビリも兼ねて外に出ないと。ついでにお夕食の買い物をしてくるわ。いざとなったら乗り合い馬車か、辻馬車を使うから大丈夫よ。あ、そうそう。最近は『エンジン』と言うもので走る『バス』っていう乗り物があるらしいわね。まだ見た事はないけど・・乗り心地はどうなのかしら?一度この目で見てみたいわ。」

「そうなんですね・・・最近は便利な世の中になって来たんですね・・。流石は首都『ロータス』ですね。カウベリーでは考えられない・・・。」

そこまで言いかけて、カミラはハッとなって言葉を切った。ヒルダの顔が曇ったからだ。

「も、申し訳ございませんっ!ヒルダ様っ!つ、つい・・・。」

するとヒルダは慌てて言った。

「いいのよ、カミラ。そんな事気にしないで。もうここが私の居場所って決めたんだから・・・。二度と私はあそこには戻るつもりは無いから。」

(だって・・・私が戻っても誰も・・・喜んでくれないわ。お父様も・・・そして町の人達も・・。)

「ヒルダ様・・・。あ、ヒルダ様!いい事を考え付きました。今夜は2人で一緒に外で夕食を食べに行きましょうっ!私、今日お給料日なんですよ?」

「え・・でも、カミラ。それでは・・・。」

するとカミラはヒルダの手を握りしめると言った。

「ヒルダ様、ここはもう以前のヒルダ様を誰も知らない土地なのです。ですから・・堂々としていればいいんです。私は昔のヒルダ様に戻れるのを・・ずっと待っています。ヒルダ様と2人で、遊びに行ったり、食事に出かけたり・・色々な経験をここで体験したいんです。なので、どうかお付き合い下さい。」

「ありがとう、カミラ・・・・。」

ヒルダは胸が熱くなり、カミラの手を強く握り返した。しかし、ヒルダの目から涙が流れる事はない。何故なら・・・カウベリーでヒルダの涙は全て枯れ果ててしまったのだから・・・。


「行ってらっしゃい、カミラ。」

ヒルダはカミラを玄関まで見送ると、カミラは笑顔で手を振り仕事へ向かった。
ドアが閉められ、1人きりになるとヒルダはキッチンへ向かい、後片付けを始めた。
食器を洗い終えると、次はバスルームへ向かい、最近購入した手回し洗濯機で洗濯を始めた。以前は全て洗濯は手洗いだったので、時間もかかるし、手荒れも酷かったが、この手回し洗濯機のお陰で洗濯がとても楽になった。
全ての洗濯を終え、バスルームに洗濯ロープを吊るし、洗い物を全て干した。
時計を見ると早いもので時刻はもう10時になろうとしている。

「私も出かける準備をしなくちゃ。アレン先生の診察時間に間に合わないわ。」

ヒルダはコートを羽織り、帽子にマフラー、手袋に防寒ブーツでしっかり防寒対策をするとショルダーバックを持って玄関を出て戸締りをした。
 ヒルダたちが住むアパートメントはヒルダの足を考慮して2階にある。1階は騒音が酷いと言う事で、カミラの姉夫婦がわざわざ2階の部屋を用意してくれたのだ。

「階段が少なくて助かるわ。冬の日は左脚が痛むもの・・・。」

ホウと白い息を吐きながら外に出てきたヒルダは言った。そしてゆっくりとアレンの診療所目指して歩き始めた—。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...