嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
111 / 566

2章 5 フランシスの来訪

しおりを挟む
17時半―

ヒルダがステラの持って来てくれたノートを見ながらリビングで勉強をしているとガチャリとドアが開く音が聞こえた。

(きっとカミラが帰って来たんだわ。)

「お帰りなさい、カミラ。」

ヒルダが廊下の壁に手を添えながら玄関まで迎えると、カミラがそこに立っていた。

「お帰りさない。カミラ。」

ヒルダが笑みを浮かべて言うと、カミラは微妙な顔つきで言った。

「た、ただいま・・・。」

その様子が普段と異なるので、ヒルダは首を傾げた。

「どうしたの?カミラ。」

「そ、それが・・・。」

すると、突然背後からフランシスが顔をのぞかせた。

「やあ・・・ヒ、ヒルダ・・・。」

「あ・・・貴方は・・。」

(何故?彼がここに・・・?)

ヒルダが怪訝な顔を浮かべるとフランシスが言った。

「い、いや!実は今日、初めて知ったんだ。カミラさんの妹がヒルダだって事を。それで・・道も凍って危ないから俺が馬車で家迄送るってカミラさんに言ったんだよ。」

フランシスはあたふたしながらヒルダに説明した。

「ごめんなさい・・・勝手な事をして・・・。」

カミラは申し訳なさそうに頭を下げる。

(いいのよ、カミラ。気にしなくても・・・。)

ヒルダは心の中で語りかけながらフランシスを見た。

フランシス・ランドルフ。
ヒルダは彼と同じクラスメイトと言うだけで、言葉を交わした事も無い。両親は港にあるレストランを経営していると言う話だが・・ヒルダとカミラはまだ一度もランドルフ家のレストランに足を運んだことは無い。

(でも、まさかカミラが働いている家が・・・彼の屋敷だったなんて・・・世間は何て狭いのかしら・・・。)

その時・・・フランシスの足元から小さな男の子と女の子が現れた。

「「こんにちは!」」

「あ・・こ、今日は。」

咄嗟の事に驚いたヒルダではあったが、2人の幼子に挨拶をした。
すると少女と少年は交互に言う。

「うわあ・・・何て綺麗なお姉ちゃんなんだろうっ!」

「ほんとう・・!まるで天使様みたいだわっ!」

「え・・ええ?て・・天使・・?」

ヒルダはすっかり戸惑ってしまった。今迄一度たりとも人からそのような言われ方をした事は無かったからだ。
しかし・・・他人からはそのような目で見られていたとはヒルダには知る由も無かった。そう、あのルドルフも・・・そして目の前にいるフランシスもヒルダの事を天使の様に美しい少女と思って見つめていたという事を。

ヒルダは2人の少年と少女に言った。

「天使は大袈裟だわ。可愛いお2人さん。姉をわざわざ家まで送ってくれてありがとう。」

ヒルダはフランシスの弟と妹の頭を撫でた。そしてフランシスの顔を見上げた。

「ランドルフさん、姉を馬車で送ってくれて、どうも有難うございました。」

そして頭を下げた。

「い、いや。これ位どうって事無いから・・・。」

フランシスは顔を真っ赤にさせながら言った。

(どうしよう・・・ヒルダと初めて口を利いてしまった・・・!)

フランシスは改めてヒルダを見た。
長く伸びたウェーブのブロンドの髪にブルネットの瞳・・ここまでの美貌を持つ少女をフランシスは今迄知らなかった。
もっと・・・もっとヒルダの事を知りたいと改めて思った。そして気付けば口を開いていた。

「ヒルダッ!お・・・俺は・・・ヒルダがアデルの財布を盗んでいないって事・・・信じてるっ!恐らくクラスの皆・・殆どがヒルダの無実を信じているから・・謹慎処分が明けたら、堂々と学校に来いよ?!」

その勢いに押されたヒルダは目を丸くしながらも言った。

「え、ええ・・・。ありうがとう、ランドルフさん・・。」

「そ、それじゃ・・・俺達はもう帰るから・・・。」

フランシスはぎこちない動きで2人の弟妹を連れて玄関を出て行った。


玄関で2人きりになるとヒルダは言った。

「カミラ、寒かったでしょう?早く部屋に入りましょう?今夜はブイヤベースなのよ。」

そして笑みを浮かべた—。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

処理中です...