上 下
64 / 98

18 あの日の夜のこと

しおりを挟む
「俺が放っていた密偵は女性で、侍女としてミレーユの側に置いていた。あの日はミレーユを幽閉されていた塔から救い出して、俺が馬を連れて城の外で待つことになっていたんだ。それが……事件が起こってしまった」

「事件……? それは私が見た夢……?」

「詳しいことは良く分からないが……多分ユリアナが見た夢の内容と同じなのだろう。あの夜は密偵の手引でミレーユは西門から逃げ出す手配になっていたんだ。俺はじっと門の前で待っていたのだが、いくら待ってもミレーユはやってこない。そのうちに城の内部で激しい炎が吹き上がるのをこの目で見た」

炎……夢の中でミレーユは自分を捕らえようとした近衛兵達に炎を放っていた。その炎をジェイクは目撃したのだろう。

「騒ぎは裏門の方から聞こえてきていたので急いで裏門へ向かった。すると城の騎士達が一斉に森へ向かって走っていく姿が見えたんだ。その様子を見てすぐに気づいた。恐らく彼らはミレーユの姿を追っているのだろうと。だから俺は背後から騎士たちの足を攻撃して、彼女を追えないようにしたんだ……」

ジェイクが眉をしかめる。

「そして闇の中、ミレーユの姿を追っていくと川に出た。丁度月明かりで河原は明るく照らされていたので必死で彼女の姿を捜した。すると遠くの方で川に近付く人物を見つけたんだ。そしてそのまま……その人物は川に落ちてしまった」

「!」

その話に私の肩が跳ねた。ジェイクの話と私が夢で見た内容は一致する。


「ミレーユ姫は森の中をさまよい歩き続けたので、喉がカラカラだったのです。そして川を発見しました。彼女は水を求めるために川へ向かい、川の水をすくって飲もうとしたときに、自分の両手に真っ赤な血がついてることに気付きました」

ポツリと呟くジェイクに私は夢の話をする。

「以前も同じことを話してくれたよな? あの話を聞かされたとき……驚きで平静を装うのに苦労したよ」

ジェイクは苦笑いを浮かべる。

「俺は必死で馬を駆けさせ、川に流されていくミレーユの姿を追った。そして運良く川の中に倒れていた巨木に引っかかり、流されていくのを止められたんだ。そこで急いで川の中に入り、意識の無いミレーユを助け出した。その後、あの隠れ家にそのまま連れて行くことにした」

「そうだったのですか……ではその後、二日間意識を失っていたミレーユ姫がふたたび意識を取り戻した時、目覚めたのは私だったというわけですね?」

「いや、いきなりじゃない」

するとそこで否定するジェイク。

「え? そうなのですか?」

「ああ。ミレーユはあの隠れ家に向かう途中で、目を冷ましたんだ。記憶を失った状態で……」

ジェイクの声は絶望に満ちていた――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

<番外編>政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
ファンタジー
< 嫁ぎ先の王国を崩壊させたヒロインと仲間たちの始まりとその後の物語 > 前作のヒロイン、レベッカは大暴れして嫁ぎ先の国を崩壊させた後、結婚相手のクズ皇子に別れを告げた。そして生き別れとなった母を探す為の旅に出ることを決意する。そんな彼女のお供をするのが侍女でドラゴンのミラージュ。皇子でありながら国を捨ててレベッカたちについてきたサミュエル皇子。これはそんな3人の始まりと、その後の物語―。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈 
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...