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連載
カイザード・アークライト ⑤
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アゼリアが婚約をしたという話を聞いて数日が経過していた。
最近アゼリアの姿を見かけなくなってしまった。アゼリア…一体どうしてしまったのだろう…?僕は彼女のことが気がかりでならなかった。
そんなある日の事―。
昼の休憩時間にどうしても僕は1人で過ごしたくてフレーベル家の裏庭に来ていた。特別に用意してもらったランチボックスを誰もいない静かな場所で食べたかったからだ。
「ベンチは無いかな…」
キョロキョロと辺りを見渡していた時、僕の視線は止まった。
「え…?あれは…?」
そこにいたのはアゼリアだった。彼女はまるで木の陰に隠れるかのように芝生の上に座っていた。
アゼリア…。
どうしても僕は彼女に話しかけたくて、周りに誰かいないか見渡してみた。…幸い、人の気配は無い。そこで僕はゆっくり近付くと声を掛けた。
「アゼリア様?こんなところで何をしているのですか?」
「え?!」
アゼリアはビクリと肩を動かし、恐る恐る僕の方を振り向いた。するとアゼリアの目の周りが赤くなっていた。そして瞳は潤んでいる。
「あ…こ、こんにちは。カイ」
アゼリアは目をゴシゴシこすりながら笑みを浮かべて挨拶してきた。
「ひょっとして…泣いていたのですか?」
「え…?」
途端にアゼリアが困った顔を見せる。しまった!僕は今はただの使用人なのに…伯爵令嬢であるアゼリアに質問してしまった。
「すみません!余計なことを尋ねてしまいました」
慌てて頭を下げる。…本当はアゼリアと対等に話がしたいのに…。僕は自分の置かれている今の立場が呪わしかった。
「いいの、謝らないで。カイ。…泣いていたのは事実だから…」
アゼリアは寂しげに笑った。
「…差し支えなければ…何故泣いていたのか尋ねてもいいですか?あ、でも絶対に誰にも話すつもりはありませんから安心して下さい!」
「…ありがとう。カイは優しいのね。この屋敷で…私に親切にしてくれるのは貴方だけよ」
アゼリアは益々寂しげに笑う。…何故だろう。アゼリアは確か婚約したはずなのに…僕の目に映るアゼリアは少しも幸せそうに見えなかった。
その時―
キュルルル…
小さな可愛らしい音がアゼリアから聞こえてきた。
「え?」
驚いてアゼリアを見ると、何故か真っ赤になってうつむいている。
「アゼリア様…?」
「あ、あの!今のは…どうか聞かなかったことにしてもらえる?」
まさか、ひょっとして…。僕はアゼリアを見つめた。するとアゼリアは僕が何を考えているか分かったのだろう。ますます顔を赤らめながら言った。
「じ、実は…私が個人的に雇っているメイドに…食べ物を買ってきて貰っていたのだけど…だ、駄目にしてしまって…食べられなくなってしまったの。それでお腹が空いてしまって…は、恥ずかしいわ…」
「駄目にしたって…」
そう言えばアゼリアは泣いていた。そしてよくよく見てみると、アゼリアは服の上からでも分かるほど痩せているのが分かった。まさか…!
「アゼリア様…まさか、食べ物を駄目にしたって仰ってましたが、本当は誰かに駄目にされてしまったのではないですか?」
僕の言葉にアゼリアの細い肩がビクリと跳ねた。
「…」
アゼリアは無言でコクリと頷く。なんて事だ…!アゼリアがハイム伯爵の子息と婚約してからは益々彼女に対する当たりが強くなっていることは使用人たちの話で僕の耳にも伝わってきていた。だけど僕はフレーベル家の使用人でもアゼリアとは全く接点がない。彼女はアカデミーへ通う時はフレーベル家の馬車を使わず、アカデミー用の通学馬車に乗っていたからだ。
「アゼリア様、もしよければ僕と一緒にここでお昼を食べませんか?」
「え…?」
アゼリアは顔を上げて僕を見た。神秘的で美しい彼女のグリーンの瞳には…僕の姿をはっきりと映し出していた。
そしてこの日から僕は時々アゼリアとここで会って一緒にお昼を食べるようになった。
少しずつ近付く僕とアゼリアの距離…。
後2年。後2年今の生活を我慢すれば僕は王宮へ戻ることが出来る。
2年後…もし君がまだこの屋敷にいるのなら、その時は僕が…。
僕は密かにその時が来るのを待った。
だけど…ついにあの瞬間が訪れてしまった。
今になって僕は激しく後悔している。
あの時、僕が我慢していれば…アゼリアは今以上に不幸な目に遭わなかったかもしれない―と。
最近アゼリアの姿を見かけなくなってしまった。アゼリア…一体どうしてしまったのだろう…?僕は彼女のことが気がかりでならなかった。
そんなある日の事―。
昼の休憩時間にどうしても僕は1人で過ごしたくてフレーベル家の裏庭に来ていた。特別に用意してもらったランチボックスを誰もいない静かな場所で食べたかったからだ。
「ベンチは無いかな…」
キョロキョロと辺りを見渡していた時、僕の視線は止まった。
「え…?あれは…?」
そこにいたのはアゼリアだった。彼女はまるで木の陰に隠れるかのように芝生の上に座っていた。
アゼリア…。
どうしても僕は彼女に話しかけたくて、周りに誰かいないか見渡してみた。…幸い、人の気配は無い。そこで僕はゆっくり近付くと声を掛けた。
「アゼリア様?こんなところで何をしているのですか?」
「え?!」
アゼリアはビクリと肩を動かし、恐る恐る僕の方を振り向いた。するとアゼリアの目の周りが赤くなっていた。そして瞳は潤んでいる。
「あ…こ、こんにちは。カイ」
アゼリアは目をゴシゴシこすりながら笑みを浮かべて挨拶してきた。
「ひょっとして…泣いていたのですか?」
「え…?」
途端にアゼリアが困った顔を見せる。しまった!僕は今はただの使用人なのに…伯爵令嬢であるアゼリアに質問してしまった。
「すみません!余計なことを尋ねてしまいました」
慌てて頭を下げる。…本当はアゼリアと対等に話がしたいのに…。僕は自分の置かれている今の立場が呪わしかった。
「いいの、謝らないで。カイ。…泣いていたのは事実だから…」
アゼリアは寂しげに笑った。
「…差し支えなければ…何故泣いていたのか尋ねてもいいですか?あ、でも絶対に誰にも話すつもりはありませんから安心して下さい!」
「…ありがとう。カイは優しいのね。この屋敷で…私に親切にしてくれるのは貴方だけよ」
アゼリアは益々寂しげに笑う。…何故だろう。アゼリアは確か婚約したはずなのに…僕の目に映るアゼリアは少しも幸せそうに見えなかった。
その時―
キュルルル…
小さな可愛らしい音がアゼリアから聞こえてきた。
「え?」
驚いてアゼリアを見ると、何故か真っ赤になってうつむいている。
「アゼリア様…?」
「あ、あの!今のは…どうか聞かなかったことにしてもらえる?」
まさか、ひょっとして…。僕はアゼリアを見つめた。するとアゼリアは僕が何を考えているか分かったのだろう。ますます顔を赤らめながら言った。
「じ、実は…私が個人的に雇っているメイドに…食べ物を買ってきて貰っていたのだけど…だ、駄目にしてしまって…食べられなくなってしまったの。それでお腹が空いてしまって…は、恥ずかしいわ…」
「駄目にしたって…」
そう言えばアゼリアは泣いていた。そしてよくよく見てみると、アゼリアは服の上からでも分かるほど痩せているのが分かった。まさか…!
「アゼリア様…まさか、食べ物を駄目にしたって仰ってましたが、本当は誰かに駄目にされてしまったのではないですか?」
僕の言葉にアゼリアの細い肩がビクリと跳ねた。
「…」
アゼリアは無言でコクリと頷く。なんて事だ…!アゼリアがハイム伯爵の子息と婚約してからは益々彼女に対する当たりが強くなっていることは使用人たちの話で僕の耳にも伝わってきていた。だけど僕はフレーベル家の使用人でもアゼリアとは全く接点がない。彼女はアカデミーへ通う時はフレーベル家の馬車を使わず、アカデミー用の通学馬車に乗っていたからだ。
「アゼリア様、もしよければ僕と一緒にここでお昼を食べませんか?」
「え…?」
アゼリアは顔を上げて僕を見た。神秘的で美しい彼女のグリーンの瞳には…僕の姿をはっきりと映し出していた。
そしてこの日から僕は時々アゼリアとここで会って一緒にお昼を食べるようになった。
少しずつ近付く僕とアゼリアの距離…。
後2年。後2年今の生活を我慢すれば僕は王宮へ戻ることが出来る。
2年後…もし君がまだこの屋敷にいるのなら、その時は僕が…。
僕は密かにその時が来るのを待った。
だけど…ついにあの瞬間が訪れてしまった。
今になって僕は激しく後悔している。
あの時、僕が我慢していれば…アゼリアは今以上に不幸な目に遭わなかったかもしれない―と。
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