余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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カイザード・アークライト ④

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 クリスマスのあの一件以来…僕はいつの間にか自然とアゼリアの姿を目で追いかけるようになっていた。毎朝アゼリアがアカデミーへ行く時間に僕はわざと厩舎の外で馬の手入れをするようにしていた。そうすれば必ず彼女に会うことが出来たから。アゼリアはそんな僕を見て笑顔で笑いかけてくれる。そして僕も笑顔で応える。決して互いに手を振ったりなどはしない。何故ならアゼリアに言われていたからだ。

『どうか私には構わないで。もし誰かに見られたら私もカイもただではきっとすまないだろうから』

確かに何か事件を起こしてしまえば、僕の立場は危ういものになる。けれどもそれ以上にアゼリアが罰を受けるほうが余程嫌だった。だから僕とアゼリアは視線を交わすだけ…ただそれだけの事だった。そしてその関係はアゼリアがアカデミーを卒業するまで続く事になる―。


****

 それはアゼリアがアカデミーを卒業する年の事だった。使用人達の食堂で昼食を食べていた時、僕の背後から突然メイド達の会話が飛び込んできた。

「ねぇ、聞いた。アゼリアの話」
「ええ。聞いたわ。例の話でしょう?」

「…」

まただ。ここフレーベル家の使用人たちはアゼリアの事を陰で平気で呼び捨てにしている。何故、そこまで酷い態度を取れるんだ?いくらアゼリアが養女だとしても彼女はれっきとしたフレーベル家の伯爵令嬢なのに…!だけど、それ以上に今はメイドたちの会話の方が気になった。一体アゼリアについて何の話をしているのだろうか…?

すると別のメイドの声が聞こえた。

「何々?アゼリアがどうしたって言うのよ」
「え?やだ、あんた知らないの?アゼリアが婚約したって話」

「!」

何だってっ?!アゼリアが…?
僕はその話を耳にした時、自分でも驚くほど動揺していることに気付いた。

「え?誰と婚約したのよ!そんな相手アゼリアにいたの?」

そうだ、一体誰なんだ?アゼリアが婚約した相手っていうのは…。

「何でもアカデミーの先生のご子息らしいわよ?確か…ハイム伯爵家だったかしら」

「そう言えば、生意気にもあの女…頭が良かったみたいだしね」

生意気?どうしてこのメイドたちはそんな偉そうな口を叩けるのだろう?それなら自分たちはアカデミーへ入学できる頭脳を持っているとでも言いたいのか?
メイドたちの話はまだ続く。

「だけど、旦那様も奥様も、モニカ様もその婚約を認めたくないそうよ」

「まぁ、そうでしょうね~…何しろモニカ様は頭が悪すぎて貴族界から爪弾きにされてるってもっぱら噂されているものね」

「だから奥様言ってたわよ。絶対に2人の婚約の話を潰してやるって。ここだけの話だけどね…どうやらアゼリアの婚約者を奪って、モニカ様の婚約者にしたいみたいなのよ」

モニカ…あの我儘令嬢を婚約者にするつもりなのか?だけど…そううまくいくとは思えないけどな…。

その時―。

「おい、カイ。いつまで食事してるんだ?そろそろ休憩時間も終わりだ、早く食っちまえよ」

一緒に昼休憩に入っていたロイ先輩に声を掛けられて僕は我に返った。

「あ、す・すみません」

慌てて、残りの食事を終えると僕は空になった食器を持って立ち上がった。


アゼリア…本当に君は婚約したのかい…?

彼女に直接確認してみたい。尤も…確認してそれが真実だとしても、今の僕にはどうすることも出来ないのだけど…。


何故か分からないけど、胸の奥がズキリと傷んだ―。






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