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第53話 愛しい気持ち
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「あ…に、兄さん。おはよう、帰ってきてたんだ?」
セシルは歯切れ悪そうにフィリップに挨拶をした。
「そうだよ、たった今帰ってきたところなんだけど…ダイニングルームの前を通った時にセシルの声が聞こえたから覗いてみたんだよ。扉も開いていたし」
そしてチラリとフィリップは私を見た。
フィリップ…帰ってきてくれたのね?
ほんの数日しかフィリップと顔を合わせていないのに、もう随分会っていないような感覚を覚えていた。
フィリップ…私、貴方に伝えたいことが山程あるの。
「お帰りなさい、フィリップ。貴方が帰ってくるのを待っていたわ」
立ち上がり、笑みを浮かべてフィリップを見た。
「…」
するとフィリップは何故か戸惑った様子で私を見つめる。
「フィリップ?」
「いや、何でも無い。2人で食事を続けるといいよ。僕は外で朝食を食べてきたから。それじゃ」
そのまま出ていこうとするフィリップを私は呼び止めた。今までの私では考えられない行動だった。
「待って、フィリップ」
「何?」
セシルがいる手前だから私を邪険に扱えないのか、フィリップは振り向いた。
「後で…2人きりで大切な話がしたいの。時間…取ってもらえるかしら?」
「大切な話…?いいよ、分かった。それじゃ…場所は…」
「私の部屋に来て貰いたいの」
フィリップに場所を決められる前に素早く言った。
「え…?エルザの部屋に…?」
フィリップは少しだけ考え込む様子をみせると、私を見た。
「いいよ。それじゃ9時になったら君の部屋へ行くよ」
「…ありがとう、フィリップ」
「別にお礼は言わなくてもいいよ。セシル、時間になったら悪いけど先に仕事を進めておいてくれるかな?僕は…」
「いいよ、エルザと話があるんだろう?別に今任されている仕事は俺1人でも進められるから2人でゆっくり話をすればいいさ」
「…すまないね。それじゃエルザ。また後で」
「ええ。また後で…」
フィリップは私の返事を聞くと、今度こそ立ち去って行った。
「ふぅ~…」
小さくため息をつくと、私は椅子に座り込んだ。
言えた…。
結婚して初めて自分の言いたいことをフィリップに…。
今までの私では考えられないことだった。これまでの私は彼に嫌われたくない為に出来るだけフィリップから距離を置こうとしていた。
彼の真意を知ろうともせずに。
でも…今なら何となく分かる。彼が頑なに私を拒絶し、距離を置こうとしているのには何かしらの事情があるからだと。
フィリップは重大な何かを隠している。私は彼の心が知りたい。
さっき、数日ぶりに彼を見た時…どうしようもない愛しさがこみ上げてきた。
やっぱり私はフィリップのことを愛しているのだということに改めて気付いた。
離婚なんかしたくない。
ずっとフィリップの側に置いてもらいたい。
その為に…話し合いをするのだ。
「エルザ」
不意に声を掛けられ、我に返った。顔を上げると、そこには私をじっと見つめるセシルの姿がそこにあった。
「あ…セシル」
いけない。フィリップの顔を見てから…私はすっかりセシルの存在を忘れてしまっていた。
「ご、ごめんなさい。セシル。ぼ~っとしてしまって」
慌ててセシルに笑みを向ける。
「やっぱり…か…」
セシルがポツリと言う。
「え?セシル?今何て言ったの?」
「いや、やっぱりエルザは兄さんの事が好きなんだなって思っただけさ」
「それは…そうよ。だって子供の頃からずっと好きだったんだから…」
何故セシルはそんな事を聞くのだろう?彼だって私の気持ちを知っているくせに。
「全く、のろけてくれるよな?」
セシルは笑って私に言うものの…気のせいだろうか?
何処か寂し気に見えるのは―。
セシルは歯切れ悪そうにフィリップに挨拶をした。
「そうだよ、たった今帰ってきたところなんだけど…ダイニングルームの前を通った時にセシルの声が聞こえたから覗いてみたんだよ。扉も開いていたし」
そしてチラリとフィリップは私を見た。
フィリップ…帰ってきてくれたのね?
ほんの数日しかフィリップと顔を合わせていないのに、もう随分会っていないような感覚を覚えていた。
フィリップ…私、貴方に伝えたいことが山程あるの。
「お帰りなさい、フィリップ。貴方が帰ってくるのを待っていたわ」
立ち上がり、笑みを浮かべてフィリップを見た。
「…」
するとフィリップは何故か戸惑った様子で私を見つめる。
「フィリップ?」
「いや、何でも無い。2人で食事を続けるといいよ。僕は外で朝食を食べてきたから。それじゃ」
そのまま出ていこうとするフィリップを私は呼び止めた。今までの私では考えられない行動だった。
「待って、フィリップ」
「何?」
セシルがいる手前だから私を邪険に扱えないのか、フィリップは振り向いた。
「後で…2人きりで大切な話がしたいの。時間…取ってもらえるかしら?」
「大切な話…?いいよ、分かった。それじゃ…場所は…」
「私の部屋に来て貰いたいの」
フィリップに場所を決められる前に素早く言った。
「え…?エルザの部屋に…?」
フィリップは少しだけ考え込む様子をみせると、私を見た。
「いいよ。それじゃ9時になったら君の部屋へ行くよ」
「…ありがとう、フィリップ」
「別にお礼は言わなくてもいいよ。セシル、時間になったら悪いけど先に仕事を進めておいてくれるかな?僕は…」
「いいよ、エルザと話があるんだろう?別に今任されている仕事は俺1人でも進められるから2人でゆっくり話をすればいいさ」
「…すまないね。それじゃエルザ。また後で」
「ええ。また後で…」
フィリップは私の返事を聞くと、今度こそ立ち去って行った。
「ふぅ~…」
小さくため息をつくと、私は椅子に座り込んだ。
言えた…。
結婚して初めて自分の言いたいことをフィリップに…。
今までの私では考えられないことだった。これまでの私は彼に嫌われたくない為に出来るだけフィリップから距離を置こうとしていた。
彼の真意を知ろうともせずに。
でも…今なら何となく分かる。彼が頑なに私を拒絶し、距離を置こうとしているのには何かしらの事情があるからだと。
フィリップは重大な何かを隠している。私は彼の心が知りたい。
さっき、数日ぶりに彼を見た時…どうしようもない愛しさがこみ上げてきた。
やっぱり私はフィリップのことを愛しているのだということに改めて気付いた。
離婚なんかしたくない。
ずっとフィリップの側に置いてもらいたい。
その為に…話し合いをするのだ。
「エルザ」
不意に声を掛けられ、我に返った。顔を上げると、そこには私をじっと見つめるセシルの姿がそこにあった。
「あ…セシル」
いけない。フィリップの顔を見てから…私はすっかりセシルの存在を忘れてしまっていた。
「ご、ごめんなさい。セシル。ぼ~っとしてしまって」
慌ててセシルに笑みを向ける。
「やっぱり…か…」
セシルがポツリと言う。
「え?セシル?今何て言ったの?」
「いや、やっぱりエルザは兄さんの事が好きなんだなって思っただけさ」
「それは…そうよ。だって子供の頃からずっと好きだったんだから…」
何故セシルはそんな事を聞くのだろう?彼だって私の気持ちを知っているくせに。
「全く、のろけてくれるよな?」
セシルは笑って私に言うものの…気のせいだろうか?
何処か寂し気に見えるのは―。
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